インタビュー

総合芸術で魅せるバレエの文化

前編|Kae Ballet Classic/一般社団法人Development Of Arts
岡村佳恵インタビュー

華麗なダンスで魅せる美しい世界、バレエ。仙台には多数のバレエ教室があり、日々ダンサーたちが鍛錬を重ねています。バレエスタジオ「Kae Ballet Classic」と一般社団法人Development Of Artsを運営する岡村佳恵さんは、仙台のバレエ文化の裾野を広げるために活動されています。前編は、仙台のバレエシーンにおけるコロナ禍の活動について伺いました。

バレエの世界を知る

Kae Ballet Classic / 一般社団法人Development Of Arts 岡村佳恵さん

まずは、バレエについて基本的なことを教えていただきたいです。クラシックバレエ、モダンバレエの二つを耳にしますが、違いはどんなところでしょうか?

クラシックバレエの場合はトゥシューズを履きます。いわゆるみなさんがイメージするバレエは、クラシックバレエだと思います。『白鳥の湖』『眠れる森の美女』『くるみ割り人形』がそれです。

クラシックバレエは300年以上前からある総合芸術ですが、古典作品はその振り付けが大体決まっていて、それを切磋琢磨してきた歴史があります。一方、モダンバレエは動きに制限のない創作バレエです。トゥシューズは履かず、布製のバレエシューズを履いて踊ります。
クラシックバレエで履くトゥシューズは、足先にセメントのような硬い素材が入っていてその部分を立てて踊るのですが、すぐ立てるようになるわけではなく、まずはバレエシューズで訓練し、基礎を習得してしっかり筋肉をつけ、トゥシューズを履かなくても立てる状態を作ってからトゥシューズのレッスンをはじめます。

因みに私は、小学4年生の時に初めてトゥシューズを履かせてもらった記憶があります。硬いシューズの中に足を入れて踊るので、足が擦れて血豆ができますが、痛くても履き続けるので爪が真っ青……。それはよくある状態ですね。

舞台で見る華やかさと正反対のリアルがありますね。

そうですね。過酷な部分もありますね。

バレエスタジオの床には練習の跡が残る

登竜門となるクラシックバレエの作品はありますか?

バレエの教室では、数年に一度発表会があります。小さな子たちにとっては、それが初舞台になることが多いです。子どもが踊りやすい作品としては『くるみ割り人形』です。クリスマスの物語で、物語の中に子どもたちがたくさん出てくるので等身大で踊ることができます。どの作品も主役の踊りは難易度が高く、ダンサーの内面性が出るので、テクニックだけではなく表現力や音楽性が問われます。主役の踊りはバレエダンサーを目指す子たちにとっては登竜門ですね。

踊りのポーズやフォーメーションは鍛錬がものをいうのだと思いますが、表現力は踊り手の個性が出そうですね。

そうですね。先程もお話したように、クラシックの作品は音楽も振り付けも決まっているので、ダンサーの体の質やシルエット、表現力がものを言います。手の動作や振り向く所作でどういう雰囲気を出すか、例えば、音楽と動きのずれを敢えて作るとか、そういうところでどれだけ個性を散りばめるかなんですね。

岡村さんは、ご自身のスタジオ「Kae Ballet Classic」で教えていらっしゃいます。教える上で大切にされていることはありますか。

私のスタジオでは、発表会に全幕バレエを行います。せっかくバレエを習いにきているので、本格的な照明やセットを入れ、衣装も用意した大きな舞台でのバレエを経験させてあげたいんです。本物のバレエの舞台ってこうなんだというのを経験してもらえれば、それが判断基準になり、大人になってバレエを観に行った時に観る力もつくかなと願いつつ頑張っています。

全幕バレエについても教えてください。

全幕というのは、一つの物語をいくつかの幕(通常2~4幕)に分けて上演することです。全幕通して観ると踊りの部分は少ないのですが、物語を伝える手段としてマイムというものがあり、会話を台詞ではなく身体や手の動きで表現するんです。演劇やミュージカルに近いイメージですね。本来バレエは物語を表現するものなので、本物のバレエを子どもたちにも経験してほしいと考えています。

踊ることだけに重きを置くのではなく、物語を作るプロセスも大事にするということですね。

そうですね。バレエの発表会だと、『○○の踊り』『△△の踊り』などいくつかをピックアップして踊る教室が多いのですが、『○○の踊り』の1〜2分だけだと、踊りはテクニックをどれだけ磨くかという高め方だけになってしまうので、バレエに向いている身体の条件を持っている子たちは良いのですが、向いていない子たちが苦しくなっていってしまうんです。全幕だと表現することの喜びを味わえるので、自分の生かし方に幅が出てきて楽しめるのかなと思います。

切磋琢磨する環境づくりのために

一般社団法人Development Of Arts(以下、DOA)について伺います。どのような経緯で立ち上げたのでしょうか。

振付家の堤淳と私が、2018年に立ち上げた団体です。

仙台には、仙台フィルハーモニー管弦楽団やジャズフェスがあり、文化芸術が盛んな街ですが、バレエに関しては舞台が少なくプロの公演もなかなかありません。
私は千葉の出身で、関東はバレエ教室が集まって行う舞台や芸術祭があるのですが、仙台はそういった機会が少なく、これだけバレエ教室があって頑張っている子がいるのにもったいないと思っていました。

それぞれの教室に通う子たちがスキルを高めて向かう先が、賞を決める個人戦のコンクールというのは、厳しい環境に身を置くので精神面がタフになっていくという良い面もある一方、バレエの本質からは遠のいてしまうんですね。バレエは、舞台セット、音楽、衣装などを含めた総合芸術なので、それらを作っていくプロセスを子どもたちに味わってもらいたいなと思い、団体を立ち上げました。

具体的な活動としては、2019年に旗揚げ公演を行いました。堤と私で演目を決め、堤が振り付けを作ります。堤は振付家で、2021年まで東京シティバレエ団に所属していたダンサーでもあります。振り付けは基本的にクラシックバレエがベースですが、アイディアが豊富な方で、物語の世界を作るのも上手だし、時にはコミカルな演出を考えたりもします。

DOAでは、ブラスバンド「DOAスーパーバンド」と合唱団「DOA混声合唱団」も抱えています。合唱は高橋睦子さん、ブラスバンドは仙台秋田吹奏楽団指揮者の武藤郁也さんが中心で動いてくださっていて、メンバーは公募で集まった方々で構成されています。ダンサーたちは仙台の色々な教室から募り、年に1回のオーディションで選びます。

バレエダンサーのオーディションはどのように選ぶのでしょう?

基礎的な動きができているか、普段の稽古の様子をクラスレッスンを通して見せてもらいます。レオタードを着ているスタイル、レッスンの受け方、言ったことに対してどう対応するかなどを見ていきます。
オーディションで選ばれた子たちはレベル別の3クラスに分かれ、さらにそこから主役として踊るプリンシパル、プリンシパルに続き、ソロパートなどを踊るソリストが選ばれます。

オーディションという経験も、普通に生活しているだけだと味わえないので、バレエ団のオーディションはこういう感じなんだよっていうのを体験させてあげようと思い、ジャッジシートとアドバイスシートを作ってオーディション後に配布しています。

コロナ禍の活動

コロナ禍で、スタジオレッスンや発表会にはどのような影響がありましたか?

2020年のはじめは仙台ではまだそこまで流行っておらず、バレエは喋らないので、レッスン中はマスクなしでもOKにしていました。2020年春頃からはマスク着用でレッスンをしています。3歳の子どもたちもつけてレッスンするので、夏場はかわいそうでしたね……。

2020年の発表会は延期となり、2021年の発表会は前年の延期になったものを10月に実施しました。毎年発表会は電力ホールを会場に全席無料で行っていますが、2021年は密にならないようによりキャパシティが大きいところをと、名取市文化会館を借りました。約1,200人が入るところに約500人のお客さんが来てくださいました。

この状況で集客が難しいところがありましたが、チラシも配らずSNSだけの発信にし、全席指定にして事前にホームページ上でお名前・住所・連絡先を登録していただいて、チケットをお持ちの方だけが入場できるようにしました。

また、東京からいらっしゃるゲストの先生、お手伝いしてくださる保護者の方々には抗原検査をお願いしたりと、色々な面で神経を遣いましたね。

DOAの公演はオンライン配信で行われました。映像はどのように制作されましたか。

2020年に予定していた公演では、合唱団、ブラスバンド、ダンサーの融合作品を企画していました。ただ、合唱が約100人、ブラス30〜40人、ダンサー30〜40人と、演者だけで密といわれてしまう編成で集客ができなかったので、収録スタジオで撮影する形にしました。

2021年の公演は、震災から10年目ということで、震災の鎮魂や畏敬の念をイメージした作品をリハーサルしていました。3月11日あたりのタイミングでイベント形式を変えて、チャリティ無料配信を行いました。

舞台同様、照明、音響を整え、カメラマンの方も数名入っていただき、編集もしっかり行いましたが、一長一短ありました。良かった点は、カメラワークのカットで、舞台では見えてこないパーツパーツを見ることができた点です。ただ、やはり生の舞台のような臨場感やエネルギーの質は変わってきてしまいますね。

2022年DOAオンラインバレエ公演「つなぐ」

舞台はお客さんありきで作るものだと思いますので、空気感は変わりますよね。

舞台って、途中でお客様の気持ちが参加してくるのが演じている方にも伝わるんですね。終わるとお互いにハッピーになれるというか。そういう空気がなかったので、やっているほうは孤独を感じた部分はありますね。

映像をご覧になった方からの反応は?

頑張っているなというのは伝わっているようですが、映像だと見た目の形式美だけがクローズアップされてしまい、子どもたちのエネルギーが消えてしまうようですね。DOAは今のところ小学生から高校生の子たちがメインの育成団体なので、彼らのテクニック面の未熟さが如実に出てきてしまうんです。やはり、舞台は生のものだなと痛感しました。

バレエは総合芸術

今後、DOAが目指す方向性はどんなところでしょうか。

一人ひとりに役割があり、集まってひとつのものを作るというクリエイトの仕方が理想的ですよね。指示された通りにやるのではなく、一人ひとりのダンサーがちゃんと意思をもって、こういう風に表現したいとディスカッションしながら作っていく。スタッフさん含め、いろんな方に支えてもらっているので、そこが欠けたらプロになれないよと教えています。

小さい頃からずっとバレエを頑張ってきた子たちが、学生を卒業したらバレエも卒業というのは寂しいなと思うんです。バレエの仕事をしなくても、やっぱりバレエを好きな気持ちはずっと続いていくものだと思うんですよ。

DOAに所属している大人のダンサーは現時点で数名ですが、今後は大人になったダンサーたちも大事にしていきたいです。DOAの稽古は週末なので、そこで力をしっかり発揮できる。同じ踊りを同じ人が踊っても、年齢やその時の精神状態で表現は変わります。大人になってから、人間としての味も、バレエダンサーとしての表現力も深まっていくと思っています。

掲載:2023年3月27日

取材:2022年1月

企画・取材・構成 奥口文結(FOLK GLOCALWORKS)、濱田直樹(株式会社KUNK)

このインタビューは、コロナ禍での文化芸術活動、新型コロナウイルス感染症の影響、活動者自身のこれまでの活動経緯、仙台での文化芸術などについて、お話を伺いました。

岡村 佳恵 おかむら・かえ
千葉県出身。8歳よりクラシックバレエをはじめる。1991年よりスターダンサーズバレエ団 奥昌子、オーストラリアバレエ団佐藤真佐美・金澤裕美子に師事。1994年スターダンサーズバレエ団研究生となる。1996年より奥昌子主宰「M‘z バレエスタジオ」講師、その他スポーツクラブなどのバレエ講師を務める。同年ニューヨークに短期留学、日本バレエ協会公演等多数出演。2005年より「仙台青葉カルチャーセンター」のクラシックバレエ講師を務め、2011年「KAE Ballet Classic」スタジオオープン。2018年一般社団法人Development Of Arts設立。教員免許一種取得。