インタビュー

高校生の文化芸術活動
#03 聖和学園高等学校演劇部

第61回宮城県高等学校演劇コンクール中央大会(2023年)
『ギンガノマド』コミュニケーションアプリの中の世界を白いセットで表現

様々な出会いや体験を通して自分を模索する10代後半。演劇、映像、合唱、ブラスバンド、美術など、この時期に文化芸術への興味や関心を抱いたことをきっかけに、表現活動を深めていく人も少なくないはずです。
「高校生の文化芸術活動」では、今まさに文化芸術との出合いの渦中にいる高校生たちにフォーカスを当て、活動の内容やその魅力、自分自身の変化、そしてコロナ禍における活動の工夫についてなど、高校生たちの思いに迫ります。
3回目となる今回は、聖和学園高等学校演劇部3年の八巻さんと小原さん、顧問である浅倉 麻里衣先生にお話を聞きました。

第60回宮城県高等学校演劇コンクール若林太白宮城野地区大会(2022)
『コモレビ Marble』 ラストシーン 無邪気な遊びのシーンと現実世界がシンクロする

聖和学園高等学校演劇部の活動について教えてください。

八巻さん:当校の演劇部は、作品に正面から向き合い、一つの物語をみんなで最後まで創り上げることを大切に活動しています。その活動の成果として、2022年度の宮城県高校演劇コンクールでは、『コモレビ Marble』という作品で若林太白宮城野地区大会優秀賞、中央大会優良賞・舞台美術賞を受賞しました。この作品は、心の傷が原因で演劇部の活動に参加できなくなった部員のクマと、クマのために「自分に何ができるのだろう」と悩み葛藤する部員たちのストーリーです。表向きは仲良く見えても、実は最後まで心が解け合うことのない「マーブル状」の人間模様を描き、ラストの独白で心の叫びを表現しました。脚本は、顧問の先生が私たちの部活動の様子から着想を得て創作してくださったもの。部員の個性をキャラクターに落とし込んでくれて、私たちの意見を聞きながらセリフを作ってくださるので、舞台上でも自然な会話ができたのだと思います。舞台装置は、教室にもラウンジにも見せられる抽象的な可動式セットを巧みに使うことで、スピーディーな場面づくりを意識し、照明で人間模様の様子を表すマーブル模様や木漏れ日を表すなど美しさにも力を入れました。舞台美術のこだわりが審査員の先生にも伝わって、スタッフワークを評価していただけたことがうれしかったです。

小原さん:活動は週5日で、柔軟体操や筋トレ、発声といった基礎トレーニングや、そのとき制作している作品の稽古を行っています。演劇は、舞台に立つ役者だけでなく、音響や照明、大道具、小道具、メイク、舞台監督、脚本といった、さまざまなスタッフを含めた“チーム”で創るもの。そのため、稽古中は、一人ひとりが発言しやすい雰囲気を作って、相手を尊重しながら自分の意見を伝えるように心がけています。「健康第一で何事も楽しむ!」というのが先輩から受け継いできた演劇部のテーマです。

浅倉先生:小原さんも話していましたが、舞台というのは、役者の表現だけでなくスタッフワークがあって成り立つものです。そのため、生徒間でコミュニケーションを取って、信頼関係を築くことを大切にしています。みんなで共有・共感をして、苦労しながら創り上げた作品は、とても魅力的です。

出番前の各セクションの打ち合わせの様子

八巻さん、小原さんが思う演劇部ならではの魅力や面白さ、これまでの活動で印象に残っていることを教えてください。

小原さん:演劇部は、大勢の人の前で舞台に上がったり、道具を作ったり、脚本を書いたりと、他の部活ではできないたくさんの経験を積むことができるのが魅力的だと感じています。1年生のときに上演した『ココノイエノシュジンハビョウキデス』は、書店を舞台にした作品でしたが、私は大道具として本棚を作り、裏方も経験しました。また、役者として初めて舞台に立ったときの緊張感と、無事に終えた後の「楽しかった!」という気持ちは、今でも鮮明に覚えています。

八巻さん:私たちにとっての最新作品である『ギンガノマド』は、スモールコミュニティアプリ「nomado」(ノマド)のバーチャル空間に出入りする登場人物たちが、ユーザー向けのイベントに参加し、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』の朗読で入賞と賞金の獲得を目指す話です。「誰かの幸せのため」に生きるカムパネルラとジョバンニを自分たちに重ね合わせることで、彼らに多くの「気づき」が生まれます。私は、小原さんと一緒に音響を担当したのですが、機材に触れること自体も貴重な経験でしたし、音量やタイミングを合わせることが想像以上に難しく、何度もみんなで確認し合いながら本番に挑んだことが印象に残っています。チームワークの重要性を身に染みて感じた出来事でした。

第61回宮城県高等学校演劇コンクール中央大会(2023年)
『ギンガノマド』アプリの中の世界と外の現実世界 登場人物たちのモノローグのシーン

演劇をする際に、大切にしていることは何ですか。

八巻さん:稽古をしている中で、先生から特にアドバイスを受ける部分が「セリフのキャッチボール」です。テンポが重要な会話劇や、セリフとして相手に気持ちが届いていないときに先生に指摘されることが多いです。セリフは台本上の「文字」ではありますが、作品の中では「会話」です。普段、私たちが交わしている会話には自然と気持ちが込められていて、そこには伝える相手がいます。「文字」としてただ読み上げるのではなく、その中にある思いを忘れずに添えて「会話」にすることを大切にしています。

小原さん:私は、先生に言われた「素にならない」ということに気をつけています。体に力が入っていないような、役者の体になっていないときによく言われます。自分にセリフがないシーンでも、当然、立ち居振る舞いで感情や存在感を表現しなければなりません。先生は、役に対して集中できていないとすぐに見抜き、注意をしてくれます。今は、日々の活動で役者としての体づくりができてきたのか、普段から話す声が大きくなりましたし、友達とおしゃべりしているときも身振り手振りが増えて、表現力が上がった気がします。

八巻さん:それから、セリフに感情が乗っていないときがあると、「抑揚」についてのアドバイスをもらうことも多々あります。抑揚一つで観客への伝わり方が変わって、セリフの深みが増すので、そこも演劇の面白さを感じるところですね。

セリフ合わせなど稽古の様子

コロナ禍で起きた活動の変化を教えてください。また、どのように工夫して乗り切ったのでしょうか。

小原さん:通常の部活動では、活動時間を短縮したり、常にマスクをしてソーシャルディスタンスを取りながら練習をしたりしました。発声練習も減らすなど、活動が制限されてしまい、思うように取り組めない時期もありました。演劇コンクールの本番でも任意でマスクを着用したのですが、メンバーや先生と相談しながら、作品の中でマスクをしていても違和感がないような役どころを設定しました。

浅倉先生:コロナ禍の前は、毎年、同じ地区にある高校の演劇部と一緒に、一つの公演を創って外部のステージで上演する「合同公演」を行っていました。学校内のメンバーだけで活動する時とは違い、さまざまな学校の生徒同士が協力し合って時間をつくり、準備や練習をして作品を完成させる過程には、さまざまな壁や悩み、葛藤があります。それを、自分たちの力で乗り越え、成し遂げたときの感動や経験はとても貴重です。コロナ禍をきっかけに、合同公演が中止になってしまい、現在も企画は復活していません。演劇部のみんなに合同公演ならではの面白さや達成感を味わってもらいたいので、また他校と一緒に活動できたらいいなと思っています。

コロナ禍のマスクとソーシャルディスタンスでの練習の様子
台本について話し合いをしている部室内での様子

演劇部として、これからの目標などをお聞かせください。

八巻さん:いま目指しているのは、宮城県高等学校演劇コンクール中央大会への出場です。その前に、9月の「聖和祭」で作品を披露し、それをレベルアップさせたうえで10月の地区コンクールを突破しなければいけません。そのため、一つ一つの舞台に全力で取り組み、みんなで最高の作品を完成させたいです。

浅倉先生:演劇には観客がいます。そのため、自分たちが表現する舞台で、目の前の観客に何を届けるかについても考えなければなりません。表に出る役者だけでなく作品全体で、観客に向けたメッセージ性をもっと高めること、思いが伝わる表現スキルを身に付けることも目標に掲げています。その上で、演劇の多様性と楽しさを、メンバーにも、足を運んでくれた観客のみなさんにも知ってもらいたいですね。

小原さん:「いろいろな作品を観劇して学ぶ」ということも、これまでの先輩方が大切にしてきたことです。私も実際に、ミュージカル『刀剣乱舞』を観に行ったのですが、2.5次元の舞台を初めて鑑賞し、キャラクターが目の前に存在していることを肌で感じて、心が震えました。「リアル」というものが与える「特別な何か」に改めて気づかされました。それと同時に、演劇は人の心に潤いを与えられるもので、そこには無限の可能性があると思いました。私たちも、舞台を観に来てくださった方にそう思ってもらえる作品を創りたいですし、可能性に挑戦したいです。

八巻さん:私も、演劇部に入ったことで今まで以上に舞台に対して興味持ち、実際に観劇する機会が増えました。特に印象に残っている舞台が『Frankenstein』(2022年上演 主催:クグリド)です。4方向どこからでも観られる舞台セットに、舞台美術の固定概念が覆されました。また、難しいテーマに対する表現方法に、演劇の奥深さとおもしろさを感じました。これからも、いろいろな作品を観て刺激を受け、視野をもっと広げて、表現力も高めていきたいと思っています。

第61回宮城県高等学校演劇コンクール若林太白宮城野地区大会(2023年)

掲載:2024年3月19日

取材:2024年1月

写真提供/聖和学園高等学校演劇部

聖和学園高等学校演劇部
50年以上の伝統があり、現在は12名の部員が在籍。週5日の活動では、役者としての体をつくる基礎トレーニングや、相手との協力・信頼関係を育むシアターゲーム、コンクールに向けた作品の創作などを行っている。役者としてのスキルだけでなく、舞台装置のDIY技術向上にも取り組み、2022年度の宮城県高等学校演劇コンクール中央大会では舞台美術賞を受賞。9月の文化祭「聖和祭」、10~11月の宮城県高等学校演劇コンクールのほか、不定期で5~6月頃に自主公演も開催する。