【new】代役16人でも幕をあける歌舞伎の意地『八月納涼歌舞伎』

8月23日新幹線に飛び乗った、その舞台をみるために。

すずき佳子(学芸員 伝統芸能愛好家)

 今年(2022年)の8月の歌舞伎座で、コロナ陽性者や濃厚接触者が出て、全三部総勢16人が代役で幕を開けるという報が届いた。第一部は手塚治虫の漫画『新選組』が原作の新作で、主演は若い役者に当てて書かれていたが、それを格上ながら今回は脇役に回っていた中村七之助と勘九郎が急きょ代役で務めるという。他部演目でも主役級が抜けた穴を、意表を突いた代役などで埋めて、さらにそれを埋める代役がパズルの様に配され演出も変更された。窮状の中、策を講じた座頭は四代目市川猿之助だ。たった数日間のレアな舞台。う、見たい… 気がつけば直近の休日の切符をポチっていた。

 全てはコロナのせいだ。いやその前から大変だったのだ、伝統芸能は。役者や劇場も大変だが、地方(じかた・演奏家)や大道具などの裏方も舞台が開かなければ仕事にならない。それを支える関連産業だってどこも零細で、コロナのずっと前から後継者不足・材料調達の困難と問題が山積みだったのだ。コロナ禍がトリガーとなり、大手三味線メーカー廃業の話も浮上した。芸や技の継承はどうなってしまうのか。

 「とにかく幕を開ける」と決めたその舞台、私が拝見できたのは第一・三部だったけれど、どれもとても代役とは思えない見事なものだったし、代役だからこそ面白さが増したとも感じられるもので、歌舞伎という芸能の圧倒的な底力を思い知らされた。そしてこの熱量にファンが応えるには遠くても劇場に足を運ぶこと以外にはないのである。とは言うものの、周到に遠征の計画をたてながら中止という経験も一度二度ならず、気持ちが萎えないかと言えば、正直ツライ。コロナに怯えない日が心から待ち遠しい。

歌舞伎座『八月納涼歌舞伎』
【第一部】
一、新選組
二、闇梅百物語

【第二部】
一、安政奇聞佃夜嵐
二、澤瀉十種の内 浮世風呂

【第三部】
東海道中膝栗毛 弥次喜多流離譚(やじきたリターンズ)


<レビュアー・レコメンダー>

すずき佳子
広告会社・美術館勤務等を経て、現在は東北福祉大学「鉄道交流ステーション」に勤務。宮城県美術館現地存続運動記録集『みんなでまもった美術館』の編集、長編紙芝居『猫三味線』、『蛇蝎姫と慙愧丸』の制作に関わる。


【レビュー・レコメンドとは】
仙台に暮らし、活動するさまざまな方に、「人生の一番/最近の一番」を教えていただく企画です。