後編「これからの秋田市文化創造館」

―おせっかいを焼く関係性を大切にする―

秋田市文化創造館は開館されたばかりですが、事業の評価についてはどう考えておられますか?

評価についてはまだ明言できない段階ではありますが、当館のヴィジョンは、ここを起点として新しい活動が起こっていく、新しい活動を起こしていく人が生まれていくことだと思っています。ですから、この地域に暮らす多彩な人々が、この施設をどう活用し、今後も付き合ってくださるかが1つの指標になると思っています。

例えば、事業収入として施設使用料をもっと増やしていくという考え、あるいは公民館のように誰にでもどんなイベントにも貸し出すという考えもあると思うのですが、何かをやりたいという方々の思いを、より良い形でこの空間内で実現していただくために、スタッフがどこまで「おせっかい」を焼いていくか、「おせっかい」を焼かせていただく関係性をどこまで作れるか、ということが当館の特徴だと考えているので、それが評価の指標になってほしいと思っています。

ただ、スタッフ個人がおせっかいを焼いていく中で、どうしても施設としてこれはできないということも起きてくると想定されます。その線引きをどうするかについては、スタッフ間で議論し続けています。

オープニング特別事業で行われたパフォーマンスイベント

施設にはどのようなスタッフがいらっしゃいますか?

当館では、スタッフのことをコーディネーターと呼んでいます。しかし、コーディネーターとは何者か、どのような職能を持った人か、社会的にも明確に定義されていない状況です。そのため、法人設立以来、スタッフとその職能や定義について議論をしながら、事業企画や運営を行っています。

当館のコーディネーターは、キュレーターの経験値を持っている人、ファシリテーションを得意としている人、編集を長くやってきている人、舞台の制作をやってきた人など、多彩な職能を持っています。そうした各自の特技や経験をうまく活かし、1つのチームとして事業企画や施設運営に取り組める体制を作り上げていくことも、これからの課題の1つだと感じています。自分も含めて、なんでもポジティブにとらえる人が多いので、スタッフは困ったことが起きても上手く応対してくれています。

街を楽しんで、おせっかいしたい人たちが集まっているのも当館の特徴かもしれないです。スタッフは活動的で事務所にこもらずに館内を回って、利用者がどのように館をつかってくれているか見に行ったり、困っている人がいたら積極的に声をかけたりしています。

現在の課題と感じておられることは、どんなことでしょうか?

課題はもちろんたくさんありますが、それは楽しみということでもあります。当館は、すべての方々に開いていくことを最も大切にしていますが、どのようなコミュニティとつながっていけるのかが、まだ見えてきていません。

秋田市は、市町村合併を繰り返してきていますので、実は地理的に範囲が広いのです。当館に来るのに車でも1時間もかかるところも市内にはあります。その方たちにとって、文化創造館は必要な存在なのかとも考えることがあります。まずは、市民の方々に文化創造館は自分が使っても良い場所だと認識していただくためのコミュニケーションを取っていきたいと思っています。

また、市民の方々、そして行政の方々にも、当館に税金を投資していただく意味をどのように理解していただけるかも大きな課題だと思っています。
当館を通じて何か新しい活動にチャレンジする機会になった、というお話を伺えたりすることもあり、そう話してくださる方がでてきてくれたこと自体が成果の1つだと感じています。そういう人が増えることも、これから楽しみにしています。

フリーオープンデイに行われた館内ツアー

現在、地方の課題の1つとして、どう若者層の居場所を確保していくかということがありますが、秋田市文化創造館には、若者たちも集まってきつつあるようです。若者たちにとってどんな場所でありたいとお考えですか?

開館して2ヶ月が経ったころ、学校の帰りに当館に立ち寄って、友達とおしゃべりしたり、勉強したりできる場だと気がついてくれたようで、ようやく高校生たちが来てくれるような場所になりました。今は、午後3時過ぎになると高校生でいっぱいになることもあり、うれしく思っています。そうやって通ってくれる若者たちがたまたま開催されている展覧会やパフォーマンスに思いもよらず出会ってしまうチャンスが館内には散らばっていると思っています。

また、日常では出会う機会のない若者が、他者と出会う場所になればと思っています。お互い知らない者同士が、バリアなく共存できる、居心地が悪くなく同じ空間で同じ時間を過ごす体験が大切だと思っています。それが日常になっていくと、秋田という街にコミュニティとしての強さが生まれてくるのではないかと思っています。

藤浩志館長が当館のあいさつとして書いているように、若者たちには、サバイバルする術としてのアートを身につけ、創造の楽しさを味わう体験を通じて、この土地の魅力を感じていってほしいです。そのためにも、将来、教育機関とも連携できればと思っています。

今後の見通しはいかがでしょうか?

オープニング特別事業は、当館の主催事業ではなく秋田市の主催でした(アーツセンターあきたは企画・制作を担当)。そのため、オープニング特別事業が終わってから、指定管理者としての事業が実質的に始まると考えています。そのため、当初の事業方針と計画に沿って、年間を通じての公募事業やレジデンス事業を着実に展開していく予定でいます。ただし、現在(2021年11月時点)、海外で感染者数が増えているというニュースがあり、早晩、日本でも同様のことが起きるのではないかという危惧がありますが、それに向けての具体策までは、正直、まだ考えられていません。来年3月(2022年3月)までは、一般の方々の利用予定もかなり埋まってきている状況ですので、この方々にどう対策を呼びかけていくのかもこれからの課題かと思っています。

掲載日 2022年8月9日 取材月 2021年11月

三富 章恵(みとみ ゆきえ)

NPO法人アーツセンターあきた事務局長
1981年静岡県生まれ。名古屋大学大学院国際開発研究科修了。2006年より、独立行政法人国際交流基金に勤務し、東京およびマニラ(フィリピン)において青少年交流や芸術文化交流、海外における日本語教育の普及事業等に従事。
東日本大震災で被災経験をもつ高校生・大学生や児童養護施設に暮らす高校生のリーダーシップ研修や奨学事業を行う一般財団法人教育支援グローバル基金での勤務を経て、2018年4月より現職。

聞き手・構成:菅野 幸子(アーツ・プランナー/リサーチャー)

このインタビューは、文化施設運営や事業のあり方や考え方、コロナ禍における影響や対応方法などについて、東北の文化施設・団体にお話を伺いました。

※記事内容(施設の事業や考え方、コロナ対策含む)や個人の肩書等は、インタビュー当時のものです。