インタビュー

アートとつながる場をつくる

ターンアラウンド代表・関本欣哉

撮影:仙台フォーラスeven(仙台市青葉区)

“社会につながる表現の場”として2010年にギャラリー「ターンアラウンド」を設立以来、人とアートをつなぐ表現や学びの場を仙台につくり続けてきた関本欣哉さん。2021年には、ギャラリーに工房などの機能を備えた複合施設「even」を仙台フォーラス内にオープン。自身が現代美術のアーティストとして活動していた経験から、インストーラーとして展示設営やアーティストのサポートもしている。仙台でアートにまつわる場をつくることにどんな思いを抱いているのか聞いた。

仙台の街にアートと関わる場所や機会をつくってきた関本さんがこれまで手がけてきたことについて教えてください。

 “発表できる場、交流できる場、学ぶ・制作する場”をつくりたいという思いが以前からあり、まず“発表する場”として2010年に大手町(仙台市青葉区)にギャラリー「ターンアラウンド」を設立しました。そして“交流できる場”として、「ターンアラウンド」のギャラリーの隣には、芸術について対話が楽しめるカフェ「ハングアラウンド」を併設しています。2019年には“制作する場”として、卸町にアーティストやクリエイターのためのシェアスタジオ「スタジオ開墾」(※1)を立ち上げました。2021年には青葉区一番町にある仙台フォーラスに工房・ツールライブラリー・ギャラリー・配信スタジオ等を備えた複合施設「even」を設立し、企画・運営に携わっています。

 そのほか、ジャンルや趣向などの垣根を越え誰にでも開かれた無審査の公募展『せんだい21アンデパンダン展』(※1)を2012年から毎年開催しており、昨年10周年を迎えたところです。これからの動きとしては、次世代のアーティストやアートに携わる人々を育てる学校として2016年に立ち上げた『仙台藝術舎/creek』を、コロナ禍の休業を経て2023年4月から再開する予定です。

(※1)「スタジオ開墾」、『せんだい21アンデパンダン展』については、まちりょくの特集記事アーカイブも合わせてご覧ください。
『季刊 まちりょく』特集記事アーカイブ
・いま訪れたい仙台の文化を育む新しい「場」 https://mag.ssbj.jp/col/11655/
・第6回 せんだい21 アンデパンダン展2017  https://mag.ssbj.jp/col/11649/

「発表/交流/学びと制作の場をつくりたい」という思いで「ターンアラウンド」を立ち上げたとのことですが、新たな場所やプロジェクトをつくるときにも、その思いが軸になっているのでしょうか。

 そうですね。それらの場づくりは僕にとってどれも絶対にやりたいことなんです。でも、学校をつくるのは難しいじゃないですか。私塾であっても講師が必要だし、生徒を募集するのも簡単ではありません。それに交流ができる場をつくるとしてもカフェだけをやりたいわけではない。そう考えると、最初に取り掛かりやすかったのがギャラリーだったんです。

 ただ、それとは別に制作する場としての共同スタジオが欲しいということはずっと言い続けていました。スタジオとして使えそうな廃校の関係者に何度もヒアリングをしましたが、結局ダメで。そういうやりとりを何度かしているうちに、後に「スタジオ開墾(現在休止中)」になる倉庫を管理していた仙台卸商センターで働く知人が「関本さんがやりたいなら、倉庫を使えるように説得してみるよ」と声をかけてくれて始まった経緯もありました。常に周りにやりたいことを言っていたから叶っていったという感じですね。

関本さんは、インストーラーとしてのお仕事も多いとのことですが、具体的にどんなお仕事なのでしょうか。

 展示に関わる基本的なものすべてをつくり、展示会場に作品を設営することが仕事です。アーティストが実現したい展示に合わせて什器を製作したり、映像機材をセッティングしたり、音を出すときにはスピーカーやアンプなどの機材をオペレーションしたり。作品の一部として大きな垂れ幕をつくることもありますね。設営に必要な技術や知識は、僕自身が元々アーティストだったこともあり、自分の展覧会の設営をしていくうちに覚えました。祖父が工務店、父親が建築設計の仕事をしていて、僕がアートスクールを卒業したあとにしばらく父親と働いた経験があったことも大きいですね。職人さんから学んだことが今に活かされています。

アーティストをサポートする裏方でもあるということですね、その楽しさ、大変さはどんなところでしょうか。

 大変なのは、経験したことがないような作り物を製作したり、アーティストの意図をちゃんと理解できているか、というところですね。でもすごい楽しいんですよ。

 元々アーティストだった僕がどうして裏方にシフトしたかというと、素晴らしいアーティストと一緒にいたことで、アーティストが作品にかける時間や情熱というものを目の当たりにし、それが自分にはちょっと足りないものだと気付いたからなんです。ただ、そういうアーティストの発表の場をつくり上げることに対しては、同じように情熱と時間を注げるんじゃないかと思ったんですよね。自分が考えもしなかったアイデアが形になっていく瞬間を見られるのって、すごく楽しいんです。それを一度でも味わうとやみつきになりますよ。作品をつくり上げる過程も見られるし、一緒に相談しながら作業をする楽しさもある。最後には、完成した作品を真っ先に観られるという醍醐味もあります。うれしさを感じるのは、自分が技術的なアドバイスをしたことでアーティストの作品がより良くなったときかな。それはもう、すごい快感。快感というより、“俺と一緒で良かったね”なんて思っちゃう(笑)。達成感や満足感でいっぱいになります。

スペースの運営にもインストーラーとしての視点が活かされているところはありますか?

 「even」ではワークスペースや工具や機材などの作業ツールを500アイテムほど揃えた「道具の図書館(ツールライブラリー)」を備えています。ここにあるものは、インストーラーとしてものを作ったり、ネット配信したり、映像や音響の仕事に関わったりするたびに揃えてきた道具なんです。それをみんなでシェアしたほうがいいということで、図書館のように道具の貸し出しをしています。これは「ターンアラウンド」ではできないことなので、「even」の強みですね。

「even」は、仙台の中心部にあるファッションビル「仙台フォーラス」に2021年からできたスペースですね。どんな経緯で生まれたのでしょうか。

 仙台フォーラスとは友人の紹介でつながりました。コロナ禍になる前でしたが、インターネットで服を買うことが増えて店舗に足を運ぶ人の数が減ってきたことや、仙台の活気が仙台駅前に移りつつあること、空き店舗が増えてきたこと、そして何より仙台フォーラスの館長が美術がお好きで、「何か一緒にやろう」と声をかけてくださったことがきっかけでした。

 「even」というネーミングは、「対等」の意味と、異なる文化を意味する「異文」、そして自分と異なる他人、他者の異なる意見を聞くという「異聞」に由来しています。誰でもここに来れば自分の思ったことを形にできるし、表現できる。「なにか表現してみたいな」と考えている人に多く集まってもらえたらと思っています。

 僕ら世代だと、仙台フォーラスは最先端のファッションを発信する場所という印象が強いです。仙台フォーラスにも、「自分たちはファッションや文化を先導してきた」という思いがあるようですね。でも時代は変わって、「最先端のライフスタイルの提案はファッションだけにとらわれることはない、アートや文化を通じたライフスタイルをここ仙台フォーラスから仙台の人々に提供できるのではないか」と館長が話してくれました。仙台フォーラスがそういう思いでいてくれるならば一緒にやろうかな、という感じで始まりましたね。リスクはあるけれど、僕自身も街中で何かやってみたいという思いはありました。

商業施設に場所をつくりたいという思いは、以前から持っていたのでしょうか。

 『せんだい21アンデパンダン展』の会場になっているギャラリーもそうなのですが、美術に触れられる場所は郊外や住宅地に多いんです。美術が好きな人は、その会場を目指して気軽に出かけていく。でも自分が本当にやりたいのは、美術に興味ない人にも作品を観てもらい、一緒に考えて話したりすることだったんです。そういう場が仙台フォーラスにあれば、いろんな人が来るじゃないですか。美術に対する感度が強い人だけではなく、別なチャンネルから来る人も多いはずだと思っていたんです。アーティストが一般企業と対等に事業を進めていくという視点からも、仙台の中心部にある施設で何かやりたいという思いはずっとありました。

「even」は今、関本さんの理想通りの場所になっていますか?

 それがちょっと難しくて…。もう少し広報に力を入れたいところですね。ただ、先日美術家の西尾美也さんと一緒に行った『最後のファッション』(※2)という展示では、会場全体の照明を暗くした仕掛けに反響がありました。暗い中で服を売ったりしていましたから。来場者の皆さんが結構おもしろがってくれていたようでした。

(※2)NISHINARI YOSHIO写真展『最後のファッション』(主催:せんだいメディアテーク)
2022年12月19日―2023年1月15日 TURN ANOTHER ROUND(even内)で実施。
同期間に『NISHINARI YOSHIO ポップアップショップ』(主催:even)を開催し、展示会場内で洋服を販売した。

「even」が目指すのはどんな場所ですか。

 若い子がチャレンジしやすい場所になってくれたらいいなと思っています。今は若者にとってなかなか大変な時代で、失敗もできないし、お金もないし、社会は暗い。そんな中ではポジティブに楽しい人生を送ろうなんて考えにくいかもしれません。でも「even」に来ることでチャレンジしてもいいんだと感じてもらえるような場所にしていきたいです。

 コロナ禍で休業していた『仙台藝術舎/creek』が、「even」を会場に4月から再開する予定です。今までは現代美術のアーティストやアートに携わる人向けの学校でしたが、もう少し枠を広げて、絵画教室を行ったり、音楽の表現についても学べたりするような計画を立てています。仙台フォーラスに学びの場があれば、若い子も来やすいですからね。年齢も間口も広げて、いろんな年齢の人がいて、「ああ、年を取ってもあんな自由にやっていいんだ」とわかると気持ちも楽になるんじゃないかな。

今後の仙台のアートシーンや仙台のまちについて、関本さんが考える理想の姿はありますか。

 僕は年々、アートシーンやアートというものにこだわりがなくなっているんです。アートに限らず、もう少し解放的な街になったらいいな、という感じですね。誰かがちょっと変わった服装をして歩いていても気にしないくらい、まちの雰囲気がオープンになったらいいかな。

 昔は「仙台を現代美術が根付く街に!」と言っていた時もありましたけどね。もちろん今もその思いはありますが、多様な価値観を認め合える、他者に寛容なまちをみんなでつくれたら、そこにはもう現代美術の精神が根付いている、と言っていいんじゃないかな。

掲載:2023年3月31日

取材:2023年2月

取材・原稿/及川 恵子 写真/寺尾 佳修

関本 欣哉 せきもと・きんや
宮城県仙台市出身。ギャラリー「ターンアラウンド」代表。東京芸術専門学校卒業後、90年代後半から現代美術のアーティストとして作品制作を行う。2010年、地元である仙台・大手町にギャラリー「ターンアラウンド」を設立。学校や展示、シェアスタジオなど、様々な形式でアートを学び、制作し、発表する場づくりに積極的に取り組む。アーティストを支える立場としてだけでなく、人とアートを結びつける接点を生み出す役割を担っている。