「あなた、まるで空気と戦っているみたいね」
―フランツ・カフカ『城』宿屋の女将のセリフ

斎藤 潤さん(元「駄菓子屋よしぎん」店主/よしぎのプロとザ利光組)

 中学を卒業して、ペンキ屋に就いたけどやめて、ぶらぶらしていたら、カレー屋の社長に拾われて。30年前の話だけど、13万円位は給料をもらっていたんじゃないかな。当時、国分町にはタバコ屋がたくさんあり、そこでフランス産の「ジタン」なんかを買ってかっこつけていた。アニメ『紅の豚』の豚が吸っているやつ。そんな風にチンタラ暮らしていたらカレー屋も潰れちゃって、退職金がわりのカレーのルーを食べていた時、俺の人生終わっているなと思った。中学まではわりと楽しく暮らせていたのにな~。
 職安に行って日雇いの仕事をしながら、けっこう楽しんだ。ただ、友達や同級生に今の俺はどう思われているのかな~と思うと、なんだか自分の事を人に喋るのが恥ずかしい。周りの息くさい親父たちとどう過ごせば青春になるのだろうと、そんな悩みをずっと抱えて過ごす毎日だった。
 日雇いのない日は図書館に1日いた。夏は涼しく、冬は暖かい。職安通いの連中と話し終わりタバコも吸い飽きたら本を読んだ。俺は本を読むのがわりと早くて、山本周五郎全集なんてほとんど読んだ。
 本当はカフカの『城』を読んだ時の話をしようと思ったんだった。測量士Kが自信を削がれ、彼女のフリーダにも振られ、それでも頑張っている途中に宿屋の女将さんに言われた一言「あなた、まるで空気と戦ってるみたいね」。これが、人生において《胸に響いて残ったセリフ》。俺もまだ人生を諦めてなかったんだった。
 「まるで空気と戦っているみたいね」と書いたTシャツも作った。それを売る店をはじめた。Tシャツだけじゃ食えないだろと、駄菓子を店先に並べた。Tシャツは売れないけど、駄菓子は売れて混雑している。しかたがないので駄菓子屋になった。それを、まるで空気と戦うように20年続けた。駄菓子の純利益なんて世間からみたら空気みたいなものだ。かわりに仲良くなった常連との思い出がたくさん残っていた。

駄菓子屋をしながら副業で書いていた絵

<レビュアー・レコメンダー>

斎藤 潤(さいとうじゅん)
元「駄菓子屋よしぎん」店主。現在は休業中だが再開の予定。現在は、モノづくりや植木管理など様々なオーダーに応える「よしぎのプロとザ利光組」として活動。仙台市宮城野区在住。


【レビュー・レコメンドとは】
仙台に暮らし、活動するさまざまな方に、「人生の一番/最近の一番」を教えていただく企画です。