制作作業を続けていると、手の動きや思考の着地点に慣れが生じる瞬間が何度か訪れはじめます。それが状況によってはいい状態であることもありますが、そうなりはじめた時の大半は作業を一旦止めてインプットに集中する期間を作り、自分の中に処理できない何かを流し込む時間を過ごします。それは、土ならしを持ちながら歩き進んで平らになった土の上に何か物を落としてみたり、水を流して泥ができはじめたり、砂利がかき出されたりするようなイメージです。
最近、その時間の中で観たものの1つは映画『ホフマン物語』です。
この作品はマイケル・パウエルとエメリック・プレスバーガーの共同監督によって1951年に製作されたバレエ・オペラ映画です。
物語は主人公の詩人ホフマンの恋人であるバレエダンサーのステラの公演シーンから始まります。ホフマンは幕間に酒場へ寄り、過去の恋の思い出について仲間達に語り出します。
そこから、生きているかのように踊るパリの自動人形オランピア、妖艶なベネチアの高級娼婦ジュリエッタ、病を患うギリシャの歌姫アントニアの異なる3人の女性との恋の顛末について描いた物語が展開されて行きます。
この両監督の前作『赤い靴』に出演していてバレエと目の表情に心を打たれたロバート・ヘルプマン、レオニード・マシーンの2人も出ているとのことで観る前から楽しみにしていましたが、いざ鑑賞しはじめると次々と波のように現れる絢爛な舞台美術や小道具、色彩の視覚的な豊かさとそれに折り重なるオペラの声の高揚感にあっという間に、自分の頭の中にある感情を分別する棚のどこにもしまうことができないものが押し寄せてきました。
この処理しきれない感情などの何かを享受することは、一時的に私の中に混乱を生みます。
ですが、その混乱が自分の細部を一旦散り散りにし、隠れていた思考すべきもの、意識を集中させるべきものなどを再認識させてくれます。