インタビュー

ダンス×ジャズで
仙台の風景を
鮮やかに描き出す

ダンサー・大前光市×サックス奏者・熊谷駿

(写真左)大前光市、(写真右)熊谷駿

2023年1月27日〜28日、日立システムズホール仙台・交流ホールで異色のコラボレーションによる公演が行われる。義足のコンテンポラリーダンサーとして国内外で活躍する大前光市と、仙台が誇るジャズサックスプレイヤー・熊谷駿による創作公演だ。2022年秋の仙台で、観客に全く新しい体験をもたらそうと創造力をぶつけ合うお二人に、公演の企画担当者が話を聞いた。

ダンス×ジャズ×仙台 未知の出会い

今回の公演では、2021年の「能-BOX開館10周年記念公演 創作舞『雨ニモマケズ』」で仙台市市民文化事業団とご縁のあった大前さんにまず出演依頼をさせていただきました。作品のコンセプトをご相談するなかで「仙台にちなんだ作品を作りたい」ということになり、仙台をよく知っているアーティストとしてリストアップした中から熊谷さんを選んでいただきました。

大前:
「この人しかいない」と思いました。ほかの候補者には友人もいましたけど、友人を押しのけて「この人だ」と。

熊谷さんは、大前さんとの共演を相談させていただいた時はどんな印象をお持ちになりましたか?

熊谷:
正直に言うと最初は不安な気持ちもありました。これは僕の偏見ですが、コンテンポラリーダンスって即興性が高くてとっつきにくいものが多いイメージがあったんです。でも大前さんはJ-POP系の曲も含めた構成を提案してくださって、「ご自身の芸術性を追求するだけでなく、踊りで人を楽しませようという気持ちをお持ちの方なんだな」と、安心しました。

大前は国内外の公演で意欲的にさまざまなジャンルとのコラボレーションを行っている

創作公演なので実験的な要素も入れたいけれど、来てくださるお客さまにとっては初めてのジャズのコンサート、初めてのダンスの公演になるかもしれない。そう考えると親しみやすさも重要だということで、お二人とお話するなかでバンドを入れることになり、J-POPなどを使った前半とお二人の新作創作による後半の二部構成にすることが決まりました。
後半の創作は「仙台の風景=Sendaiscape」をテーマにすることになったので、9月に顔合わせをしてから一緒に仙台の街を巡りましたが、大前さんは仙台の印象はいかがでしたか?

大前:
古さと、新しさと、自然がほどよくマッチしているなと思いました。歴史もあるんだけど、何か新しさを取り入れようという気持ちが感じられる街だと思います。

熊谷さんは仙台をどんな風に捉えていらっしゃいますか?

熊谷:
地元愛が強くて、ベガルタ仙台とか東北楽天ゴールデンイーグルスとか、スポーツチームの応援がすごく盛り上がりますよね。だから引っ込み思案ではないと思うんですけど、新しいものに出会う時には少しおとなしくなるような感じがします。(大前に)大阪なんかとは雰囲気が違いますよね。

大前:
うん、大阪だともっと賑やかですね。

熊谷:
大阪のミュージシャンもたくさん知っているんですけど、話をしていると仙台より3テンポくらい速い気がするんですよね。東北の地域性かもしれないですけど、それに比べると、あまり前に出ない感じかなと。街をみんなで盛り上げようという気持ちや、団結感のようなものは感じるんですけど。

大前:
積極的に主張はしないけど、ちゃんと自分を持っている感じかな。

熊谷:
すごくわかる気がします。表立って「こう」とは言わないけど、自分の信念は持っている。僕もそうかもしれません(笑)。

沿岸部(東日本大震災の津波被災地)も歩きましたが、その風景はどんな印象でしたか。

熊谷:
11年経っても、以前ここにあったような景色はまだ戻らないんだなと思いましたね。定禅寺通りにいけば震災前とほぼ変わらない日常の風景があるけど、沿岸部はまだまだだなと。

大前さんは震災前の風景はご存知ありませんが、まっさらな目でご覧になっていかがでしたか?

大前:
緑が美しいと思いました。土や瓦礫、コンクリートだけならそうは感じないと思うんですが、緑が生えていた。もちろん、犠牲になった方のことを思うと悲しい風景に感じます。その一方で、今、そこには再生された自然による風景の美しさがある。そう僕は感じましたね。爽やかな風が通り抜けて、空が広くて、その空間が僕はすごく好きでした。

クリエイションを始める前に2人で仙台各地を歩いた(撮影:仙台市市民文化事業団)

アイディアを真剣に楽しみ、遊ぶ

まち歩きを経て、今まさに作品を創っていただいています。大前さんから表現したい仙台の風景が提示されて、熊谷さんがそれに応えて曲を作るというやり方ですが、やってみていかがですか?

熊谷:
面白いですね。大前さんの発想がすごくて、僕だったら絶対に思いつかないようなことを言う。頭に浮かんだものを表現しようっていうクリエイティブ力がすごいなと。だからそれを崩さないで「全部やってやろう、実現させよう」と思って創っています。お客さんにも、僕が大前さんに感じているのと同じように「どうしてこのアイディアが出てくるんだろう!」って、新鮮な驚きを味わってもらいたいですね。僕らだけじゃなく、バンドもステージスタッフも一緒に真剣に考えてくれてますよね。

大前:
そこがとても重要ですよね。大人が真剣に遊べるかどうか。

大前さんのユニークなアイディアを素直に面白がれて、さらにそれに応えていくバンドメンバーやステージスタッフのみなさんを見て、仙台の文化芸術に携わる人たちって度胸あるな、と感動しています。

大前:
そう思います。他の地域でも「やってくれ」と言ったらやってくれますけど、ここまで好意的に受け入れられることはないですね。仙台の人は、おっかなびっくりではあるけど刺激を求めてる感じがあります。

大前から提示されるシーンのイメージをもとに、熊谷とバンドメンバーが曲を作っていく

熊谷:
ずっと仙台で暮らしているとなかなか新しいものが入ってこないので、外部からの刺激ってすごく重要だと思うんです。大前さんみたいな国内外で活躍している人が来てくれたときに新しい表現に触れて、仙台の文化芸術がさらに発展していくといいなと思います。

大前:
企画者の側でも「仙台の人に新しいものを見せたい」ということは最初からずっと言ってましたね。

このホールの名前「交流ホール」の通り、新しいものに出会って興奮したり、わくわくしたりする感じを五感で感じてほしいと思っています。大前さんはその期待通りに、このホールのポテンシャルをフルに活用してくださっているなと思います。

熊谷:
ホール全体を見てポテンシャルを活かそうとしているのがすごいなと。360度見られるステージだからこそできることを考えていらっしゃいますよね。

大前:
このホールは面白いですよ、飲食もできるし(笑)。なかなかこういう自由な環境では創れないですよね。

お客さんとの距離が近いことで演じる側に及ぼす影響もあるのではないかと期待しています。大前さんは、熊谷さんとの創作はいかがですか?

大前:
すごくやりやすいです。これまでもミュージシャンの方とコラボレーションしてきましたが、自分の曲を持っているような人って、僕に合わせて曲を作るなんてことはしてくれないです。熊谷さんは普段演奏されているジャズとは全然違うタイプのJ-POPの曲をお願いしても「できますよ」と快く引き受けてくれるし、新しく「この世界観を表現したい」というオーダーをしても応えてくれる。こういうアーティストはなかなかいないです。だから信頼できます。

熊谷:
必死ですけどね(笑)。 僕は本当に必死に「大前さんのアイディアを表現したい」という思いでがっついてる感じです。だからなんでも言ってほしいですね。「そんなの無理でしょ」って思うようなことでも、もしかしたらできるかもしれないし。僕の引き出しにはないアイディアが飛んでくると「そうくるか」「なるほどね」みたいな感じで、けっこう楽しんでやっています。それが創作の面白さですよね。

リハーサルでは2人の真剣なやり取りが続く

大前:
もっと自己主張が強いアーティストは「なんで俺の曲じゃないんだ」って言いますよ。「なんで合わせなきゃいけないの?」って。ダンサーとミュージシャンのコラボレーションだと、ダンサー側がミュージシャンの曲に合わせて踊るバックダンサー的な形が多くなりがちなんですけど、今回は完全に僕に合わせてもらっている。これは器が大きい人じゃないとできないですよ。だからすごくやりやすいし、ありがたいです。

お互いのリスペクトによって、とてもいい創作現場になってきているなと思います。

熊谷:
毎回ワクワクしています。毎週やってもいいくらいです(笑)

大前:
二人とも表現の幅、バリエーションが多いから、いろんなことを試せますよね。スタッフのみなさんも普段のやり方に捉われず「どうやったら実現させられるか」を考えてくれています。まだ本番までは時間がありますので、さらに遊んで、もうちょっと変化させていきたいですね。

最後に、改めて今回の公演の見どころと、お客様へのメッセージをお願いします。

大前:
今回、こういうホールも初めて、ジャズバンドとコラボするのも初めてで、僕も新鮮な気持ちで創っています。熊谷さんとバンドのみなさんの力で、大前光市の魅力が倍増していると思うし、ジャズによって夜の色気も醸し出されて、楽しんでもらえると思います。公演後半の新作ではおっかなびっくりな感じで来ていただいた仙台のお客さんにも一撃を加えることができるんじゃないかと思っています。ぜひお越しください。

熊谷:
今回一番伝えたいのは、お客さんに新しいものを掴んでほしいということですね。僕らが普段住んでいるこの仙台の街を大前さんが表現する。そこに新しい曲が加わる。人それぞれ感じ方は変わると思いますが、今までにない感覚を掴んでもらえたらなと思います。

【公演情報】

日立システムズホール仙台presents
大前光市 (義足のダンサー) × 熊谷駿 (サックスプレイヤー) Sendaiscape

日時 1月27日(金曜日) 19時00分 開演(18時30分 開場)
   1月28日(土曜日) 14時00分 開演(13時30分 開場)
会場 日立システムズホール仙台 交流ホール
料金 前売:一般 3,800円[仙台市市民文化事業団友の会会員価格 3,300円]
      18歳以下 2,800円[友の会取扱いなし] ※当日年齢を確認できる証明書をお持ちください。
   当日:一般 4,000円
      18歳以下 3,000円
      ※当日券は残席がある場合のみ、開演の1時間前より会場で販売いたします。

日立システムズホール仙台ほかでチケット販売中。
詳細はまちりょくイベント情報ページ(https://mag.ssbj.jp/event/11307/)をご覧ください。

掲載:2023年1月5日

取材:2022年11月

聞き手 内山直子(公益財団法人仙台市市民文化事業団 舞台芸術振興課 担当職員)
執筆・構成 谷津智里(Bottoms)/写真 渡邊博一

大前光市(おおまえ・こういち)
岐阜県萩原町(現・下呂市)出身。大阪芸術大学でバレエや舞台芸術を学ぶ。プロダンサーとして活動中の2003年、交通事故で左足を切断。以後、「義足のダンサー」として独自の表現を追求している。2016年のリオ・パラリンピック閉会式へのソロ出演をきっかけに国内外から注目を集める。ラスベガスにて人気ダンスグループ「JABBAWOCKEEZ」と共演するなど、海外でも活躍。舞台のほか、テレビ・CM・ラジオ・ファッション誌等にも出演し活動の場を広げている。東京2020パラリンピック開会式にも出演。近著に『ぼくらしく、おどる』(学研プラス)など。

熊谷駿(くまがい・しゅん)
宮城県仙台市出身。バークリー音楽大学、ニューイングランド音楽院を卒業。渡米中から日米関連式典でのゲスト演奏や、世界的ベーシストDave Holland氏との共演など、精力的に演奏活動を展開する。2019年、国内に拠点を移し、イベントでのゲスト演奏のほか、総動員4,000名を超える自身のジャズコンサートを年2回開催している。これまでCD8枚をリリースし、国内最大規模のジャズフェス「定禅寺ストリートジャズフェスティバル」のCMソングとして自身の曲が3年連続で起用されるなど、オリジナル曲も好評を得ている。