まちを語る

その32 遠藤 瑞知(仙台セントラルホール元支配人)

その32 遠藤 瑞知(仙台セントラルホール元支配人)

宮沢橋~愛宕神社~虚空蔵尊
仙台ゆかりの文化人が、街を歩きながらその地にまつわるエピソードを紹介する「まちを語る」シリーズ。今回は街なかの映画館・仙台セントラルホールの元支配人の遠藤瑞知(えんどうみずとも)さん。
仙台をこよなく愛する瑞知さんの「気持ちいい場所」をご案内いただきました。
『季刊 まちりょく』vol.32掲載記事(2018年9月20日発行)※掲載情報は発行当時のものです。

宮沢橋

家を探している時に紹介された広瀬川沿いの物件。尊敬するさとう宗幸さんの「青葉城恋唄」、小学時代のヒーローだった落語家・林家三平の住まいと同じ町名「根岸」に運命を感じたそう。「ご縁」はのがしません。
▲家を探している時に紹介された広瀬川沿いの物件。尊敬するさとう宗幸さんの「青葉城恋唄」、小学時代のヒーローだった落語家・林家三平の住まいと同じ町名「根岸」に運命を感じたそう。「ご縁」はのがしません。
 連日の暑さ続く中、一息つける曇り空の日。本日は宮沢橋のたもとからスタート。挨拶が終わるやいなや「ここは雀がよく見える場所なんですよ」「この桜、立派でしょう。〈我が家の桜〉と勝手に言って愛でています」と、たちまち瑞知さんのペースにひきこまれます。
 広瀬川沿いの遊歩道は瑞知さんの通勤路。自転車で走りながら季節の移り変わりを楽しみます。平行して国道が走りますが、車の喧噪は聞こえず、かわりに鳥のさえずりや川のせせらぎが耳に優しく届きます。歩いて初めてわかる、まちの姿です。
劇団I.Q150主宰の丹野久美子さんに「はめられて」杜の都の演劇祭に出演したことも。「丹野久美子さんは〈欽ちゃん〉。素人を出して、想定外の愉快を見い出します」。(杜の都の演劇祭「イサムよりよろしく」2014年1月)
▲劇団I.Q150主宰の丹野久美子さんに「はめられて」杜の都の演劇祭に出演したことも。「丹野久美子さんは〈欽ちゃん〉。素人を出して、想定外の愉快を見い出します」。(杜の都の演劇祭「イサムよりよろしく」2014年1月)
 瑞知さんは今年6月に惜しまれつつ閉館した映画館・仙台セントラルホールの支配人でしたが、その他にもラジオのパーソナリティ、まち歩き案内人、杜の都の演劇祭制作スタッフ、元青葉まつり専任委員など、多彩な顔をお持ちです。自称「ミーハー」。色々なことを少しずつ「点」で覚えるのが好きで、「あれ」と「これ」をつなげると面白いのでは?と「妄想」を膨らませるのが楽しいと笑います。
 日頃もルーティンに縛られないよう、意識的に色々なことを選択するよう心掛けているとのこと。引き出しが多い理由はこのあたりにありそうです。
昔、飼っていた猫が台所に抜けるところでいつも寝ていて邪魔だと思っていたそう。後から、そこは風と気が通る“気”持ちいい場所だと知った。「僕ら人間も、そんな本能的に“気”持ちいい場所に“気”づくことが大切」。
▲昔、飼っていた猫が台所に抜けるところでいつも寝ていて邪魔だと思っていたそう。後から、そこは風と気が通る“気”持ちいい場所だと知った。「僕ら人間も、そんな本能的に“気”持ちいい場所に“気”づくことが大切」。
 日常にある「違和感」にも敏感。学生時代の通学路途中の通りにくい三角地帯を「めんどくさい」と感じていましたが、大人になり、まち歩きの師匠・木村浩二さん(元仙台市文化財課職員)に聞いてみると、昔のまちなみが関係していることがわかり、「めんどくさい」には理由があるのだ、面白い!と思ったそう。「僕はめんどくさいことから何かを見つける専門家」と胸を張ります。

愛宕神社~虚空蔵尊

 徹夜で開催準備に奔走した「青葉まつり」は、勤務先だった「菓匠三全」の業務で関わったのがきっかけでした。それまではほとんど興味を持たなかったそうですが、各地に出向き、祭りの先達から話を聞いて学ぶうちに楽しくなり、どうしたら面白くなるかと、のめり込んでいきました。頑張る大人の背中を子どもたちに見せることができる「祭り」はとても大切だと言います。
「愛宕神社」内にある「稲荷神社」の祠。「青葉まつり」ガイドブック制作時、祭りの歴史について郷土史家の逸見英夫(へんみひでお)先生に教えを乞うことに。「表向きの歴史は行儀良くてつまらない。男と女が歴史を作るんだから、ピンク色した歴史が面白いのっしゃ。今度、教えっから」。楽しみにしていましたが、その直後先生は亡くなられ話は聞けず仕舞いに。「逸見先生はまち歩きに興味を持つきっかけになった僕のヒーロー」。
▲「愛宕神社」内にある「稲荷神社」の祠。「青葉まつり」ガイドブック制作時、祭りの歴史について郷土史家の逸見英夫(へんみひでお)先生に教えを乞うことに。「表向きの歴史は行儀良くてつまらない。男と女が歴史を作るんだから、ピンク色した歴史が面白いのっしゃ。今度、教えっから」。楽しみにしていましたが、その直後先生は亡くなられ話は聞けず仕舞いに。「逸見先生はまち歩きに興味を持つきっかけになった僕のヒーロー」。
 「愛宕神社」への急な石段を上り、その奥にある「虚空蔵尊(こくうぞうそん)」へ。20代半ばに交通事故に逢い、仕事でミスも。厄落としを思い立ち、東北学院大学近くの神社を訪れたところ、見知らぬ女性から「もっと早くこなくちゃだめ。神様は夕方5時になったら帰るんだから」とダメ出しを受けたそう。その時、自分の生まれ年(寅年)の守り本尊があることを教えてもらい、訪れたのがここ「虚空蔵尊」でした。以来大切な場所に。風の通る「気」のいい場所です。
虚空蔵尊からの眺め。「まるで飛び出す絵本を開いたようでしょ。ひな壇みたい。これが〈オール仙台〉」。
▲虚空蔵尊からの眺め。「まるで飛び出す絵本を開いたようでしょ。ひな壇みたい。これが〈オール仙台〉」。
 映画館の仕事が一区切りした瑞知さんに、今後のプランを伺ってみると、以前開催した「まなびにキーノ」をやりたいとのこと。これは様々なテーマで専門家をお呼びし、瑞知さんがインタビュアーとなり、知らないこと、知りたいことを教えてもらうというプログラム。あるようで、なかなかないスタイルです。「専門家に教えてもらうのは、知りたいことがすぐわかって楽ちん。興味がどんどん広がる。質問できるってすごく楽しいよね」と眼を輝かせます。「教えてもらった時の楽しさや感動を伝えたい」という瑞知さん。好奇心の種をまいていきたいと、先を見据え意欲満々です。

自分の物差し(基準)を持てると、比較して考えられる。他の街を観光していても「仙台だとこうなっているけど~」と比べて考えるとわかり易い。
▲自分の物差し(基準)を持てると、比較して考えられる。他の街を観光していても「仙台だとこうなっているけど~」と比べて考えるとわかり易い。

掲載:2018年9月20日

写真/佐々⽊隆⼆

遠藤 瑞知 えんどう・みずとも
1962年、宮城県仙台市生まれ。東北学院大学卒業。さとう宗幸さんが設立した「株式会社T.A.P.」でCM製作、イベント企画を経て、「菓匠三全」で広報を担当。退職後、今年6月まで街なかの映画館・仙台セントラルホール(旧桜井薬局セントラルホール)の支配人をつとめる。元青葉まつり協賛会事務局専任委員。NHK仙台「てれまさむね」の「てれまさんぽ」のお散歩人やJ:COM仙台キャベツの映画紹介、『仙台っこ』で映画コラムなどを担当。「ミーハー」映画批評家、まちあるきお散歩人。現在TBCラジオ「日曜マルシェ」パーソナリティ、KHB「夕方Liveキニナル」城下町の秘密を歩く案内人として活躍。