東北大学大学院で教鞭を取るほか、著書の出版や書評の執筆など、建築をベースに多彩な活躍をする五十嵐太郎さん。2007年に東北大学へ赴任するまでは、仙台について「正直なところ、世界にインパクトを与えた『せんだいメディアテーク』がある街、という印象しかなかった」と振り返るが、現在は仙台を主な拠点とし、建築やアート、文化にまつわる発信をしている。そんな五十嵐さんが今回案内してくれたのは、東北大学の本部がある青葉区の片平キャンパス。工学部の研究室は青葉山キャンパスにあるため、今は片平を訪れる機会はほとんどないが、以前、3年半ほどここで授業をしていた時期があったという。2011年に発生した東日本大震災後のことだ。
五十嵐さんと最初に訪れたのは、現在、教育研究基盤支援棟として使われている建築物。シンプルなプレハブの外壁を黒い木製のルーバーで囲ったこの建物は、真上からの平面図が10の字に見えることから『カタヒラ・テン』と名付けられ、2012年にグッドデザイン賞を受賞している。
東日本大震災後の約3年間、五十嵐さんはここ『カタヒラ・テン』の教壇に立っていた。「青葉山キャンパスの校舎が震災で大きく損壊し、建て替えが必要になったことで、工学部の居場所がなくなってしまったんです。そのため、片平キャンパスにある電気通信研究所にしばらく間借りし、その間に完成した応急仮設校舎『カタヒラ・テン』に移って授業をしました」。
建物は遮光ルーバーで覆われているため閉塞的に見えるが、中庭が設けられ開放感があり、開口部は市松模様に配置されている。建築を学ぶにふさわしい、創造性を刺激するような構造が魅力だ。「青葉山キャンパスは研究に集中するには最適の環境ですが、建築分野は街づくりも関係するので、建築を学ぶには街の中が合っていると感じました。特に片平キャンパスは、大学が街に溶け込んでいていいですよね」。
東日本大震災後の約3年間、五十嵐さんはここ『カタヒラ・テン』の教壇に立っていた。「青葉山キャンパスの校舎が震災で大きく損壊し、建て替えが必要になったことで、工学部の居場所がなくなってしまったんです。そのため、片平キャンパスにある電気通信研究所にしばらく間借りし、その間に完成した応急仮設校舎『カタヒラ・テン』に移って授業をしました」。
建物は遮光ルーバーで覆われているため閉塞的に見えるが、中庭が設けられ開放感があり、開口部は市松模様に配置されている。建築を学ぶにふさわしい、創造性を刺激するような構造が魅力だ。「青葉山キャンパスは研究に集中するには最適の環境ですが、建築分野は街づくりも関係するので、建築を学ぶには街の中が合っていると感じました。特に片平キャンパスは、大学が街に溶け込んでいていいですよね」。
『カタヒラ・テン』の北側に位置する多元物質科学研究所南1号館。ここは、旧東北帝国大学工学部の機械学や電気学の教室があった建物だ。竣工は1930年。シンメトリーの建築物で、中央が塔のように設計されている。特に玄関アーチが印象深い。「アーチのてっぺんに持ち送り(壁から突き出した部材)を装飾し、その上にデンティル(歯状装飾)が水平に並んでいます。当時は、ヨーロッパの建築を真似ることが多かった時代。この建物も向こうの大学を参考にしたと考えられます」。
片平キャンパスには国の登録有形文化財に指定されている建物が多く、ここも2021年に登録が告示された。
片平キャンパスには国の登録有形文化財に指定されている建物が多く、ここも2021年に登録が告示された。
続いて訪れた東北大学文化財収蔵庫は、1910年に旧制第二高等学校の書庫として建てられた。レンガをイギリス積みにし、壁面にストリングコース(蛇腹)をデザイン。軒にはデンティル風の装飾が配されている。建物の中は一般に公開されていないが、東北を中心に発掘された考古資料を膨大に収蔵。中には国指定重要文化財も含まれている。
2016年、五十嵐さんはこれらの考古資料を再編成した企画展「先史のかたち-連鎖する土器群めぐり-」のキュレーターを務めた。「一般的に土器の展示は、場所や時代、種類などで整理されることが多いのですが、このときは“かたち”をテーマに土器の魅力を表現しました。収蔵庫の中には思った以上にたくさんの貴重な資料が保管されていて、驚きましたね」。
2016年、五十嵐さんはこれらの考古資料を再編成した企画展「先史のかたち-連鎖する土器群めぐり-」のキュレーターを務めた。「一般的に土器の展示は、場所や時代、種類などで整理されることが多いのですが、このときは“かたち”をテーマに土器の魅力を表現しました。収蔵庫の中には思った以上にたくさんの貴重な資料が保管されていて、驚きましたね」。
1926年に建築された旧東北帝国大学附属図書館閲覧室は、東北大学史料館として一般公開されている。1階部分の外壁は石張りとレンガが施され、2階は塗装仕上げ。アーチの窓が気品を感じさせる。
「太陽光は本の劣化を招くので、これほど窓を設置する図書館は珍しいのですが、当時は広い館内を照らすための十分な照明がなく、採光のために開口を大きく取ったと思われます。当時は1階が事務室、2階が閲覧室と書庫になっていたようです」。
図書館の機能が川内キャンパスに移ったことを機に、建物は東北大学の歴史を伝える史料館として改組され、誰でも見学できるようになった。
「太陽光は本の劣化を招くので、これほど窓を設置する図書館は珍しいのですが、当時は広い館内を照らすための十分な照明がなく、採光のために開口を大きく取ったと思われます。当時は1階が事務室、2階が閲覧室と書庫になっていたようです」。
図書館の機能が川内キャンパスに移ったことを機に、建物は東北大学の歴史を伝える史料館として改組され、誰でも見学できるようになった。
片平キャンパスに通っていた約3年間で、学生やゲストと頻繁に訪れていたのが、キャンパスからほど近い「南欧食堂 北目町バールCapitoro」。「キャンパスの周辺でさまざまなお店を訪れたのですが、料理がおいしく一番居心地が良かったのがここでした。青葉山キャンパスに戻った今も、ときどき利用しています」。
五十嵐さんがよくオーダーするのは、アンチョビポテトやトリッパなどワインに合う一品。忙しい毎日の中で、「Capitoro」でのひとときはとても貴重で有意義な時間だ。
五十嵐さんがよくオーダーするのは、アンチョビポテトやトリッパなどワインに合う一品。忙しい毎日の中で、「Capitoro」でのひとときはとても貴重で有意義な時間だ。
建築史が専門分野ということもあり、普段から街を歩いていると古い建物に自然と目が行くという五十嵐さん。「以前、アーケード街を時速300mで歩くスローウォーク・センダイというプロジェクトに参加したのですが、とても面白い体験でした。450mを90分かけて歩くので、周りをよーく見るしかないんです。いつもとは街の見え方が変わるし、気づきもたくさんあって特別な時間でしたね」。
速度を落とすことで見える、新しい街の魅力。片平キャンパスにも、じっくり見れば見るほど興味深く面白い景色が広がっていた。
東北大学史料館
開館日 月曜日~金曜日(祝日、夏期休業日、年末年始除く)
開館時間 10:00~17:00 ※12:00~13:00は閲覧室休み
http://www2.archives.tohoku.ac.jp/
速度を落とすことで見える、新しい街の魅力。片平キャンパスにも、じっくり見れば見るほど興味深く面白い景色が広がっていた。
東北大学史料館
開館日 月曜日~金曜日(祝日、夏期休業日、年末年始除く)
開館時間 10:00~17:00 ※12:00~13:00は閲覧室休み
http://www2.archives.tohoku.ac.jp/
掲載:2023年7月4日
取材:2023年5月
- 五十嵐 太郎 いがらし・たろう
- 東北大学大学院工学研究科・工学部教授。1967年フランス・パリ生まれ。1990年東京大学工学部建築学科卒業。1992年東京大学大学院修士課程修了。博士(工学)。2009年から東北大学大学院教授。ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展2008日本館コミッショナー、あいちトリエンナーレ2013芸術監督を務めた。著作に『現代建築に関する16章』(講談社現代新書)など多数。