レビュー・レコメンド

『俺がハマーだ!』の呪縛、あるいは坂元裕二との因縁

―素晴らしき日々(The Wonder Years)

高熊 洋平(書本&cafe magellan 店長)

 この夏(2022年)は、ドラマ『初恋の悪魔』に入れあげていた。坂元裕二の脚本は言わずもがな、林遣都の怪演からも目が離せなかった。

 TVドラマを追いかけ始めたのはここ最近。30年ぶりになるかしら。そうはいってもせいぜい年に1、2本ぐらいだけれど。

 小学生の頃はよほど暇を持て余していたのか、週にいくつも掛け持ちして見ていた。友人宅まで毎週押しかけたりして。我が家のテレビには難があって、受信できないチャンネルがあったのだ。そこで出会ったのがアメリカのドラマ『俺がハマーだ!』だった。刑事もののパロディだ。破天荒な脚本もさることながら、それにもまして吹き替え声優のアドリブが痛快だった。悪ノリの度が過ぎるのだ。友人と涙目になりながら全力で画面にツッコミを入れた。かけがえのない時間だった。そういえば、律儀な友人はギャグを一つとして見過ごすことなく、穏やかだが的確にパロディの元ネタで応戦していた。『ダーティハリー』を教えられたのも彼からだった。

 ところが中学に上がり交友関係が変わったりして、『東京ラブストーリー』が学校中を賑わせた頃には彼との接点はなくなってしまった。たまにすれ違っても彼は孤高を保っていた。もとより硬派だったから恋愛ものなんて見向きもしなかったろうが。

 かたやぼくはというと調子よく周りに話を合わせていた。そのドラマが実は受信できないチャンネルで放送されていたのに。もっとも見ていなくても支障はなかった。大抵はドラマの内容なんてそこそこに、別の話題に逸れてしまったから。多分その頃だ、ドラマから離れてしまったのは。

 遅まきながら今頃になって坂元脚本の作品を遡るようになった。でも『東京ラブストーリー』だけは未だに手をのばせないままだ。友人と見た『俺がハマーだ!』があまりに眩しすぎるのかもしれない。

『俺がハマーだ!』(原題:Sledge Hammer!)
1986年から1988年までアメリカで放送されたテレビドラマ。サンフランシスコ市警察に勤務する問題刑事のスレッジ・ハマーが、女性刑事のドリー・ドローと警察署長エドモンド・トランクとともに事件を解決していく様子をコメディタッチで描く。日本では、第1シリーズが1987年に放送された。

掲載:2022年10月6日

【レビュー・レコメンドとは】
仙台に暮らし、活動するさまざまな方に、「人生の一番/最近の一番」を教えていただく企画です。

高熊 洋平 たかくま・ようへい
1977年富山市生まれ。東北大学文学部哲学科卒。2001年に宮城県図書館に就職するも2年で退職。その後準備期間を経て2007年に古本屋「書本&cafe magellan (マゼラン)」を開業し今に至る。