インタビュー

文化交流をもっと身近に
「仙台銀行ホール イズミティ21」
再開館2 -イズミノオト篇-

長年、仙台の文化芸術シーンに寄り添ってきた仙台銀行ホール イズミティ21が、2年間の改修工事を経て4月1日にリニューアルオープンしました。現在、同館ではそれを記念したさまざまな公演を開催中です。今回はその中から、一人の作曲家に焦点を当てた室内楽のコンサートシリーズ「イズミノオト」に着目。演奏者・コーディネーターの目線で、イズミティ21のリニューアルに迫ります。

2024年7月7日(日)に第9回を迎える室内楽コンサート「イズミノオト」は、2020年の初公演以来、仙台銀行ホール イズミティ21を拠点に行われ、昨年の休館中も“出張コンサート”として継続開催されてきました。仙台フィルハーモニー管弦楽団の首席チェロ奏者であり、この公演シリーズのコーディネーターでもある吉岡知広さんに、本コンサートに対する思いや魅力、イズミティ21で開催する意味などについて伺いました。

イズミノオトは、どのようなコンサートなのでしょうか。

公演ごとに一人の作曲家にスポットを当て、作曲家の人生や創作背景を通して作品を深くお楽しみいただくコンサートです。毎回、取り上げる作曲家を誰にするかなど企画から組み立てます。第9回となる今回は、シューマンを取り上げました。

イズミノオトが始まったきっかけを教えてください。どういった経緯で現在のような企画内容になったのですか。

私が、ドイツから日本に帰ってきたとき、“初心者や子どものためのコンサートが増えている中、クラシックに興味を持った方が、次のステップとして気軽に行けるコンサートが少ないな”と感じていました。そんなとき、地元である泉区のイズミティ21から主催事業を考えているという相談をいただきました。そこで、あえて取り上げる作曲家や選曲の敷居を低くせず、かつ初心者でも理解を深めた上で楽しめるクラシックのコンサートを提案したのが始まりです。

イズミノオト 第1回 ブラームスノ雨ノ歌の公演の様子

作曲家に焦点を当てて構成するという公演内容がユニークで、出演者によるアフタートークも好評です。1人の作曲家に迫ることの狙いや思いを教えてください。

“クラシック音楽は、事前知識があればもっと楽しめる”というのが、イズミノオトのコンセプトです。そのため、鑑賞される方には、チラシに掲載している充実した読み物を通して、曲が作られた時代背景や作曲家の感情などを予習していただくスタイルを取っています。1人の作曲家にスポットを当てると、その人生までたどることができるので、より感情移入しやすいですよね。それに、コンサートで取り上げた曲以外の作品を聴く際の手助けにもなると思います。
曲の合間にトークを入れず、奏者と客席の距離感が近くなりすぎないよう意識しているのは、コンサートでは特別な世界観をつくるため。そのぶん、アフタートークの時間を設けて、存分に奏者の声を聞いていただいています。

イズミノオトはこれまで8回行われてきました。約4年間にわたって続けたからこそ感じることや、公演の思い出など、エピソードがあればお聞かせください。

これまでたくさんのお客様に受け入れていただき、僕の思いとお客様の思いが概ねマッチしていたことはとても感慨深いですね。事前に配布しているチラシに予習用の読み物を載せているのですが、コンサートに来られなくてもそれを読んで作曲家に興味を持たれる方も多く、文化発信としての役割を果たせていると感じます。
また、コンサートをきっかけに昔からの顔なじみが同窓会的に集うなど、公演を通して誰かと会う機会が持てたという感謝の声をいただいたときは、とてもうれしかったですね。

イズミノオトのパンフレットには取り上げた作曲家が詳細に説明されている
https://izumity21.jp/events/event/4271/にも掲載中です。

第9回のプログラムはシューマンですが、毎回取り上げる作曲家や演奏曲、出演者はどのように決めていますか。

第9回は、リニューアル記念にふさわしい有名な作曲家で、僕が一番好きな作曲家でもあるシューマンにスポットを当てます。今回は、彼の人生をたどるように、節目節目の名曲を集めました。演奏者は、仙台にゆかりのある名手で、シューマンや弦楽四重奏のスペシャリストにお越しいただきます。
シューマンは、感情的にも繊細で不安定な人物ですが、そこに美しさがある作曲家です。当日は、そんなシューマンの世界を存分に堪能していただければと思います。

コーディネーターや演奏者として、イズミティ21にはどのような特徴や良さがあると感じますか。また、改修後の印象もお聞かせください。

イズミティ21は、まちの中心部にあるので、お買い物や食事にも行きやすく、コンサートを中心に1日のおでかけの予定を立てやすいのが良いですね。
また、小ホールは親密な響きを間近で感じられる規模感です。ちょっとのミスも伝わってしまう緊張感のあるホールともいえますが、奏者の息遣いまで聴こえるところがイズミティ21の特徴だと思っています。リニューアルし、床や椅子の素材も変わって、ホールの雰囲気も一新しました。新たなホールではより豊かな響きや残響までを感じて楽しんでいただけるとうれしいです。

今後も末長くお客様にお楽しみいただけるよう、さまざまな楽器の組み合わせや興味深いプログラムで、質の高い演奏をお届けしていきますので、ぜひご期待ください!

掲載:2024年6月28日

取材:2024年6月

吉岡 知広 よしおか・ともひろ
1988年、仙台市泉区出身。6歳よりチェロを始め、桐朋学園大学音楽学部を卒業後、ドイツのライプツィヒ・ゲヴァントハウスオーケストラアカデミーに在籍。現在は、仙台フィルハーモニー管弦楽団の首席チェロ奏者として活躍するほか、さまざまなオーケストラの招聘を受け、客演首席奏者として各地で演奏を行っている。