インタビュー

高校生の文化芸術活動
#01 常盤木学園高等学校ミュージカル部

第37回公演「群盗-Die Räuber-」(宝塚歌劇作品) オープニングシーン

様々な出会いや体験を通して自分を模索する10代後半。演劇、映像、合唱、ブラスバンド、美術など、この時期に文化芸術への興味や関心を抱いたことをきっかけに、表現活動を深めていく人も少なくないはずです。
この「高校生の文化芸術活動」の特集では、今まさに文化芸術との出合いの渦中にいる高校生たちにフォーカスを当て、活動の内容やその魅力、自分自身の変化、そしてコロナ禍における活動の工夫についてなど、高校生たちの思いに迫ります。
今回は常盤木学園高等学校ミュージカル部 部長の猪股さん、副部長の毛利さん・田村さん、顧問である丸山健太先生にお話を聞きました。

第36回公演「アイラブアインシュタイン」(宝塚歌劇作品) 人間至上主義者の演説シーン

常盤木学園ミュージカル部の特徴や魅力を教えてください。

毛利さん:ミュージカル部がある高校は珍しく、演劇とはまた違う、歌や踊りの経験ができるのが私には魅力的で入部しました。この部活動を通じて、人前に立つときの自信が身に付いたように感じています。

田村さん:私は何より「楽しい」という感情が生まれることが魅力です。実際には、舞台の大道具から照明、音響、ダンスの振り付けなどすべてを自分たちの手でつくるので、大変なことはたくさんあります。それでも、いつもそこに「楽しさ」を感じています。

猪股さん:私は部の雰囲気がとても良いことが魅力だなと感じます。セリフや振り付けを間違ったときでも和やかな雰囲気で励まし合えるので、失敗を怖がらずに思いきり日々の練習に取り組むことができています。どんな役割になっても「未経験だから」「苦手だから」と諦めることはせず、“全員の気持ちを揃えて”作品づくりに取り組むパワーがあり、私もその雰囲気に支えられています。

丸山先生:生徒たちがやっていることは、歌や演技、ダンスはもちろん、衣裳制作、メイク、照明、音響、大道具・小道具、パンフレットやチラシのデザイン、SNSでの広報など、挙げればきりがないほど。「お客様に観ていただく」ための様々なことを生徒主体で行っていて、そのあらゆる表現活動に携わることは、いち部活動とは思えない幅の広さを感じます。

ダンスの稽古の風景
本公演準備風景 プロジェクタ用の幕のとりつけ
本公演前の声出し
本公演前のメイク・衣裳準備

ミュージカル部に所属してから、ご自身にどのような変化があったのでしょう。

毛利さん:私は今まで3回の公演を経験しましたが、すべての公演に共通して言えるのは必ず“殻を破る”場面があったということです。例えば昨年の春に行った公演でアンドロイド役を演じましたが、人と同じような見た目でも人と同じような心は持っていないという役柄で、動きもアンドロイドらしさを求められる難しい挑戦でした。少し「恥ずかしい」という気持ちもあり、それを抑えて演じることもハードルが高かったのですが、今思えばその経験が、私の殻を破るターニングポイントだったのかもしれません。それ以降、希望の役をいただけたり、イベントでボーカルを任せていただいたりしたときも、楽しんで向き合えるようになりました。気付いたら、人前に立つことが怖くなくなっていました。役柄に没頭したことで、その怖さが克服できたのだと思います。

田村さん:私は入学後にミュージカル部に出合い、ダンスも歌も、演技すら経験したことがなかったのですが、「ただやってみたい」「先輩たちのようにかっこよくなりたい」という気持ちで先輩たちについてきました。気付けば私も毛利さんと同じように、人前に出ることが怖くなくなっていましたし、むしろ前に出ることが好きになったように思います。「新しいことに挑戦したい」と思える自分になっていました。これは、以前の私ならありえないことだなあと。ミュージカルがもっと好きになっていることも、私にとってはうれしい変化です。今は宝塚歌劇の作品を観て、男役の研究をしているところです。「ミュージカル部の公演で自分が演じる役と雰囲気が似ているかも」と思いながら参考にしています。

学園祭での発表
第37回公演「群盗-Die Räuber-」(宝塚歌劇作品) 群盗結成シーン

コロナ禍は、どんな工夫をして乗り切ったのでしょうか。また、部活動にどのような変化がありましたか?

猪股さん:思うように練習ができず、解消しようのない停滞感を強く感じていました。また、制限された稽古の中でなんとか公演が完成しても、席数に制限がかかり、たくさんのお客さんに観に来てもらうことができず、さみしさを感じました。

丸山先生:幸い、コロナの感染が始まって1年半くらいの期間は部内から感染者が出なかったのですが、ある時仙台市で爆発的に感染が増加したタイミングでついに影響が出てしまいました。この時に感染の影響を受けないようにする難しさを実感したと同時に、多くの人が関わる舞台を成立させることそのものが貴重なのだということを以前よりも強く感じました。

第38回公演の振り付け風景

先生や講師からの言葉で、皆さんの印象に残っていることはありますか?

猪股さん:演技やダンスを指導してくださる外部講師の先生がおっしゃっていた「もっと自分にストイックになるべき」という言葉がとても印象に残っています。その言葉を聞いた時はハッとさせられ、日々の練習や自主練習の取り組み方を見直すきっかけになりました。

毛利さん:私は「舞台人であり役者であることを常に意識していなければならない」という言葉です。普段からなるべく背筋を伸ばすことを心がけるようになったのも、その言葉があったからかもしれません。また、日常的に多くの作品に触れて、表現の幅を広げる努力をしています。

田村さん:印象に残っている言葉はたくさんあるのですが、「“でも”“しかし”は言わない」「プライドは高い方がいい」「いろんな人の意見を聞くこと」「かっこ悪いことはせず、常にかっこよくいる意識を持つ」「自分が後悔することはしないこと」は、日頃から意識するようになりました。猪股さんも毛利さんも部活動で同じ時間を過ごしているけれど、印象的な言葉がそれぞれ違うのはおもしろいですね。

校内行事に向けたダンス練習風景

これからの目標などをお聞かせください。

猪股さん:自分たちの手でつくり上げたミュージカルをたくさんの人に観てもらうこと。そして、ミュージカルそのものを楽しんでもらうことが目標です。ミュージカルには本当に様々な作品や種類、系統があります。その時々の公演づくりで、なるべく毎回テイストが異なる作品を取り上げるように心がけています。例えば、革命がテーマの作品を取り上げた次は学園をテーマにした作品づくりに挑戦することで、「ミュージカルにはこんな作品もあるんだな」「メンバーは同じでもこんなに雰囲気が変わるんだ」など、観る人にミュージカルの面白さを伝えられると思うんです。でもそのためには、部員一人一人のスキルを上げることが必要だということも自覚しています。

毛利さん:私もまずは多くのお客様に公演を観に来ていただくことを目指していきたいです。常盤木学園ミュージカル部の存在を知っていただきたいという思いもありますし、私たちの存在がミュージカルの魅力をたくさんの人に伝えるきっかけになればいいなと感じています。

丸山先生:高校の部活動だと侮るなかれ、生徒の熱意は本物です。公演を観に来てくれる方にはミュージカルや舞台を初めて観たという人も多いので、そんな方々に「想像よりはるかにすごい舞台だった」と思ってもらうことが一番の喜びですね。私たちの公演をきっかけにミュージカルや舞台の世界へ関心を抱いてもらえたらより一層うれしいです。

田村さん:私は3月と8月の年2回行っている公演を大切に行っていきたいです。目指すのは、観る人の心を動かす舞台。私たちの公演を観に来てくださったすべての人を感動させられるような公演にしたいと思っています。私は先輩方の『めぐり会いは再び』(第34回公演 宝塚歌劇作品)を観て心を動かされた一人なので、自分たちもそんな舞台をつくりたいです。

第36回公演「アイラブアインシュタイン」(宝塚歌劇作品) 人間至上主義者の演説シーン
第37回公演「群盗-Die Räuber-」(宝塚歌劇作品) エピローグシーン

掲載:2024年1月25日

取材:2023年12月

写真提供/常盤木学園高等学校ミュージカル部

常盤木学園高等学校ミュージカル部
2006年、前身である「ミュージカル同好会」から「ミュージカル部」となり活動がスタート。部員24人が力を合わせ、礼儀と伝統を大切にしながらミュージカルの魅力を発信し続けている。週5日の活動では公演やイベントへ向けた練習を行うほか、外部講師を招いた演技、歌、ダンスの基礎練習にも力を入れ技術を磨いている。年2回の公演をはじめ学園祭や新入生歓迎会、3年生送別会などの学校行事でミュージカルを披露。外部イベントへの出演も積極的に行う。