Q.この作品について教えてください
巨匠、クリント・イーストウッド監督による1993年の作品です。刑務所を脱獄したブッチ・ヘインズ(ケビン・コスナー)が、押し入った家で8歳の子どもフィリップを誘拐し、逃避行に出るという物語。車で旅をしながら、徐々に心を通わせていくふたり。犯罪者が主人公の映画であり、ラストが悲しい幕切れでした。わたしは、フィリップがキャスパー(お化けのキャラクター)のお面をかぶるシーンが印象的で心に残っています。
Q.この作品と出会ったときのこと、出会ってからの変化などを教えてください
『パーフェクト ワールド』を観たのは、たしか小学5年生のときです。当時、仙台駅前にあった映画館で観ました。この作品に興味を持ったのは、そのころ、友だちの家でよく遊んでいた格闘ゲーム『ストリートファイターⅡ』でダメージを一切受けずに相手を倒すと画面に「PERFECT」と出るあの瞬間が好きだったので、「パーフェクト」つながりでおもしろそうと思った、というしょうもない理由です。
題名以外は何も知らないまま映画を観ました。正直、当時のわたしには、内容はよくわかりませんでした。悲壮感漂う終わり方で、もちろん『ストⅡ』要素はなく、「どこがパーフェクトなの?」と戸惑いました。しかし不思議なことに、つまらないとも思わなかった。誘拐された男の子に感情移入する場面はあったし、初めて「世の中にはただ楽しいだけではない映画が存在する」ということを知り、理解はできないけれど心動かされる、なにか「もやもや」したものが自分のなかに残りました。
映画を観てから30年が経ち、あの劇場はもう跡形もありません。わたしは今、仙台に住み、ドキュメンタリー映画を撮ったり、最近では小説を書いたりしていますが、ふとした瞬間に『パーフェクト ワールド』を観たときのこと、男の子がかぶっていたキャスパーのお面を思い出します。そして、もしかしたら自分はずっと10歳のころの自分、あの「もやもや」に向かって作品を作っているのではないか、なんてことを考えます。直接は映らないものを映画にし、言葉にならないことを小説に書きたい。わたしがそう思うのはきっと、この作品から同じようなかたちで「もやもや」を受け取ったからでしょう。
『パーフェクト ワールド』は、イーストウッド監督の偉大なフィルモグラフィのなかでは地味な映画で、好きな作品に挙げる人は少ないかもしれません。今回わたしが取り上げたのも、仙台での幼少期の思い出にまつわることがきっかけでした。しかしこれを書くにあたってあらためて観たら、とてもとてもおもしろかった。無駄なく完璧に、「完全でない世界」が描かれていました。なので、イーストウッド好きはもう一回、そうでない人もぜひ一度、この映画を観てみてほしいです。

『パーフェクト ワールド』
ブルーレイ 2,619円(税込)/DVD 1,572円(税込)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
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