まちを語る

その44 菱沼 勇二(パフォーマンス集団「白A」 ディレクター)

その44 菱沼 勇二(パフォーマンス集団「白A」 ディレクター)

愛子・落合・折立周辺
仙台ゆかりの文化人が、街を歩きながらその地にまつわるエピソードを紹介するシリーズ「まちを語る」。今回は結成20周年を迎えたパフォーマンス集団「白A」の菱沼勇二さんが、活動のルーツや思い出の地をたどります。
 プロジェクションマッピングと身体表現の融合によって、国内外で高く評価されているパフォーマンス集団「白A(シロエー)」。2020年に活動拠点を東京から地元・仙台へ移してからは、仙台うみの杜水族館でのショー「SEATOPIA(シートピア)」のプロデュース、伊達武将隊とのショーレストラン「伊達スペクタクル」の演出など、宮城を新しいエンターテインメントで彩っている。そんな彼らが事務所を構えているのは、白A結成の地でもある青葉区愛子・落合エリア。グループの黎明期から中心的役割を担ってきた菱沼勇二さんが「メンバーと出会った場所です」と案内してくれたのは、事務所から車で5分ほどの宮城県宮城広瀬高等学校だ。教頭先生にごあいさつして校舎の中へ入ると、歩を進めるたびに思い出がよみがえる。
「あー、懐かしい。校舎の雰囲気もこの下駄箱も25年前と変わってないです」と菱沼さん。白A結成後、同校体育館での芸術鑑賞会に出演したことはあったが、校舎内を歩いたのは卒業以来。
▲「あー、懐かしい。校舎の雰囲気もこの下駄箱も25年前と変わってないです」と菱沼さん。白A結成後、同校体育館での芸術鑑賞会に出演したことはあったが、校舎内を歩いたのは卒業以来。
メンバーの溜まり場だった渡り廊下。「昼休みはここに集まって、ウケ狙いのパフォーマンスをしてました。銅像みたいなポーズで静止する“オブジェ”という遊びとか、UFOを呼ぶ儀式とか…」
▲メンバーの溜まり場だった渡り廊下。「昼休みはここに集まって、ウケ狙いのパフォーマンスをしてました。銅像みたいなポーズで静止する“オブジェ”という遊びとか、UFOを呼ぶ儀式とか…」
 白Aの立ち上げメンバーの多くが、宮城広瀬高校の演劇部出身。放課後の部室や昼休みの渡り廊下でのおふざけが、「白Aのパフォーマンスの原点」だと菱沼さんは語る。「自分たちがエンターテインメントを始めたのは高校1年生。僕は演劇のほかに、お笑い芸人としても活動していて、みんなで好きなことを好きなようにやっていたのがめちゃくちゃ楽しかった。人前で何かしたいというエネルギーは、高校時代に育まれましたね」。
 さらに白Aのオリジナリティのルーツをたどっていくと、高校の視聴覚室での記憶が浮かび上がる。「演劇部の稽古がない日は、顧問の森先生が視聴覚室で映画や舞台映像を見せてくれたんです。タランティーノや寺山修司の映画、野田秀樹の舞台など、噛みごたえのある作品やアート表現が多くて。おのずと自分たちも王道ど真ん中ではなく、誰もやったことのない新しい表現を突き詰めるようになりました」。
「視聴覚室で見せてもらった映画や舞台は、今でも自分のフェイバリット。高校生には難しい作品が多かったけれど、何年経っても記憶に残っているし、歳を重ねるほど面白く感じています」
▲「視聴覚室で見せてもらった映画や舞台は、今でも自分のフェイバリット。高校生には難しい作品が多かったけれど、何年経っても記憶に残っているし、歳を重ねるほど面白く感じています」
 菱沼さんらが高校を卒業すると、演劇部顧問の森和彦先生が「劇団CUE(キュー)」という新団体を設立。この劇団に所属していた一部メンバーによって、2002年に白Aが結成された。菱沼さんが「劇団時代の稽古場」と振り返るのが、愛子地区にある仙台市広瀬文化センター。「劇団の頃は、毎週ここのセミナー室で稽古していました。当時はお芝居・ダンス・歌・お笑いなどを雑多に表現していて、大衆性のあるエンターテインメントというよりは、アングラ志向でしたね」と回顧する。
 その劇団時代を経て、白Aとして活動するようになってからも、広瀬文化センターとのゆかりは深い。白A結成20周年の記念公演が同館で開かれたほか、地域の子どもたちとのワークショップ&ショー「広瀬から創ろう‼︎ブロードウェイ‼︎〜パフォーマンス集団白Aと一緒に〜」も大盛況を博した。
劇団時代に稽古していたセミナー室にて。広瀬文化センターの事務長・太田光照さんは「白Aさんが地元に戻ってきてくれて、うれしく思っています」と、地域イベントでの協働に期待を寄せる。
▲劇団時代に稽古していたセミナー室にて。広瀬文化センターの事務長・太田光照さんは「白Aさんが地元に戻ってきてくれて、うれしく思っています」と、地域イベントでの協働に期待を寄せる。
広瀬文化センターが主催し開催されたイベント「広瀬から創ろう‼︎ブロードウェイ‼︎」では、子どもたちの描いた絵が白Aのパフォーマンスに登場。地元のダンススクール生も参加し、ショーを盛り上げた。
▲広瀬文化センターが主催し開催されたイベント「広瀬から創ろう‼︎ブロードウェイ‼︎」では、子どもたちの描いた絵が白Aのパフォーマンスに登場。地元のダンススクール生も参加し、ショーを盛り上げた。
 こうして今では広く活躍する白Aだが、劇団を脱退してからは広瀬文化センターのセミナー室を借りるお金もなかったという。稽古場代わりに利用していたのが、「折立なかよしこみち」と名付けられた歩行者用トンネルだ。「ここなら夜でも明かりがあるし、雨が降っても濡れない。ライブ前は毎日のように、ダンスレッスンしていました」。メンバーそれぞれのアルバイトが終わった夜に集合し、日付が変わるギリギリまで練習。その成果を披露していたのが、仙台フォーラス地下のライブハウス「SENDAI CLUB JUNK BOX」である。
 折立なかよしこみちを後にして、JUNK BOXまで車を走らせることに。途中、白A行きつけのラーメン店「みずさわ屋」に立ち寄り、仙台西道路を抜けて広瀬通へと向かった。
かつての練習場所だったトンネル「折立なかよしこみち」。「トンネルの幅とJUNK BOXのステージの幅がちょうど同じくらいで、メンバーの立ち位置なども確認しやすかったんです」
▲かつての練習場所だったトンネル「折立なかよしこみち」。「トンネルの幅とJUNK BOXのステージの幅がちょうど同じくらいで、メンバーの立ち位置なども確認しやすかったんです」
「もし、この壁画の写真を撮ってメンバーに送ったら、みんなどこだか答えられると思います。同じポーズをまねして遊んだりもしましたね」
▲「もし、この壁画の写真を撮ってメンバーに送ったら、みんなどこだか答えられると思います。同じポーズをまねして遊んだりもしましたね」
白Aが今も昔も通うランチスポットが、JR陸前落合駅近くの「みずさわ屋」。「ラーメンとバター肉ご飯の相性が抜群です!冬限定のキムチチャーハンと夏限定の冷やしラーメンもオススメ‼︎」
▲白Aが今も昔も通うランチスポットが、JR陸前落合駅近くの「みずさわ屋」。「ラーメンとバター肉ご飯の相性が抜群です!冬限定のキムチチャーハンと夏限定の冷やしラーメンもオススメ‼︎」
「SENDAI CLUB JUNK BOX」では、店長の板橋 圭さんが迎えてくれた。初期の白Aを知る板橋さんは「今の活躍を見ていて、すごいなと。当時は変な人たちだと思ってましたけどね」と笑う。
▲「SENDAI CLUB JUNK BOX」では、店長の板橋 圭さんが迎えてくれた。初期の白Aを知る板橋さんは「今の活躍を見ていて、すごいなと。当時は変な人たちだと思ってましたけどね」と笑う。
 ライブハウス「SENDAI CLUB JUNK BOX」は、白Aが2002年から2009年までホームグラウンドとしていた場所。3カ月に1度ほどのペースで、ステージパフォーマンスを行っていた。「オリジナリティに磨きをかけたのが、JUNK BOXという表現の場。ライブイベントで共演していた仲間たちも、アート性の高いバンドや映像作家が多かったので、僕らもすごく刺激を受けました。あの切磋琢磨した時代がなかったら、今の白Aの武器である『映像と人間のシンクロ』は思いつかなかったかもしれません」。
 2009年には芸能事務所アミューズと契約し、しばらくは東京に拠点を置きつつ、海外でも活動していた白A。仙台を一度離れて広い世界を渡り歩いた彼らだからこそ、地元の魅力も再発見できた。「仙台には、自然・歴史・文化・グルメが全部ある。観光地としての魅力も大きいと思います。その魅力が子どもや老若男女の皆さんに伝わるように、さらには海外の人にも知ってもらうために、非言語表現のエンターテインメントで楽しくわかりやすく発信するのが、僕らの役割かなと。伊達政宗公が世界と未来を見て動いたように、白Aも新しいレジャーや新しい観光コンテンツをつくって、宮城を盛り上げていきたいです」。

掲載:2022年12月2日

取材:2022年10月

取材・原稿/野原 巳香 写真/寺尾 佳修

菱沼 勇二 ひしぬま・ゆうじ 
仙台市出身、「白A」ディレクター。ダンスやアクロバットなどの「身体表現」と映像やAR技術などの「テクノロジー」を掛け合わせることで、独自のノンバーバル・エンターテインメントを確立した白A。国内でのステージショーのプロデュースやNHK Eテレ「にほんごであそぼ」レギュラー出演のほか、欧米でのツアーやロングラン公演の成功、アメリカの国民的オーディション番組「アメリカズ・ゴット・タレント」ではアジア人初のゴールデンブザー賞を獲得する。2020年からメンバーが各地に活動の拠点を移すなか、拠点を仙台に移す。地方創生を推進するイベントプランニング、訪日観光客向けのコンテンツ制作などにも力を注ぐ。