ウクライナ生まれの名手スヴャトスラフ・リヒテルによるバッハ「平均律クラヴィーア第1集・第2集」をアマゾンでMP3データをオンライン購入した。今年は第1集発表から300年の当たり年だが、その価格なんと20円だと。
東西対立時代の東側のエースピアニストが奏でる通称「ピアノの旧約聖書」である。例えようもなくシンプルだがこの上なく緊張感にあふれた4時間半の名演を商品価値20円とは見限ったもんだなアマゾン。
昔のLPなら3枚組2セットという大作。居ずまいを正して聴くべきやつだ。レジ脇のチョコ一つ買えない値段でCDなら4枚分の名曲名演がひとかたまり手に入っても、お得じゃんと素直には喜べぬ。
プライスレスというのはそんな意味じゃない。ギャルソンさんに1セントのチップを置くのは不満の意思表示、客からの宣戦布告だぞアマゾン。もはやバッハにもリヒテルにもファンに対しても失敬だ。
次の休みにカーステレオに持ち込んでみた。仙台から気仙沼・唐桑まで往復してもまだリヒテルはピアノを弾いている。ヨロレイヒーなレジ脇チョコなら信号二つで溶けちゃうさ。
艾(もぐさ)の字から草かんむりを取ったような需要供給価格のグラフが心をよぎる。そのグラフで全部計れるはずはあるまいよ。