その31 澤野 正樹(演出家・劇作家)

その31 澤野 正樹(演出家・劇作家)

陸奥国分寺薬師堂~三百人町~六十人町~文化町~卸町
仙台ゆかりの文化人が、街を歩きながらその地にまつわるエピソードを紹介する「まちを語る」シリーズ。今回は2011年4月に結成された「劇団 短距離男道ミサイル」の総合演出を手がける澤野正樹(さわのまさき)さん。今年3月、若手演出家コンクール2017で東北初の最優秀賞と、観客賞のダブル受賞をされました。東京・仙台公演も迫る多忙な中、澤野さんお気に入りの公園巡りを楽しみました。
『季刊まちりょく』vol.31掲載記事(2018年6月20日発行)※掲載情報は発行当時のものです。
写真/佐々⽊隆⼆

陸奥国分寺薬師堂

気になる公園の一つで。「今年初めて『さくらきれい』って言ったんです。どれだけ覚えていられるかわからないけど、子どもが初めて言ったことばって感動的ですね」。
▲気になる公園の一つで。「今年初めて『さくらきれい』って言ったんです。どれだけ覚えていられるかわからないけど、子どもが初めて言ったことばって感動的ですね」。
 待ち合わせの地下鉄東西線「薬師堂」駅前。暖かな陽射しに桜が揺れる中、2人乗りの自転車で登場した澤野さん。前の座席にはおかっぱ頭のかわいい息子さん「弦ちゃん」が。今回はご近所にある小さな公園をご案内いただくことになりました。
「多感な時期に、土方巽の〈暗黒舞踏〉の写真集に出合い心が振れました。秋田出身の土方の作品から漂うメイドイン東北の空気感が、自分の感性にしっくり合った気が」。その頃から「東北」での表現を考えるようになったそう。
▲「多感な時期に、土方巽の〈暗黒舞踏〉の写真集に出合い心が振れました。秋田出身の土方の作品から漂うメイドイン東北の空気感が、自分の感性にしっくり合った気が」。その頃から「東北」での表現を考えるようになったそう。
 スタート地点の陸奥国分寺薬師堂の境内は広々と気持ちのよい空間で、毎月8日には「お薬師さんの手づくり市」が立ち、よく訪れる場所とのこと。「おっきい抱っこ~(肩車)」とせがむ弦ちゃん。お父さんと一緒に過ごせるのが、嬉しくてたまらない様子です。
「まだまだ若い集団なので、仙台の演劇シーンを築いてきた先輩方に今の僕らの作品を観ていただき、叱咤激励いただきたいですね」と、世代を超えた交流にも意欲的。
▲「まだまだ若い集団なので、仙台の演劇シーンを築いてきた先輩方に今の僕らの作品を観ていただき、叱咤激励いただきたいですね」と、世代を超えた交流にも意欲的。
 秋田出身の澤野さんは幼いころから舞台に立つことが大好き。高校の演劇部で「高校演劇」を謳歌します。活動の喜びはあったものの、何か物足りなさを感じていた折、秋田県南地区の社会人劇団と高校演劇部合同のプロデュース公演に参加。そこで演劇の持つ豊かさに触れ、世界が広がったといいます。東北大学進学後は学友会演劇部に所属し、2年生の頃からは他の劇団にも参加するように。仙台を代表する劇団の一つだった「きらく企画」の作品『ブラフマン』で小劇場演劇の魅力にはまり、卒業後も演劇を続ける覚悟を固めます。しかし卒業4日後に東日本大震災に見舞われ、決まっていた公演が軒並み中止に。そんな逆境の中、誕生したのが「劇団 短距離男道(たんきょりだんどう)ミサイル」でした。お金も知識も何もない状況からの立ち上げ。「使えるものはなんでも使ってやろう」の精神で、文字通り自分たちをさらけ出してお客様を喜ばせるスタイル。初志貫徹で7年、押しも押されもせぬ人気劇団になりました。
「劇団短距離男道ミサイル」は、いろんな劇団の若手が集まって生まれた劇団。震災後、小田原にあった「ビッグボーイ」で久々の野菜を食べながら「なんかやろうぜ」と結成。自分たちの強み「男臭さ」「男のバカらしさ」で、笑いを届けています。<br>
(「七福神出現」2017年9月 卸町公園にて)
▲「劇団短距離男道ミサイル」は、いろんな劇団の若手が集まって生まれた劇団。震災後、小田原にあった「ビッグボーイ」で久々の野菜を食べながら「なんかやろうぜ」と結成。自分たちの強み「男臭さ」「男のバカらしさ」で、笑いを届けています。
(「七福神出現」2017年9月 卸町公園にて)
 七郷堀沿いの桜並木の下を歩きながら「おっきい公園に行きたい」と弦ちゃん。「父さんが好きなのはちいさい公園なんだけどなぁ」。澤野さんのお気に入りの公園は、交差点の角や住宅街に埋もれるように存在する小さな所。人から忘れられているような場所に興味や魅力を感じるそう。「例えば、祠に葉っぱがたまっていることに、以前だったら心を留めることはなかったけれど、今はその傾き方とか、ぽつんと一個ある石とか・・・小さい吹き溜まりの世界に心惹かれるようになりました」。街に出ても、ちょっとさびれ感のある蕎麦屋や居酒屋、個性的な外見のお店が気になってしょうがないそう。澤野さん曰く「一つひとつにストーリーや歴史があるんです」。
 全員で舞台を立ち上げながら役者としても出演してきましたが、公演の作り方や宣伝など全体が気になりだし、近年は演出家として責任を負うポジションに重点を移しました。役者が自分のことばで語れる演出や脚本を心がけていているという澤野さんは、今回の受賞を「僕らがやってきた〈舞台でうそをつかない〉ということが実を結んだのかな」と振り返ります。
 弦ちゃんもミュージカルが大好きで、「ミサイル公演」にも連れて行くそう。「父」となり変わった点を伺ってみると、「覚悟が変わりました」。ぼんやりとやみくもに頑張っていたのが、子どもができたことで自分の「終わり」が見え、腹が据わったそう。照れながら、妻の苦労を理解できるようになったとも。
演劇工房10-BOXには公演前になると「週6」で通う。「地下鉄ができて使いやすくなりました。近くにある卸町公園や倉庫を使った公演もやりたいですね」。
▲演劇工房10-BOXには公演前になると「週6」で通う。「地下鉄ができて使いやすくなりました。近くにある卸町公園や倉庫を使った公演もやりたいですね」。
 2017年冬から、太宰治作品を原作にした『母さん、たぶん俺ら、人間失格だわ』『走れタカシ~僕が福島まで走った理由(わけ)~』を、東北六県を車ひとつで回る旅スタイル公演で展開。強く「東北」を意識するようになり、「日本を代表する東北の劇団になる」というスローガンを立て、海外での活動も視野に入れているとのこと。
『母さん、たぶん俺ら、人間失格だわ』(2018年4月東京公演)の一場面。太宰治作品のモチーフに、劇団員の生きざまを重ね合わせた作品は多くの反響を呼んでいます。「役者が三人いるので〈太宰三部作〉を考えていて、もう一作品やりたいと思っています」。2019年春の上演予定とのこと。
(写真提供:劇団短距離男道ミサイル)
▲『母さん、たぶん俺ら、人間失格だわ』(2018年4月東京公演)の一場面。太宰治作品のモチーフに、劇団員の生きざまを重ね合わせた作品は多くの反響を呼んでいます。「役者が三人いるので〈太宰三部作〉を考えていて、もう一作品やりたいと思っています」。2019年春の上演予定とのこと。 (写真提供:劇団短距離男道ミサイル)
 迷ったり、くすぶっている人の、ちょっとした一歩、決断の力になれるような作品づくりを目指していると澤野さん。幅広い世代の方に見てもらえる作品にしたいと、にっこり力強く語ってくださいました。
澤野 正樹 さわの まさき
演出家・劇作家。1987年生まれ、秋田県出身。東北大学工学部卒業。劇団 短距離男道ミサイル総合演出、仙台シアターラボ所属俳優。東北大学学友会演劇部に在籍中から、在仙の劇団に俳優、ダンサーとして出演するなど幅広く活動する。2011年4月に、同世代の俳優を集めて「劇団 短距離男道ミサイル」を立ち上げ、ほぼ全作品の演出を務める。2017年6月『母さん、たぶん俺ら、人間失格だわ』にて、「CoRich 舞台芸術まつり!2017春」グランプリ受賞。2018年3月には、『走れタカシ~僕が福島まで走った理由(わけ)~』にて、「若手演出家コンクール2017」最優秀賞・観客賞をW受賞。劇団活動と並行して、ARCT(アルクト)事務局、若伊達プロジェクトでの企画など、東北の舞台芸術業界の発展を目指し精力的に活動を展開。