連載・コラム

事業レビュー|年齢、障がい、国籍の壁をこえて、みんなが楽しめる「どなたでもコンサート」の制作と実践

「文化芸術を地域に生かす創造支援事業(地域助成)」では、観光、まちづくり、福祉、教育等の他分野との連携により社会課題と向き合う公益性の高い文化芸術活動や、市民に優れた文化芸術の鑑賞機会を提供する事業を支援しています。
助成区分のうち「B.文化芸術と社会の連携推進事業」については、「スタートアップ枠」を設け、本格実施に向けたリサーチや試験的な事業を実施するものを支援しています。
本コラムでは、「文化芸術と社会の連携推進事業 スタートアップ枠」として採択された事業の活動の様子を、助成事業担当職員がレポートします。

事業名:年齢、障がい、国籍の壁をこえて、みんなが楽しめる「どなたでもコンサート」の制作と実践
団体名:一般社団法人音楽のおもちゃ箱
活動期間:2025年9月28日から2026年1月10日まで
参考URL:https://ssbj.jp/support/grant/report/15072/

 一般社団法人音楽のおもちゃ箱による「どなたでもコンサート」は、年齢や障害の有無、国籍などにかかわらず、文化芸術へのアクセスに困難を感じる人でも安心して参加できるインクルーシブなコンサートとして、2023年にスタートした。2025年度には岩沼市民会館の自主事業としても実施されるなど、地域への広がりも見せ始めている。
 「文化芸術を地域に生かす創造支援事業(地域助成)」の「文化芸術と社会の連携推進事業 スタートアップ枠」採択事業としては2年目となる2025年度には、コンサートを運営する音楽家等を対象とした研修を経て、公演を制作・実施することとし、インクルーシブなコンサートづくりに向けた学び合いの場を設けつつ、公演づくりへとつなげていく試みが行われた。
 「音楽家のための“視点革命”研修会―殻を破る!包摂型コンサートで変わる自分とステージ」と題して9月28日に開催された研修は、音楽のおもちゃ箱代表・大橋端月さんによるレクチャーと、音楽ワークショップ・アーティスト「おとみっく」の坂本夏樹さん、桜井しおりさんによるワークショップの二部構成で行われた。
 前半の大橋さんの講義は、異文化コミュニケーションを体験するゲーム「バーンガ」から始まった。ゲームを通じてマイノリティとして過ごすことの戸惑いや不安を疑似体験したあと、DE&I(多様性・公平性・包摂性)の基本についてのレクチャーへと展開し、「誰も取り残さないコンサート」を実現するための考え方や工夫について、具体例を交えながら紹介があった。
 第2部の講師をつとめた「おとみっく」は、音楽ワークショップを独自の参加型音楽プログラムとして展開する音楽ワークショップ・アーティストだ。年齢や言語、障害の有無を問わず誰もが参加できる音楽ワークショップやコンサートを様々な垣根を越えて開催している。おとみっくによるこれまでの実践事例の紹介に続き、実際に参加型のワークショップを体験する時間が設けられた。

 
 ワークショップ体験では、坂本さん、桜井さんの奏でるピアノに合わせて体を動かしたり、ほかの参加者と触れ合ったりするうちに、会場の空気も少しずつほぐれていく。トーンチャイムや鈴などの楽器を鳴らしたり、チームごとにフレーズをつくったりと、音楽を「つくってみる」ワークも盛り上がった。音楽をとおして、その場にいる人との時間を楽しみ共有する場がつくられていった。「音楽家のための」と冠された研修ではあるが、演劇やダンスなど、多様な人々に向けたワークショップを行うアーティストにとっても大いに参考になるものだと感じた。仙台市内でも、こうした学び合いの機会がより幅広い分野へ開かれていくことを期待したい。

 研修を経て、1月10日、「年齢、障がい、国籍の壁をこえて、みんなが楽しめる どなたでもコンサート」の本番当日を迎えた。
 会場では、アクセシビリティ向上のためにさまざまな配慮が行われていた。プログラムや会場動線の事前公開、センサリールームの設置と同室への公演同時中継、上演中の入退場自由、車椅子やバギーでの鑑賞対応、英語併記など、多様な参加者の事情に寄り添う工夫が随所に見られた。ロビーにはたくさんのおもちゃが並びこどもたちは思い思いに遊びながら、開演前の時間を過ごしていた。

 
 第1部の鑑賞型プログラム「おはなしクラシック」では、お話と音楽、身体表現パフォーマンスを組み合わせたプログラムが展開された。ビゼー作曲の『子供の遊び』の各曲に沿って、朗読とクラウンのマイムでお話が展開していく。客席には乳児・幼児が多くいたが、クラウンの2人が目隠し鬼をして遊ぶシーンでは自然と手をたたいて鬼を誘導するなど、物語に入り込んでいる姿が見られた。
 第2部「クラシックで遊ぼう!」は、出演者たちが研修で得た学びをもとに制作した体験型プログラムだ。配られたトーンチャイムを思い思いに鳴らす「音の羽根つき」や、紙を様々に使って音を鳴らすリズム遊びなどが行われた。
 全体を通して印象深かったことは、コンサートと銘打ちつつも、演奏それ自体を際立たせるのではなく、他の要素をふんだんに詰め込んでいることだ。お話やパフォーマンスとの組み合わせ、ロビーの空間づくり、体験型プログラムなど、多様なアプローチで音楽を楽しむ入り口を用意しているように思えた。もしかすると、コンサートよりも、ロビーでたくさんのおもちゃで遊んだ時間のほうが強く記憶に残ったこどももいたかもしれない。しかし、劇場やホールで過ごした楽しい思い出が、今後の文化芸術への親しみへと育っていくことも十分に考えられる。アクセシビリティ向上のための工夫を随所に凝らし、コンサート鑑賞のハードルが高い人でも安心して参加できる、というメインテーマに加えて、これまでコンサートに行ったことがない、難しそう、といった人へのハードルを下げることにも寄与する内容だと思った。

 
 さらに言えば、「椅子にじっと座り静かに聴く」ことを強いず、多角的なアプローチを取り入れるこうした公演の実践を積み重ねることは、音楽のより多様な楽しみ方を発見することにもつながるだろう。おとみっくの活動では、聴覚障害のある子どもたちに向けて、振動や身体感覚を通して音楽を楽しむワークショップも行っているという。音楽を「聴くだけ」のものと捉えない視点は、インクルーシブな場づくりのためにはもちろん、音楽体験そのものの可能性を広げていく契機にもなり得るのではないだろうか。
 「どなたでもコンサート」が、今後さらにたくさんの人々と出会いながら、音楽の新たな魅力や可能性を発見していく事業へと発展していくことを期待したい。

(公財)仙台市市民文化事業団 総務課 荒井菜摘 

掲載:2026年6月29日