インタビュー

毎日まちのどこかで演劇を

前編|一般社団法人東北えびす
演出家 髙橋菜穂子インタビュー

2020年から始まったコロナ禍により、仙台の文化芸術活動もさまざまな制約を受けました。そのような中で、仙台の演劇シーンに演出家として携わる髙橋菜穂子さんがはじめた「仙臺まちなかシアター」は、始動して3年を迎えました。前編では、そんな「仙臺まちなかシアター」のあゆみを伺います。

*この記事は、2021年12月にコロナ禍の文化芸術活動等について伺った内容を基に執筆し、2023年1月時点の情報も加えて構成しています。

まちなかで朗読劇を

「仙臺まちなかシアター」(https://www.tohokuebisu.com/machinaka)は、仙台の飲食店を会場に、俳優の方々が朗読劇を上演する取り組みで、髙橋さんが発起人でいらっしゃいます。はじめた経緯を教えてください。

初回の公演は2020年5月からです。よく、「コロナ禍に立ち上げた企画ですか?」と聞かれるのですが、構想自体は2019年12月頃からありました。
もともと、育休中に街なかのカフェでの朗読劇「東北物語」(詳細は後編に掲載)をやっていましたし、2008年に始まった仙台市の文化事業「杜の都の演劇祭」は、仙台の色々な場所で演劇を観られる機会だったのですが、プロジェクトが終わってしまって残念に思っていたのもありました。

仙臺まちなかシアターの公演会場として協力していただけるお店の交渉を始めたのが2019年12月〜2020年1月。「さぁ、これからだ!」という時、文化庁からコロナウィルス感染防止のため、イベント中止要請がきたのが2020年2月下旬のことです。観に行く予定だった舞台で、仙臺まちなかシアターのチラシも配布してもらう予定でいたのですが、折り込みもできなくなってしまいました。

お店の方は公演をやりましょうって言ってくださっていたんですが、小学校が一斉休校になり(※)、子どもたちを学校に行かせられない状況で上演は無理だなって。がっくりきましたが、絶対にやめられないな、何がなんでも続ける方法を考えなきゃって(笑)。

(※)仙台市立の学校では、2020年3月2日から5月31日まで臨時休校とした。

一般社団法人東北えびす/演出家 髙橋菜穂子さん
仙臺まちなかシアター『夢十夜』の様子(会場 da gennaro)

演劇をオンラインで伝える意義

朗読劇のオンライン配信をはじめたのはその時期ですか?

はい。以前からお仕事でお世話になっていた映画監督のクマガイコウキさんが、「朗読劇を撮影して、お店から配信すれば良いんじゃない?」って提案してくださったんです。

資金集めのために、クラウドファンディングにも挑戦しました。初めてで分からないことだらけでしたが、クマガイさんがクラファンサイトの内容チェックや、サポーターへのリターンの相談にも乗ってくださって。クラファンは最初が肝心ということだったので、募集開始日とYouTubeでの配信日を何とか合わせることができました。2020年5〜7月中旬までは、 過去に上演した演目をYouTubeでの無料配信のみで展開し、それ以降は会場にお客様を入れて有料公演にしました。客席も工夫して、お客様同士が対面にならないようにテーブルを配置しました。

YouTube配信やクラウドファンディングへの反応はいかがでしたか?

配信は結構な視聴回数になりました。当時はまだ、オンライン配信をしている演劇公演は少なかったんです。そもそも演劇や舞台は生で観ることに良さがあるので、「配信はおまけじゃない?」っていうイメージがありました。でも、皆さん家でくさくさしている中で、「励まされました」「灯を絶やさないでください」なんて言っていただけて嬉しかったですね。クラファンは、「リターンもサイトの名前掲載も必要ありません、寄付のみさせてください」という方もいらっしゃったんです。皆さんのお力添えのお陰で目標額を達成することができました。

お店と作品選びの醍醐味

お店選び、作品選びはどのようにされていますか?

基本的に先にお店を決め、その後に私がお店に合わせて作品を選んでいます。仙臺まちなかシアターの企画自体まだ浸透していないので、まずは趣旨を説明し、認識してもらうところからですね。

初回の公演は、お蕎麦屋「鹿落堂」さんで行った佐々木久美子さんの一人語りです。有観客でしたが、まだ出歩くのをためらうという方もたくさんいらっしゃったので集客は大変でした。

今日のインタビューでも場所をお借りしている「ビストロやえがし」さんは、2021年2月の公演からお世話になっていて、2023年1月で開店から丸3年のまだ新しいお店です。

同ビル1階の「和醸良酒〇たけ」さんを会場として何度かお貸しいただいていて、「二階に洋食屋さんがあるよ」って教えてくださったので、ランチを食べに伺いました。御会計の時、領収書の宛名を「東北えびすです」と伝えたら、、Instagramで仙臺まちなかシアターのことを知っていてくださっていて、それがきっかけでコラボさせていただいています。

お店の奥の席がちょっと高くなっているのでそこをステージにして、江戸川乱歩の『屋根裏の散歩者』をやりました。台本は持っていましたが、俳優はかなり芝居っぽく動いてやりましたね。

仙臺まちなかシアター『屋根裏の散歩者』の様子(会場 ビストロやえがし)

お店の雰囲気やお料理に合わせた演目が印象的です。

田辺聖子の『人情すきやき譚』を上演した「日本料理 華の縁」さんは、普段は高価格帯の料亭なのですが、「すき焼きをメニューにいれていただけますか?」と相談したらシアターのために特別に作っていただけて。ビストロやえがしさんは、季節に合わせたお弁当を作ってくださったりと、作品やテーマに合わせてメニューを作っていただけるのはとても嬉しいですね。

お店の方の反応はいかがですか?

一度会場として使わせていただくと、また是非と言ってくださるところが多いですね。お店の方にチケット販売をお願いしている訳ではなく、場所とお料理をご用意いただくだけなので、お互いにやりやすい形態なのかなと。料理代×人数分をお店にお渡しする形なので、お客様が入らなければいけないのですが。お互いにWin-Winでできるなって思ってくださっていたらいいけど……。ビストロやえがしさん、どうでしょう?(笑)

チケット代の価格はどのように設定していますか?

飲食代と観覧代併せて3,000~3,500円で設定しています。朗読公演ならそれが相場かと考えています。それ以上値段を上げると、リピーターがつかなくなってしまいます。
杜の都の演劇祭では、お店によって7,000円のプログラムもありました。それくらい出したらお料理は豪華になるだろうけれど、ちょっと敷居が高すぎるかなと感じていました。チケット代3,500円で観劇できてお料理がついているなら、月一の楽しみにしてくれるかなって思って。このくらいの価格帯で協力してくださるお店や出演者の方を増やしていって、毎月仙台のどこかのお店で演劇をやっているようにしていけたらいいなと思っています。

街で演劇を続けていくために

仙台では、演劇をやっている場所と機会を知らない方が多いです。演出家や役者の方が街に出てお芝居をしてくださると、敷居が下がって良いなと思います。

本当にそうですよね。朗読劇って、「座って読んでいるだけならわざわざ行かなくていいよ」って思う方もおられるかもしれませんが、仙臺まちなかシアターは俳優がやっているので結構動きますし、演劇に近いのが魅力ですね。

現状、演劇をご覧になっている多くのお客様は、ご年配の世代。仙臺まちなかシアターも、定年後に時間ができて来てくださっている方が多いです。
若い方も、いきなり「演劇を見に行くぞ」とはならないけれど、SNSを見ていて、ビストロやえがしさんみたいなおしゃれなお店でご飯を食べながら観劇できるなら行ってみようかなってなるかもしれません。実は私はSNSをあまり使い慣れていないのですが(笑)、若い方にも目に留めていただけるように、一生懸命SNSも更新するようにしています。実際に、Instagramから仙臺まちなかシアターを知ってくださったという、若くていろんなお店に行っていらっしゃる方もちらほら来ていただいています。

仙臺まちなかシアターは、演出家、演者の方にとってもお芝居を続けていく良い機会ですね。

正直、仙台で俳優の仕事一本で食べていくのは難しく、皆さん別の仕事をしながら芝居をやっているのが現状です。でも、仙臺まちなかシアターをいろいろなお店でやることができれば、俳優の方にとってそれだけで生活は難しくても、芝居をお客様に観ていただいて収入になる。これってすごくいいなと思っているんです。

私自身、仙臺まちなかシアター(※)は、必ずしも私だけが企画や演出をやらなくても良いと考えています。今は主催・演出・構成を私一人でやっているけれど、色々な方が関わって広がっていけばいいなって思っていて。朗読劇に限らず、落語や音楽など、いろいろなジャンルの方とコラボしていけたらよいと思っています。そうすると、もっと演劇界に活気が出るし、ノウハウってほどではないけど、仙臺まちなかシアターで協力してくださっているお店を紹介したり、やり方をシェアしても構わないと思っています。とりあえず、今のところストップしないで企画を続けているので、参加してくださる仲間、お客様とお店の幅を広げていきたいですね。

(※)仙臺まちなかシアターは、2022年度も市内の飲食店で行われ、2023年度の企画も計画中。
 https://www.tohokuebisu.com/machinaka

掲載:2023年1月30日

取材:2021年12月

企画・取材・構成 奥口文結(FOLK GLOCALWORKS)、濱田直樹(株式会社KUNK)

このインタビューは、コロナ禍での文化芸術活動、新型コロナウイルス感染症の影響、活動者自身のこれまでの活動経緯、仙台での文化芸術などについて、お話を伺いました。

髙橋 菜穂子 たかはし・なほこ
演出家。宮城県仙台市出身。宮城教育大学時代から演劇活動を開始。東日本大震災後の2011年6月、SENDAI座☆プロジェクト「明日に向かって歌え~アテルイキャラバン再び西へ」から本格的に演出家としてデビュー。「仙臺まちなかシアター」では、代表として全作品の構成・演出を、せんだい演劇工房10-BOXの企画「子育ていろいろシェアリング」では代表(2020年~)を、せんだい3.11メモリアル交流館の展示企画「voice」では演出(2021年10月~)を手がけている。