インタビュー

子どもの表現を考える

前編|TEXT大江よう インタビュー

TEXT・大江ようさん

今日は、大江さんのご自宅のアトリエにお邪魔しています。「多様なメディアを活用した文化芸術創造支援事業」の助成事業で導入されたのが、レーザーカッターですね。

今まで外注していた刺繍やレーザーカッターなどの作業を「自家製」で行うことが必要になり、多様なメディアを活用した文化芸術創造支援事業の「創造・発信のための基盤づくり事業」の方に応募させていただきました。

基盤づくり事業を選んだのは?

普段からプロダクトを作っているのですが、プロダクト自体で収益を上げるというよりは、最終的には、教育など様々な活動を支援している団体との関わりで何かを広げていくことがしたく、そのための機材を支援事業で整備させていただきました。具体的には、子どもの描くドローイングを主体に表現を考えていくための、デジタル加工機材と制御ソフトです。

今回の助成事業「PLOT」( https://plot.ooo )について教えてください。

まずは、ウェブサイトの構築です。子どもたちの描いた作品の画像をアップロードできるようになっていて、実際に僕がその画像を素材に落とし込んでアウトプット(生地やプロダクトなど)を作り、掲載していくような構想です。

今回のウェブサイト用に、岡本健デザイン事務所にウェブフォントを作っていただきました。その方の娘さんが3歳の時に書いた文字をアルファベットに当てはめて作っています。
ウェブフォントをホームページに組み込むプログラムを組んでもらったので、ほとんどのパソコンやスマートフォンで閲覧することができます。

画像ではなく、ちゃんとテキストデータになっているということですね!
何と書いてあるんでしょうか?

プロダクトの説明などです。最初は可読性のある通常の文字を使おうと思っていたのですが、子どものドローイングを扱う上で、「これが可愛い」とか、「こういう見せ方が正しい」と、大人が子どものドローイングを評価し解釈しようとする流れから少し外れ、大人と子どもの見るものの解像度の違いを、フォントを通して出せればよいなと考えました。

子どもが描いたものを素材に落とし込んでアウトプットを作る時は、パターンにする時もなるべく単純な繰り返しにして、色も絞っています。

子どものドローイングや作り出すものには、大人の解釈を入れたくないと思っています。その理由は、ものの用途に大人がなるべく手を加えずドローイングをのせ、子どもに発想を委ねることで、その子の考え方が広がっていくと思うからです。

「PLOT」のウェブサイトに関しても、大人が読めない文字が載っているからといって、大人が理解する必要はない。一方で、子どもは絵と文脈を汲み取る力が強いので、どんな文字でも読めると考えています。

例えば、これは僕の子どもが自分の名前を描いたもの。全部「お」に見えるけれど、本当は「お」ではない、とか。なるべく固定の解釈を加えず、そのまま受け取ることができれば、プロジェクトとして広がりがあるんじゃないかと考えています。

ウェブサイトを初めて拝見した時、まさに「何と書いてあるか読めない」と、大人脳の反応をしてしまいました。大江さんの今回のプロジェクトは、「子どもの描いたものを大人が編集してプロダクトにするというもの」と捉えていたのですが、もっと根源的なことに焦点を当てたものだったのですね。

なんとなく書いてあることがわかるような気がするんです。我々は、そういうところまででOK、というか。

子どもが自発的に描いたものを画像としてアップロードする、という過程が、使う人に委ねられている部分が大きいですね。こういった形のプロジェクトにしようと思ったそもそもの狙いはどんなことでしょう?

多くの子ども向けのワークショップという枠組みが、「手軽に安全にできることを」という制約の中で行うことが多く、バッグにスタンプを押したり、子どもの描いた絵を額装してみたりと、施設や大人の都合などが前に出てしまっているケースが多いと感じています。

子どもは、自分の落描きを大事にとっておいたりすることはあまりなく、すぐに放り投げてしまうことがよくあります。子どもにとっては「描いて近くの人に見せる」ということで、落描きの役目は終わっているといえます。

それでも、自分が描いた名前が模様のように見えるとか、構図を変えることでそれを描いた子ども自身が、自分が見えていたものと違った見え方になるというのを感覚的に楽しんでもらえたらいいなと思っています。

あくまで子どもの視点のプロジェクトなのですね。
現在のウェブサイトのアウトプットには、大江さんのお子さんが描いたものが使われています。お子さんにはこのプロジェクトのために描いてもらったのでしょうか? それとも日常的に描いていたものを使ったのですか?

そこが難しいですね。選んでしまうと僕の作品になってしまうので、なるべく、ピカチュウとかがあった方がリアルでいいですよね(笑)。今後、他の利用者の方からアップロードされるものに関しても、大人の「かわいいか、かわいくないか」の感覚で選ぶのではなくて、届いた順にアウトプットを作っていくのがいいかなと思っています。

「PLOT」の今後の展開はありますか?

うちの子どもたちが通っている幼稚園では、震災孤児の支援団体と関わりがあり、クリスマス時期に、幼稚園の子どもたちと震災で被害を受けた子どもたちが靴下などを贈り合っています。

「PLOT」も、そういう社会課題の支援に繋がる活動にしたいと考えていますが、大きなお金の支援は大企業が何億円レベルでやっていることなので、「PLOT」では体験という形で支援できたらと考えています。
例えば、子どもたちに、「PLOT」のシルクスクリーン印刷の作業をアルバイトとしてやってもらう。製品の完成度を高めるという発想ではなく、システム自体に意味のあるアウトプットにしていきたいですね。

子どもたちが大人になってからのことは、僕らにはもうわからない。現在の比ではなく僕らが“老害化”するスピードは早くなってくると思います。
絵を描くこと自体に興味をもってもらうというよりは、表現のいろいろな手段や構造を感じさせてあげたいなと考えています。

掲載:2021年11月30日

取材:2021年3月

企画・取材・構成 奥口文結(FOLK GLOCALWORKS)、濱田直樹(株式会社KUNK)

このインタビューは、「多様なメディアを活用した文化芸術創造支援事業」の助成事業実施者に文化芸術活動や新型コロナウイルス感染症の影響等について伺ったものです。

当日は、身体的距離確保やマスク着用などの新型コロナウイルス感染症対策を行いながら、取材を行いました。写真撮影時には、マスクを外して撮影している場合があります。

TEXT大江よう