ふと本屋の文庫コーナーでみつけた、益田ミリ『わたしを支えるもの すーちゃんの人生』(幻冬舎文庫)。馴染みのあるシンプルなイラスト。まるでなつかしい友達にふいに再会したような気持ちになった。帯を見て「あ、すーちゃん、40歳になったんだ」。私はもうすぐ35歳である。ここ数年の私は結婚したり、子供を産んだりしていたので、新刊にはすっかり疎かった。
初めて手に取った時、私は20代半ば、すーちゃんは30代前半だったと思う。その頃の私は結婚の予定もなく、毎日会社に勤めて、たまにイラストのお仕事をしていた。すーちゃんも独身。はじめはカフェで働いていた。結婚について考えたり、仕事先に嫌いな人がいたり、本屋の店員さんとちょっといい感じになったり、転職したり、ほのぼのとした絵だが実にリアルに物語が進んでいく。
ある落ち込んだ夜に、すーちゃんがひとり泣く描写がある。嫉妬したり羨んだりしてしまった自分を振り返って、涙を流しながらこう言う。「自分探しってなんだよ 世界にたったひとりしかいない本物の自分を 自分が探してどうすんの」(益田ミリ『すーちゃん』 幻冬舎文庫より)。このページを読んだ時、はっとさせられた。「自分探し」という言葉は当時とても良く使われていたけれど、この言葉に囚われてしまっていた若者は多かったのではないだろうか。私もそうだった。
今回手に取った最新作で、40歳のすーちゃんは変わらず独身。1日1日をがんばって生きている。久しぶりの恋に悩んだり、人生について考えたりしている。私は結婚して子供も2人いる。果たして、今の私が読んでどうだろう?共感するのだろうか?少しだけそんなことを思いながら本屋のレジに並んだ。
物語を読み進めていくと、終盤ですーちゃんのお父さんが亡くなってしまう。お葬式が終わり、少し落ち着いたタイミングで仲のいい友達と会っている時に、あえてそのことは言わずに穏やかな時間を過ごすシーンがある。「もうしばらく父のことは黙っていようと思います 大丈夫、って まだ、言わないでおくために」と心の中で語るすーちゃん。私もよく、本当はまだ大丈夫ではないのに「大丈夫」と言ってしまって、後々つらくなってくることがある。思い返すと人生そういうことは今まで何度もあったと思う。こういうちょっとした気づきが、やはりとても響く。
それはそうである。どんな生活をしていたって、ずっと私は私なのだ。そしてすーちゃんはすーちゃんだった。私は家族のいるリビングで、すーちゃんはひとり暮らしの自分だけの部屋で、いろんなことを考えている。