インタビュー

バレエを通して感性を磨く

後編|Kae Ballet Classic/一般社団法人Development Of Arts
岡村佳恵インタビュー

華麗なダンスで魅せる美しい世界、バレエ。仙台には多数のバレエ教室があり、日々ダンサーたちが鍛錬を重ねています。バレエスタジオ「Kae Ballet Classic」と一般社団法人Development Of Artsを運営する岡村佳恵さんは、仙台のバレエ文化の裾野を広げるために活動されています。後編は、バレエの世界に見せられた岡村さんが、バレリーナを志し、現在の活動に至るまでについて伺います。

恋に落ちたバレエの世界

岡村さんがバレエをはじめたきっかけを教えてください。

小学1年生の時、習い事をはじめるために、バレエとピアノの教室を見学させてもらいに行き、バレエの方を即決したのがきっかけです。
その時のレッスン風景を今でも鮮明に覚えていますが、すごく魅力的で、バレエの世界に恋に落ちたかのように目が離せなかった記憶があります。

千葉の実家から車で30分くらいのところにある教室に通っていたのですが、レッスンまでに学校の宿題や母が作った問題集を解いて合格してから行くという約束があり、バレエのためだけに必死にやっていました。父も厳しく、やることをやってから好きなことをやりなさいという感じでした。

はじめは週2回の頻度から、中学校後半からもう少し頻度を上げて教室に通いました。今の子たちは週4〜5回通ってきていて、バレエダンサーとして仕上がっていくのも早いですが、私の時代は20歳頃までにゆっくり成長していく感じでした。今は、芽がでる子は中学3年生くらいで海外留学に行ったりしています。

ターニングポイントとなった作品はありますか?

地元・千葉の教室で取り組んだ『眠れる森の美女』のオーロラ姫の踊りでしょうか。バレエのザ・古典といえる作品なのですが、すごく勉強になりました。

Kae Ballet Classic / 一般社団法人Development Of Arts 岡村佳恵さん

怪我が変えてくれたバレエへの向き合い方

岡村さんが、プロのバレリーナを目指されたのはいつでしょうか。

大学の頃です。在学中に同時進行で「スターダンサーズバレエ団」の研究生として所属していました。日本の主要なバレエ団5〜6団体のうちの一つですね。「新国立劇場バレエ団」や「牧阿佐美バレヱ団」などと並びます。

実は私、21歳の時に怪我をしています。左足の前十字靭帯の断裂で、再建手術を含め手術を2回ほどやってリハビリを繰り返しましたが、術後の経過が芳しくなく、思うように動けなくなってしまい、バレエ団で踊るというのは早い段階で諦めることになりました。
バレリーナになるためにバレエをやっていた身として、踊れないならとバレエから離れていた時期もありました。そんな時、地元のスタジオの先生が初めてクラスを任せてくださって。それが、バレエが初めての大人の方のクラスでした。大人からはじめるので、プロのバレエダンサーを目指していない方々なのですが、こんなに一生懸命バレエを深めていく向き合い方もあるんだと気づかされたんです。

実際、小さい頃からずっと頑張っていても、みんながプロのバレエダンサーになれるわけではありません。ダンサーになることだけではなく、バレエに出会い、続けていくことがすごく価値があるありがたいことなんだなと思ったんですね。そう気づけたのが22歳の時でした。

怪我をせずにバレリーナへの道を進んでいたら、また違ったクラスになっていたかもしれませんね。

そうですね。できないことがわからないというか……強気な先生だったと思います(笑)。そのままバレリーナになっていたら、自分のスタジオを持ったり、一般社団法人 Development Of Arts(以下、DOA)のような活動までは気持ちが進んでいなかったんじゃないかなと思います。

岡村さんのスタジオの発表会で全幕バレエにこだわっていらっしゃるのも、当時の経験からでしょうか。

色々な方にお世話になりましたが、怪我をした時にクラスを持たせてくださったスターダンサーズバレエ団の奥昌子先生の影響が大きいですね。奥先生は、バレエ団のバレリーナの最高位である、プリマでもいらっしゃいました。

奥先生の教室では、全幕バレエをやっていました。全幕というのは、ひとつの物語をいくつかの幕(通常2~4幕)に分けて上演する作品のことです。バレエの発表会だと、『○○の踊り』『△△の踊り』などいくつかをピックアップして踊る教室が多いのですが、奥先生の教室では、作品として完成されたものを発表していたんですね。その経験が今につながっています。
クラシックバレエ界には様々な厳しさがあるのですが、奥先生のレッスンはとても自由で、「何でもやってみなさい」と言ってくださったので、身動きがとりやすくてありがたかったです。

バレエを通して成長を見届けられる場

仙台でご自身のスタジオ「Kae Ballet Classic」を開くことになった経緯を教えてください。

結婚して仙台に引っ越してきたのですが、知り合いが全くいない状態で、当時は自分のスタジオを開こうという気持ちはなかったのですが、少しでもバレエと繋がっていたいなと思い、まずはカルチャーセンターでバレエ講座をはじめました。

カルチャーセンターでのバレエ講座が軌道に乗ってきた頃に東日本大震災があり、レッスンができない状態が続きました。そんな中、生徒たちからもっとレッスンを受けたいと言ってくれるようになっていたので、それなら週1回でもどこかでやろうかなと思い、レンタルスタジオを借りてレッスンを再開。そこからスタジオを借りる日数が増えていき、今の場所に自分のスタジオを構えました。2023年になる今、場所を構えてから10周年を迎えました。

今、スタジオにはどのような方々が通っていらっしゃるのですか?

年少さんからジュニア(小学校中学生)の子どもたちの中には、カルチャーセンターでのバレエ講座時代から通い続けてくれている子もいて、ヨーロッパのバレエの本場であるロシアやイギリスに留学中の子もいます。
大人の方には、小さい頃バレエをやっていた方、憧れていたけれどできなかった方など様々なキャリアの方がいらしていて、体をほぐしたい方向けの美容バレエやストレッチのクラスもあります。40代からバレエをはじめて今60代の方もいらして、ご自身と向き合う姿が本当に素敵だなって思います。大人の方は勤勉で真面目ですし、大人になっても成長していくのが見えていくのですごく楽しいです。自分と向き合って良い時間を過ごしていただけたら良いなと思います。

バレエを通して育てたいこと

今後、岡村さんが取り組んでいきたいこと、続けていきたいことはどんなことでしょうか。

スタジオに関しては、全幕バレエを通してそこでの学びを追求してほしいという想いがあります。物語性のあるひとつの作品をつくりあげるという過程を大事にしていきたいです。

DOAでの私の役割は、バレエを通しての人の育成だと考えています。教育過程が大きく変わり、私の世代が経験してきたような知識や勉強の仕方だけではなく、個人の表現力や創造性、コミュニケーション能力がより求められる時代です。
バレエの舞台をつくる過程の中で、自分の表現力や主体性を深め、色々な方とのコミュニケーション能力を身につけてもらう。不安なご時世が続き、情報もあふれている時代に、自分が何を考えて選んでいけるのか、判断力が確立できるような育成を目指して頑張っていきたいと思います。

場を提供してあげると、自分の得意な部分を深めていきますしね。バレエが職業にならないことが多いのですが、バレエの経験の中で、こういう時はこうやろうという判断基準ができていけば、大人になった時に生きやすいかなと、そんな気持ちで応援しています。

バレエに縁遠い方がバレエの魅力を知るきっかけをどのようにしたらよいでしょう?

それを探すために立ち上げたのが一般社団法人Development Of Artsなんですね。
芸術って、格式高いものではなく、普段の生活の中でちょっとしたことを感じたり思ったりするなかでできていく、生きることにつながるものだと思うんです。DOAもそういう団体にしていけたらと思い、クラシック作品だけではなく、さくっと映画を観るような感覚で観に来てもらえるようなものをつくれたらいいなと思っています。

確かに、バレエを踊る側と観る側にまだまだ温度差があるように感じます。

それもあって、バレエだけではなく、合唱やブラスバンドとのセッション、様々な異なる分野の芸術も取り入れて、まずは劇場に足を運ぶ、エンターテイメントを観に行くという習慣を広げていきたいなと思っています。
それに、バレエをやっている子たちって、意外と他の分野の芸術を知らないんですよね。バレエに注力すればするほど他の分野に縁遠くなってしまう。でも、本当は上級者になればなるほどいろいろなことを知らないといけないので、他のジャンルでご活躍の方とのセッションはお互いに刺激を受けますし、少しずつできることを、という感じです。また、私自身としては、学校に出張して、フォーメーションや歩き方などのバレエのエッセンスをワークショップを通して伝えたりできたら良いなと考えています。

仙台の文化活動に対して思うこと、何でもお聞かせください。

クラシック音楽が好きで、仙台フィルハーモニー管弦楽団のコンサートによく足を運んでいます。プログラムを個性的に作っていたり、面白いキャラクターの団員の方をクローズアップされていたりするので、クラシックを知らない方でも楽しく聴けて良いなと思います。仙フィルとのコラボは夢ですね。叶った時には何でも踊りますよ(笑)。

掲載:2023年3月27日

取材:2022年1月

企画・取材・構成 奥口文結(FOLK GLOCALWORKS)、濱田直樹(株式会社KUNK)

このインタビューは、コロナ禍での文化芸術活動、新型コロナウイルス感染症の影響、活動者自身のこれまでの活動経緯、仙台での文化芸術などについて、お話を伺いました。

岡村 佳恵 おかむら・かえ
千葉県出身。8歳よりクラシックバレエをはじめる。1991年よりスターダンサーズバレエ団 奥昌子、オーストラリアバレエ団佐藤真佐美・金澤裕美子に師事。1994年スターダンサーズバレエ団研究生となる。1996年より奥昌子主宰「M‘z バレエスタジオ」講師、その他スポーツクラブなどのバレエ講師を務める。同年ニューヨークに短期留学、日本バレエ協会公演等多数出演。2005年より「仙台青葉カルチャーセンター」のクラシックバレエ講師を務め、2011年「KAE Ballet Classic」スタジオオープン。2018年一般社団法人Development Of Arts設立。教員免許一種取得。