まちを語る

その57 角張 渉(カクバリズム 代表)

その57 角張 渉(カクバリズム 代表)

サンモール一番町
仙台ゆかりの文化人が、その地にまつわるエピソードを紹介するシリーズ「まちを語る」。今回は、個性派アーティストが数多く所属するレコードレーベル&マネジメントオフィス「カクバリズム」の代表、角張渉さん。高校時代の仲間と長い時間を過ごしたサンモール一番町を歩きながら、次々とよみがえる当時の思い出を語っていただきました。
 YOUR SONG IS GOOD、SAKEROCK、cero、二階堂和美といった独創的なミュージシャンを多数輩出しているレコードレーベル「カクバリズム」。その代表であり、自身もDJとして活躍する角張渉さんは、東北学院榴ケ岡高等学校を卒業後、東京の大学に進学。ライブハウスやレコード&CDショップでアルバイトをしながら同レーベルを立ち上げた異色の経歴を持つ。
 この日の待ち合わせは仙台駅。サンモール一番町へと向かう間も、「西武(現仙台ロフト)にあった『ダンキンドーナツ』が好きで、よく行っていましたよ」「仙台VIVREで兄が働いていて」と、懐かしい店の名前が次々と。途中、牛タン店の繁盛ぶりを見て仙台のにぎわいを喜び、仙台土産を求める行列を発見して「家族に買って来てって言われたんですよ」とにっこり。

 話をしながら到着したサンモール一番町は、高校時代の角張さんにとって思い出が詰まった仲間との“居場所”。かつて、南町通りを挟んだ向かいには、テニス部当時に足を運んでいたスポーツ用品店「サイカワ」があり、柳町通り近辺にはよく通っていた古着屋もあった。制服のない高校だったことが古着に興味を持つきっかけになったという。「高校入学当初は仙台フォーラスの周辺などに行くのが多かったんですが、その辺りは全身ブランド服のおしゃれな高校生が多かったんです。居心地が悪くなって、サンモール一番町が僕らの拠点になりました(笑)」。


 仲間とのおしゃべりは、決まって喫茶店「エビアン」だった。特によく行っていたのが高校3年生のころ。外部進学を目指していた受験組がいつも集まるメンバーだ。「僕はコーヒーが飲めなかったからいつも紅茶。お金がない高校生からすると、喫茶店のメニューはちょっと高いでしょ。だから、じゃんけんで負けた人がおごるルールだったんです」。メンバーの一人だった大和田良さんは、現在は国内外で活躍する写真家。一緒にバンドを組み、ハードコアやパンクなどの音楽を教えてくれた彼は、角張さんにとって「人生のキーパーソンの一人」だ。「改めて振り返ると、高校のころに出会った人が教えてくれたカルチャーが、今の仕事につながっていると感じます」。
映画を見た流れで「エビアン」に立ち寄ることも多かった。「ライブに行ったり、映画を見たり、喫茶店で集まったり、ゲームセンターで遊んだり。受験生だったのになんでそんなに時間があったのか、不思議です(笑)」
▲映画を見た流れで「エビアン」に立ち寄ることも多かった。「ライブに行ったり、映画を見たり、喫茶店で集まったり、ゲームセンターで遊んだり。受験生だったのになんでそんなに時間があったのか、不思議です(笑)」
 高校3年生のとき、大和田さんら仲間とバンドを組んだ角張さん。フリッパーズ・ギターやミッシェル・ガン・エレファントの楽譜を買いに来たり、友達がやっていたバンドのライブを観に訪れたりしていたのが、「ヤマハミュージック仙台店」のビルにあったイベント会場だ。会場名については角張さんも記憶が曖昧だと笑うが、「友達のバンドが自主企画的にやっていて、500円とか1,000円で。みんな続々と集まってましたね。友達がいっぱい来て、ものすごく盛り上がってくれたのは覚えていますね。友達だから、という感じではなく、ライブとして楽しんでくれた印象があります」。ちなみに、当時一番町四丁目にあったライブハウス「MACANA」(現在はサンモール一番町)では卒業ライブを行ったという。
角張さんが高校生だった当時は、「ヤマハミュージック仙台店」の5・6階にライブができるイベント会場があり、友達のバンドを見に来ていた。
▲角張さんが高校生だった当時は、「ヤマハミュージック仙台店」の5・6階にライブができるイベント会場があり、友達のバンドを見に来ていた。
初めてライブに行ったのは小学5年生。母親にお願いして、当時ファンだった永井真理子の公演に訪れた。「会場はイズミティ21でした。本編が終わってすぐ、アンコールがあることを知らず母に促されて会場を出たのですが、中から音楽が聞こえてきて。『まだやってたじゃん!』って。悔しかったなあ」
▲初めてライブに行ったのは小学5年生。母親にお願いして、当時ファンだった永井真理子の公演に訪れた。「会場はイズミティ21でした。本編が終わってすぐ、アンコールがあることを知らず母に促されて会場を出たのですが、中から音楽が聞こえてきて。『まだやってたじゃん!』って。悔しかったなあ」
 サンモール一番町には父親との思い出もある。「思春期くらいかな。親父が食事に連れていってくれたのが『カレーショップ酒井屋』でした。初めて2人だけで外食をしたんです。カウンターで隣り合ってカレーを食べましたね」。
 かつて、壱弐参横丁にあったアウトドアショップ「あしの豆」も、小さい頃に父親と訪れた記憶がある。お酒が飲めるようになってからは、ライブで仙台に来た際に横丁の店を利用することも。兄に教えてもらった文化横丁の老舗餃子店「八仙」も、お気に入りの店の一つだ。
 ちなみに、7つ上の兄は崎谷健次郎などのシンガーソングライターの曲をよく聞き、4つ上の姉はパンク好き。当時流行っていた渋谷系を角張家に持ち込んだのは姉だったという。「世代は違いますが、うちの中学では伝統のように先輩からBOØWYが受け継がれていたんです。でも、兄から『BOØWYは聞くな』と言われていました」と懐かしそうに笑う。
壱弐参横丁の入り口にある立ち食いそば「丸富そば」も懐かしの店。そばではなくおにぎりを買って、小腹を満たしていた
▲壱弐参横丁の入り口にある立ち食いそば「丸富そば」も懐かしの店。そばではなくおにぎりを買って、小腹を満たしていた
父親と食事をしたカレー店を見つけた角張さん。通りのいたるところに友達や家族との思い出が刻まれている
▲父親と食事をしたカレー店を見つけた角張さん。通りのいたるところに友達や家族との思い出が刻まれている
壱弐参横丁と言えば、アウトドア雑誌が好きだった父親に連れられてきた「あしの豆」。目当ての店はなくなってしまったが「横丁のこの雰囲気が好きですね。ずっと残っていてほしい仙台の文化です」。
▲壱弐参横丁と言えば、アウトドア雑誌が好きだった父親に連れられてきた「あしの豆」。目当ての店はなくなってしまったが「横丁のこの雰囲気が好きですね。ずっと残っていてほしい仙台の文化です」。
 サンモール一番町から少し足を延ばして訪れたのは、ライブハウス「Rensa」がある一番町四丁目商店街。さまざまな所属アーティストがここのステージに立っているが、コロナ禍の2020年12月にはceroがワンマンライブを行った。自粛の要請に伴い延期となっていた振替公演で、1日2回公演の入れ替え制を取り決行した。チケットはソールドアウト。自粛が続いていた仙台のライブシーンに明るい兆しを届けてくれたステージでもあった。また、2022年に行われたカクバリズム20周年の記念ライブツアーもここで初日を迎えている。「仙台は好きなので、もっといろんなアーティストのライブで来たいですね」。
2020年12月18日、角張さんのスマートフォンが捉えたRensaの客席。入れ替え制を導入し、観客同士が適切な距離を保ちながらceroの音楽に耳を澄ませている
▲2020年12月18日、角張さんのスマートフォンが捉えたRensaの客席。入れ替え制を導入し、観客同士が適切な距離を保ちながらceroの音楽に耳を澄ませている
ライブハウス「Rensa」前にて。コロナ禍の振替公演には葛藤もあったが、思い切って二部制に。ちなみに延期になってしまった3月の仙台ライブ当日は、有料のライブ配信を実施。カクバリズムはライブ配信の先駆けでもあった
▲ライブハウス「Rensa」前にて。コロナ禍の振替公演には葛藤もあったが、思い切って二部制に。ちなみに延期になってしまった3月の仙台ライブ当日は、有料のライブ配信を実施。カクバリズムはライブ配信の先駆けでもあった
 ceroやイルリメは、東日本大震災後の2011年5月に勾当台公園で無料ライブを行った。「発生当時は仙台にいなかったので、テレビ画面を通して被災の様子をリアルタイムで見ていました。とにかく衝撃が大きかった。そして、震災で自分の考えが変わりました。それまでは、『ほかと違うことをしなければいけない』と強く思っていたし、『人と違うことをしてきたからここまでやって来られた』という自負もありましたが、震災以降はそれだけでなく“ダサいとか気にせずやるしかない”という思いに変化しました。ドラマ『あまちゃん』のセリフにあった『ダサいくらいなんだよ!我慢しろよ!』の言葉が刺さりましたね」。角張さんは、震災の翌年から、毎年3月11日には必ず仙台に帰省し、荒浜を訪れて黙とうを捧げている。
ぶらんど~む一番町では、シャッターが下りている「仙台フォーラス」を見つけ、「一時閉館ですか。『ラス前待ち合わせ』ができないんですね」と、まちの変化を寂しがった
▲ぶらんど~む一番町では、シャッターが下りている「仙台フォーラス」を見つけ、「一時閉館ですか。『ラス前待ち合わせ』ができないんですね」と、まちの変化を寂しがった
 最後に、仙台にいたころの経験がカクバリズムを運営する上で影響している部分があるかを聞いたところ、「もちろんあります」と角張さん。「カクバリズムを立ち上げてCDを販売するとき、東京の一部店舗限定にして価値を高めて販売する戦略もありましたが、そうはしなかった。地方の人にも届くよう全国販売にしようと思っていたんです。それは、仙台に居たころ東京でしか手に入らない状況が悔しかったから。それでも、仙台は恵まれた都市だと感じます。たくさんのライブハウスにいろんなアーティストが来ますから。仙台の人にはその環境を楽しんでほしいですね」。
 まち歩きを終えた角張さんは、「じゃあ、『エビアン』に行ってきます!」と軽やかな足取りでビルの階段を上っていった。

後日談:満席のため入店はできなかったとのことです。


掲載:2026年3月3日

取材:2025年11月

取材・原稿/関東 博子 写真/熊谷 寛之

角張 渉
角張 渉 かくばり・わたる
仙台市出身。東北学院榴ケ岡高等学校を卒業後、大学進学のために上京し、ライブハウスでのアルバイトを開始。在学中に「カクバリズム」を立ち上げ、リリース1作目としてYOUR SONG IS GOODの7インチCDをリリースした。大学卒業後も、レコード・CDショップで働きながらレーベルを運営し、マネジメントも担当する会社に成長。現在は、在日ファンクやcero、二階堂和美、キセル、イルリメなど多数のアーティストが所属し国内外で活躍している。著書に『衣・食・住・音 音楽仕事を続けて生きるには』がある。