インタビュー

オンラインを通じた事業準備とその課題

中編|秋田市文化創造館のコロナ禍の対応

コロナ禍の経過を教えてください。

アーツセンターあきたとしては、スタッフを増員し始めていたころで、2020年4月に入社したスタッフも、4月7日に緊急事態宣言が発令されるとすぐに在宅勤務になり、チームとして体制を築いていくのがなかなか大変でした。通常であれば、ちょっと集まって話し合いをしたり相談したりして進められることが、いちいちZoomを設定して打ち合わせをすることになり、通常の倍以上の時間と手間がかかりました。

秋田市文化創造館は千秋公園(久保田城跡)の中にある

秋田市文化創造館の開館準備の時期は、コロナ禍の始まりとちょうど重なってしまいました。コロナ禍当初(2020年)は、どのような対策を取ればベストなのか、手探り状態でした。

秋田市としては市の主催事業から感染者が出るのは回避したい一方で、開館に向けたプレ事業「乾杯の練習」は継続したいとの思いがあり、その間の調整は気を遣う場面が多くありました。そこで、当館としては、状況が変わっても臨機応変に対応できるように、いつでもオンライン形式に切り替えられるように準備していました。

これはほぼ2本分の企画を準備するのと同じくらいの手間がかかることになりました。オンライン形式の事業は、県外の方からもアクセスしていただけるメリットもありますが、本来届けたい人に届かないということも起こります。例えば、市内の高齢者の方々にとってはオンライン形式ではアクセスしにくくなる、強い言い方になりますが、その事業から排除されてしまう危険性が伴うという課題も感じています。これは改善していかなければと考えています。

秋田県は全国と比較すれば感染者数は少なかったかもしれませんが、一方で、当時は「県境を越える移動は控えるように」という県からの通達が発出されていました。

それを遵守する必要があり、作家の方々に秋田に来ていただくことができませんでした。どうしても秋田に来てもらわなければならない作家には、来館者とは接触しない、対応するスタッフの数を絞るといった対策を取っていました。この他にも、PCR検査を受ける、滞在中の行動記録を取って市に報告することもしていました。

オープニング特別事業の展示の様子

オープニング特別事業の展示準備についても、コロナ禍での展示の調整、作品借り受けの手配などは特に大変でした。秋田在住のキュレーターやスタッフと、東京・京都・福島等を拠点としている作家、建築家とが、直接顔を合わせて企画について十分に話し合って制作を進めることができなかったのは、大変残念でした。

本来ならば、しっかり対面で打ち合わせを重ねて、作家の意向を確認しつつ、チームとなって企画を進めていくことが大切ですが、それが叶いませんでした。また、本来、秋田で活動していただきたいと考えて、県外から招いている作家や建築家に対して、行動を抑制しなければならないという葛藤もありました。

秋田は地方であるからこそ、スタッフの中から万が一感染者が出てしまうと、開館前の施設に対してネガティブなイメージを持たれてしまうのではないかと、私自身が強い危機意識を持っていました。それを可能な限り避けるため、スタッフの行動をどの程度制限しなければならないのかという判断も難しかったです。どうしても県外に出かけなければならない場合は、出張後2週間隔離するなど厳しい条件を課していました。

ただ、私たちは市の職員ではなくNPO法人スタッフですので、公的施設に勤務する民間人という立場です。そのため、どこまで対応すべきか、また、どのようなふるまいが最善なのか、今でも悩ましく、答えのない課題だと思っています。

秋田市文化創造館でのコロナ対策(2021年11月時点)について、教えてください。

施設での対策は、出入り口に消毒液を置いていますが、検温器までは設置していません。ただし、人が集まるイベントの場合は、受付で検温をして、消毒してもらい着席していただいています。また、万が一、感染者が出た場合、お客様の連絡先を控えておいて連絡できるように体制は取っています。もちろん、館内の換気と消毒は欠かさず行っています。

現在(2021年11月時点)は、秋田県が定める警戒レベル全5段階の2に下がっているので実施していませんが、それ以前は県外から来ていただく作家や建築家等についてはPCR検査を受けていただき、陰性であることを確認してから館内に入っていただいていました。スタッフについても同様で、県外に出張する場合、特にまん延防止等重点措置が適用されている地域に出張する場合は、秋田に戻ってくる際にはPCR検査を受け、陰性の結果確認をしてから出勤するという体制を取っていました。

計画したができなかったこと、計画していた事業の代替事業、改めて新規に立ち上げた事業などはありましたか?

企画はなるべく中止しないで、オンラインに切り替えて事業を行っていました。例えば、トークイベントは、館内で収録や生配信をして、オンラインで視聴していただくようにしていました。

オープニング特別事業では、演劇公演を2021年8月から9月に予定していたのですが、あいにく、秋田県内で最も感染者数が増加して集団感染も発生し、慎重な判断が求められる時期でした。また、演出意図と感染リスクを避けるということの両立が難しく、いろいろ対策を考えたのですが、残念ながら全10公演のうち残りの7公演は中止せざるを得ませんでした。この決断はつらいものでした。というのも、市民参加型の公演でしたので、出演者は一生懸命稽古を重ねて本番を迎えていましたし、公演を重ねる中で内容も進化していく作品になっていたからです。

また、秋田の郷土食のワークショップでは、一緒に作って試食する内容では感染リスクが生じるため、講師にデモンストレーションしていただき、できあがった料理を参加者に持ち帰っていただく形に変更しました。ただし、その後、調理のワークショップもすべてオンライン形式で実施することになってしまいました。

1階コミュニティスペースにあるキッチンエリア

掲載:2022年8月9日

取材:2021年11月

聞き手・構成:菅野 幸子(アーツ・プランナー/リサーチャー)

このインタビューは、文化施設運営や事業のあり方や考え方、コロナ禍における影響や対応方法などについて、東北の文化施設・団体にお話を伺いました。

※記事内容(施設の事業や考え方、コロナ対策含む)や個人の肩書等は、インタビュー当時のものです。

三富 章恵 みとみ ゆきえ
NPO法人アーツセンターあきた事務局長
1981年静岡県生まれ。名古屋大学大学院国際開発研究科修了。2006年より、独立行政法人国際交流基金に勤務し、東京およびマニラ(フィリピン)において青少年交流や芸術文化交流、海外における日本語教育の普及事業等に従事。
東日本大震災で被災経験をもつ高校生・大学生や児童養護施設に暮らす高校生のリーダーシップ研修や奨学事業を行う一般財団法人教育支援グローバル基金での勤務を経て、2018年4月より現職。