インタビュー

技巧を前に出さず
柔軟な音色や
曲の魅力伝えたい

ホルン奏者・庄司雄大

抜群の安定感と美しい音色で注目される仙台市出身のホルン奏者・庄司雄大さん。藝大フィルハーモニア管弦楽団首席ホルン奏者、NHK交響楽団契約楽員として多くの演奏会に出演し、ソロ、室内楽でも積極的に活動している。2024年3月には期待の若手演奏家が登場する東京オペラシティ(東京都新宿区)のリサイタルシリーズ「B→C」(ビートゥーシー|バッハからコンテンポラリーへ)に出演することになった。リサイタルは仙台市の日立システムズホール仙台 交流ホールで3月23日、東京オペラシティ リサイタルホールで3月26日に開く。庄司さんがホルンと出合ったのは中学校の吹奏楽部。中学2年から高校2年までは仙台ジュニアオーケストラに所属し、腕を磨いた。リサイタルへの意気込みや、プロの音楽家を目指して歩み出した仙台時代の思い出などを聞いた。

東京オペラシティのB→Cシリーズにどんな印象を持っていましたか? 厳しい選考があり、出演するのは難しいと聞いています。リサイタルにはどんな気持ちで臨みますか?

 ホルンのトップ・プロの人たちが若い時にこのシリーズに出ていて、若手の登竜門的な演奏会だと思っていました。いつかは出られたらいいなと、20代の頃コンクールなどで頑張ったところもあります。選ばれた時は「僕でいいの?」と信じられない気持ちでした。
 東京のリサイタルはホルン関係の人が多く聴きに来てくれると思いますが、仙台はホルンをやっていない人が中心となるでしょう。ホルンという楽器の難しさではなく、音色とか、音楽そのものの魅力が伝わるような演奏をしたいと思っています。

B→CシリーズはJ.S.バッハの作品と現代の作品を軸に選曲することが条件です。プログラムはかなり工夫したのではないですか? コンセプトは何ですか? 1曲目はバッハ『ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ第1番(BWV1027)』を選びましたね。

 コンセプトをどうするかは、かなり悩みました。バッハと現代に生きる僕たちの共通点は何か、当時も今もあるものは何かと考え、「自然」ではないかと思いつきました。例えば星だったり、季節だったり、森や空気だったり…。自然を現すホルンの作品を探しました。
 バッハは中学の頃から大好きなホルン奏者ラデク・バボラークさんがヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタ全3曲をホルンとピアノで演奏していたことにインスピレーションを得て、選びました。もともとは弦楽器のための曲なのでホルンで演奏するのは難しいです。管楽器は息つぎなどが必要ですから。

プログラムを見ると、ドイツとフランスの作曲家をバランスよく取り上げています。現代の作品は技巧的に非常に難しいと言われる曲が多いですね。モッチ=エティエンヌ(フランス)の『千々の流れ』は、今回のリサイタルのために、庄司さんが委嘱した作品です。

 作曲家の国については意識しなかったのですけれど、やりたい曲をピックアップしたら、結果的にこうなりました。ヴィトマン(ドイツ)の『エア』はミュンヘン国際音楽コンクールの課題曲だったので取り組みたいと思いました。音域がとにかく広く、さまざまなテクニックが求められます。ゲシュトップ奏法(ベルを右手で完全にふさぎ金属的な音を出す)はもちろん、重音奏法やハーフバルブ(バルブを半分押してくぐもった音を出す)などです。
 ボザ(フランス)の『森にて』は細かい音がたくさん出てくる、非常にテクニカルな曲ですが、音楽として聴きやすく、狩りや夜などの場面の切り替わりがはっきりしています。
 モッチ=エティエンヌは、主催者の東京オペラシティ文化財団に紹介してもらった作曲家です。現代的な混とんとした響きの中、ところどころ調性が顔をのぞかせるような曲にしてほしいとお願いしたら、彼は今回のプログラムを見て、バッハのヴィオラ・ダ・ガンバソナタのメロディーを作品の中に取り入れてくれました。現代的な響き、ホルンにしては細かい音程の取り方などが特徴です。

バルボトゥ(フランス)、メシアン(フランス)、ヒンデミット(ドイツ)と変化に富んだ曲が並びます。ヒンデミットは自然と結び付かない気がしますが、どんなメッセージを込めたのですか?

 バルボトゥの『四季』は四つの楽章から成る、フランスらしい作品です。今回のプログラムでは一番聴きやすい曲でしょう。メシアンは、大規模な管弦楽曲の中のホルン独奏の楽章。「自然」をテーマにすると決めたとき、初めに頭に浮かんだのがこの曲でした。ホルンのソロの現代曲としてはかなりメジャーな作品ですし、外せないと思いました。
 ヒンデミットはメッセージ性が強い曲です。例えば第4楽章ではピアノが弾く細かいパッセージが電車のガタンガタンという響きを表し、その上にホルンがゆったりとしたメロディーを奏でます。馬で移動していた時代のスピード感です。現代と昔のスピード感が一つの楽章で表現されています。この曲は自然とは関係ないのですが、1曲目にバッハ、最後にヒンデミットを置くことで、バッハの時代と僕たちの時代を対比させようと考えました。

盛りだくさんの内容ですが、仙台のお客さんには、どこに注目してほしいですか。

 ホルンにできることをほぼ網羅したプログラムです。特にヴィトマンやボザは技巧的な面が前に出やすいのですが、それを意識させず、心にすっと入ってくるような演奏を心掛けたいです。ドイツとフランスの作曲家の違いにも注目してほしい。ドイツの作品は様式感というか、がっちりした印象があり、フランスの作品は色彩的、感覚的な部分が多いです。

仙台時代のことを聞かせてください。ホルンはいつ始めたのですか? 仙台ジュニアオーケストラ(※)にも在籍していました。プロを意識したのは仙台にいた時ですか?

 中学校に入学し、吹奏楽部に入ったのが始めたきっかけです。小学6年の頃、テレビで映画『スウィングガールズ』を見て、吹奏楽をやりたいと思いました。ビッグバンドと吹奏楽の違いも知らなかったのです。ホルンは吹いたら音が出たので、深く考えずに始めました。頑張って練習しましたが、初めはこの楽器は何がいいのだろうと思って。クラシックの曲は知らなかったし…。ホルンの良さを知ったのは、中学2年で仙台ジュニアオーケストラに入ってからです。親が募集要項をもらってきて、じゃあやってみようと軽いノリで受けました。
 オーケストラではホルンが活躍する曲がたくさんあったので、すぐに楽しくなりました。特に弦楽器と演奏した時の響きにひかれました。初めて参加したのはドヴォルザークの『交響曲第8番』がメインの演奏会。第2楽章の冒頭の雰囲気がすごくすてきで感動しました。
 ジュニアオケに入らなかったら、ホルンの面白さも知らなかったし、プロになろうと思わなかったでしょう。プロを意識し始めたのは中2の終わりの頃です。第一歩として常盤木学園高校の音楽科を目指し、ピアノやソルフェージュなどの準備を始めました。

※仙台ジュニアオーケストラ:仙台市の音楽文化の振興と発展を図ることを目的に1990年に発足。団員は、公募による選考で選ばれた小学5年生から高校2年生までの児童・生徒で構成される。

庄司さんにとって、ホルンはどんな存在ですか? 好きなところは? 金管楽器で一番演奏が難しいと言われますが、どんな時にやりがいを感じますか? また、オーケストラの中での役割をどう捉えているか、聞かせてください。

 仕事であり、趣味でもあるのですが、ホルンは生活の一部で、人生そのものという感じです。一番好きなところは音色です。ホルンは柔軟な音色を持っていて、他の楽器とよく調和します。難しいですけれど、オーケストラの中で良いソロが多いのですよ。ここが決まったら音楽的にすごく意味があるソロがたくさんあります。うまく決まった時はやりがいを感じます。プレッシャーはありますが、そこは「ハイリスク・ハイリターン」で(笑)。
 オーケストラの中では弦楽器と一緒にメロディーを吹いたり、木管楽器と一緒にハーモニーをつくったり、金管楽器と一緒にファンファーレを吹いたり。各セクションのつなぎ役であり、音色のブレンドを考えるのが、ホルンの仕事として大きいと思います。

仙台での活動について伺います。仙台フィルハーモニー管弦楽団の演奏会にはエキストラで度々招かれ、「仙台クラシックフェスティバル(せんくら)」(※)や宮城野区文化センターの「Music from PaToNa(ミュージック・フロム・パトナ)」(※)にも出演しています。

 仙台フィルの演奏会に初めて出演したのは大学2年の終わり頃。リハーサルが始まる前の日に電話があって。プロのオーケストラに参加したのは、この時が初めてです。30分前に集まって音出しするとか、プロの約束事を何も知らなかったので、ギリギリに行きました。
 演奏は何もわかっていませんでしたが逆に怖さも知らない。『新世界より』(ドヴォルザーク)をメインにしたプログラムで、3番ホルンを演奏しました。難しいパートですが、ガチガチに緊張することはありませんでした。仙台でソロ、室内楽をする機会はあまりないので、せんくらもミュージック・フロム・パトナも、呼んでもらえるのはありがたいです。

※仙台クラシックフェスティバル(せんくら):2006年から毎年秋に開催されるクラシック音楽のイベント。仙台市内の各所で多種多様なプログラムの公演が行われ、クラシック音楽を気軽に楽しむことができる。公式ウェブサイト https://sencla.com

※Music from PaToNa(ミュージック・フロム・パトナ):2014年から続く、宮城野区文化センターPaToNaホール主催の室内楽セレクション。

2021年のせんくらでの演奏。ピアノは遠藤直子(会場:太白区文化センター 展示ホール)

現在の活動について聞かせてください。藝大フィルハーモニア管弦楽団の首席ホルン奏者、NHK交響楽団の契約楽員のほか、ジャパン・ナショナル・オーケストラ(JNO)のコアメンバーとして、またホルンアンサンブル「Horsh」でも活躍しています。

 今年から参加しているN響は、試用期間中で演奏会の数も多いので、藝大フィルよりN響の活動が中心になっています。毎月6公演がノルマで、地方公演が多いと月10公演を超えることもあります。NHKホールという巨大なホールがメインの活動の場で、ホールに合った音作り、楽器選びが求められます。NHKホールで演奏をしていると音圧もどんどんついてくるので、N響はどの楽器も、全体のサウンドもパワフルです。もっとパワーを付けることは僕の課題の一つです。
 反田恭平さんが率いるJNOは年2回のツアーに加え、奈良県と東京でのリサイタル開催がメンバーのノルマ。Horshは割と年代が近い人とやっているホルンアンサンブル(五重奏)で、仕事というより同人サークル的な団体です。どちらも僕にとって大切な存在です。

仙台での活動を期待しているファンは多いと思います。リサイタルのほか、今後はどんなことをしてみたいですか? 仙台のファンへのメッセージもお願いします。

 仙台出身のプロのホルン奏者は結構いるのですが、集まってアンサンブルをやる機会がありません。もしできたら面白いなと。仙台フィル、せんくらなども呼んでもらえれば来たいですね。仙台で演奏できることは地元出身者としてすごく幸せです。
 オーケストラではN響に正式に入れるよう頑張るのはもちろんですが、ホルン奏者庄司雄大としての活動にも力を入れたいです。東京でしっかり活動して、磨き上げた演奏を仙台のお客さんに届けたい。一つ一つ頑張りますので、応援していただければうれしいです。

【公演情報】

東京オペラシティ リサイタルシリーズB→C 庄司雄大ホルンリサイタル

開催日: 2024年03月23日(土曜日)
時間 : 14時00分 開演(13時30分 開場)
会場 : 日立システムズホール仙台 交流ホール
料金 : 【全席自由】一般3,000円 [仙台市市民文化事業団友の会会員価格 2,700円]
     (未就学児入場不可)

日立システムズホール仙台ほかでチケット販売中。
詳細はまちりょくイベント情報ページ(https://mag.ssbj.jp/event/15389/)をご覧ください。

掲載:2023年12月8日

取材:2023年10月

取材・原稿/須永 誠

庄司 雄大 しょうじ・ゆうだい
1993年宮城県仙台市出身。東京藝術大学音楽学部器楽科卒業。同大学モーニング・コンサートにおいてソリストとして藝大フィルハーモニアと共演。第3回日本ホルンコンクール第2位。第86回日本音楽コンクールホルン部門第2位。第35回日本管打楽器コンクールホルン部門第1位、及び文部科学大臣賞、東京知事賞を受賞、特別大賞演奏会にて東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団と共演。NHK-FM『リサイタル・ノヴァ』出演。
これまでにホルンを、須田一之、日髙剛、西条貴人、伴野涼介の各氏に師事。仙台ジュニアオーケストラOB。
現在、藝大フィルハーモニア管弦楽団首席ホルン奏者、NHK交響楽団契約楽員、Japan National Orchestraコアメンバー、ホルンアンサンブルHorshメンバー。