東北地方に数あるアマチュアオーケストラのなかで、ひときわ異彩を放つ楽団があります。その名も「東北農民管弦楽団」。文字通り、東北各県で農業に携わる人たちで結成されたオーケストラです。
その東北農民管弦楽団の3回目の定期演奏会が、2016年2月に仙台市で開催されます。世界初演の協奏曲にも挑む仙台公演を前に、東北の地に根差した活動を続けるこのオーケストラのユニークな魅力に迫ります。
- 東北農民管弦楽団について
- 東北農民管弦楽団 代表・白取克之さんに聞きました
- 農民オケをはぐくむ楽団員たち
- 寄稿「東北農民管弦楽団との共演を前に」舘野泉(ピアニスト)
- 宮沢賢治「農民芸術概論綱要」(抜粋)
東北農民管弦楽団について
※それぞれの見出しは宮沢賢治「農民芸術概論綱要」の言葉を引用しています。
「おれたちはみな農民である」
東北農民管弦楽団は2013年1月に結成されたアマチュアオーケストラ(アマオケ)です。現在、東北地方の農家、農学部の学生、農協職員、農業関係企業の会社員、農産物の販売業など、何らかの形で農業に携わる人々約80人が団員登録をしています。年間通して活動している“ふつうのアマオケ”とは異なり、この楽団が活動するのは冬場の農閑期。稲刈りが一段落して木の葉が色づく頃になると、団員たちは岩手県花巻市に集まり、定期演奏会に向けての練習をスタートさせます。
「芸術をもてあの灰色の労働を燃せ」
花巻出身の詩人・童話作家、宮沢賢治が著した「農民芸術概論綱要」をご存じでしょうか? 「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」という部分が有名なこの文章には、レコードを収集して周囲の人に聞かせたり、自身もチェロを演奏するなどクラシック音楽にも造詣が深かった賢治の芸術観が表れています。
東北農民管弦楽団は、賢治のこの「農民芸術概論綱要」に共感する人々が集まってできたオーケストラです。「東北の農業関係者が、音楽をはじめとする芸術活動に取り組むことにより、生活文化の向上をはかる」、また「農業を主産業とする地域での活動を通して、住民との交流と相互理解を深める」といった楽団が目指すところには、賢治の精神が息づいています。
「われらの前途は輝きながら嶮峻である」
2月に開催される仙台公演(第3回定期演奏会)では、スッペ作曲「詩人と農夫」序曲、宮沢賢治もその第2楽章のメロディに自作の詩を付けて歌うほど好んだドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」、そして世界初演となる二重協奏曲「星巡ノ夜」(平野一郎作曲)を演奏する予定です。
「星巡ノ夜」は賢治の作品に着想を得て作られた曲で、「左手のピアニスト」として知られる舘野泉さんが設立した「左手の文庫」(※)の委嘱作品でもあります。2月の初演では、舘野泉さんと、その長男でヴァイオリニストのヤンネ舘野さんがソリストを、指揮を泉さんの弟・舘野英司さんが務めます。今回の共演は、「東北農民管弦楽団と一緒に」という泉さんの希望が実現したものです。
季節こそ真冬ですが、大勢の方の思いがこもった熱い演奏会となりそうです。
※舘野泉さんは2002年、フィンランドでの演奏会中に脳出血で倒れ、後遺症のため右半身に麻痺が残った。リハビリを経て、2004年に左手での演奏によりステージへの復帰を果たし、大きな話題となる。左手によるピアノ曲を充実させるため、2008年に基金「左手の文庫」を設立し、新作の委嘱、演奏などに努めている。
「もろともにかがやく宇宙の微塵となりて」
東北農民管弦楽団の2015年度の活動がスタートして間もない10月11日(日曜日)、岩手県花巻市で行われた練習にお邪魔しました。
東北農民管弦楽団 代表・白取(しらとり)克之さんに聞きました
楽団の代表を務める白取克之さんは、小学生のときに「農民になる」と決意し、現在その夢を実現して青森県弘前市の岩木山麓で農業を営んでいます。子どもの頃からの宮沢賢治ファンでもあり、「賢治がやっていたことは何でもやってみたい」との思いからチェロを始めたという白取さんに、農業と音楽についてのお話をうかがいました。
◎ご出身はどちらですか?
青森です。家はふつうのサラリーマン家庭でしたが、宮沢賢治の影響を受けて農業を志し、山形大学の農学部に学びました。関西や埼玉、北海道で農業研修をした後、青森に戻ってきました。学生時代は大学のオーケストラで活動し、そのほかに農学部だけでオケを作ったりもしていました。
◎現在、岩木山のふもとで農業をされていますが、農場を開拓するところから始められたとか?
そうです。妻の実家が開拓酪農家だったんですよ。なので、開拓の技術を教わって。今は少量多品目で野菜全般とお米を作っています。
◎東北農民管弦楽団を結成したきっかけについて教えてください。
北海道に「北海道農民管弦楽団(※1)」というアマチュアオーケストラがあります。私が北海道で農業実習をしているとき、楽団の代表の牧野時夫さんと知り合い、演奏会にも2回ほど出させてもらいました。その後私は青森に戻って就農したのですが、最初はなかなか楽器に触る時間がありませんでした。ようやく農業が軌道に乗って余裕が出てきたとき、また農民オーケストラに参加したいと思いましたが、北海道まで練習に行くのは大変なので、東北にも同じような農民オケがあったらいいなと思い、牧野さんに相談しました。
そうしたら、2013年1月に北海道農民管弦楽団が花巻で演奏会をするということで、それに合わせて東北でも農民オケを立ち上げて一緒に演奏しませんか、と言われまして。それで知り合いに呼びかけたり、東北にある大学の農学部に行って勧誘活動をしたりしてメンバーを集めました。
※1 北海道農民管弦楽団=1994年創設。北海道の農家・農業関係の仕事に従事する音楽愛好家が集まり、道内各地で演奏会などの活動を行っている。2011年にはデンマークで、東日本大震災後には岩手県花巻市、陸前高田市でも公演を実施した。これまでにホクレン夢大賞(農業応援部門)、第15回北海道地域文化奨励特別賞、ウィーン・フィル&サントリー音楽復興祈念賞、農民文化賞などを受賞。代表者は余市町で有機農園を営む牧野時夫氏。
◎東北農民管弦楽団の特徴はどんなところですか?
楽団員に農業関係のいろいろなジャンルの人がいるので、情報交換ができることです。大学の先生とか試験場の職員の方もいますし、最新の技術のことも聞けるので、実際に農作業をする上ですごく助かっています。
◎苦労されるところは?
メンバーと練習時間の確保ですかね。ふだんの練習は花巻ですが、(楽団員が東北各地に散らばっていて)遠いので、しかもこれから冬になって雪が降るとなかなか集まることができません。全員が揃うのはどうしても演奏会の前日ぐらいになります。
これから毎年、東北各地で順番に演奏会をしていきたいと考えているので、各県から均等にメンバーが揃うといいなと思っています。福島と秋田の方が少ないので、そのあたりの方も入ってくれるといいですね。
◎2月の仙台での演奏会では、舘野泉さん親子との共演で世界初演の曲を演奏しますね。
チェロ奏者でもある舘野英司さん(2月の演奏会で指揮を担当)から、お兄さんの舘野泉さんが宮沢賢治関連の曲で共演してくれる東北のオーケストラを探しているのだが、興味ないか? と聞かれて、「興味はあります」と答えたところ、そのままOKととられたようで(笑)。その後に楽譜が届いて、それを見てびっくりしちゃいまして。これは我々にはできないかもしれないと思い、舘野泉さんにお会いして「うちの実力はこんなものなんですけど・・・・・・」とお伝えしたところ、「いいんです、いいんです。大丈夫ですよ!」と。英司さんにも相談したのですが、すごく温かいお言葉をいただいて、「じゃあ、やってみよう」ということになりました。
◎仙台での演奏会に向けてひとことお願いします。
仙台は東北の中枢都市で、いろいろなプロの音楽家も演奏会に来ますし、仙台のクラシック音楽ファンは耳が肥えていると思います。そのようなところで演奏するのはプレッシャーがあります。
うちのオケは今まで都市部から外れたところで演奏をしてきて、アンケートの結果を見ても、初めてオーケストラを聴くという方や、クラシック音楽ファンというよりは宮沢賢治ファンという方も多いんです。そこがふつうのオーケストラとはかなり違うんですよ。2月の演奏会も、そういう方たちにぜひ来ていただきたいと思っています。純粋に上手な演奏を聴きたいのであれば他にたくさん団体があるでしょうから、農民オケらしい演奏ができれば・・・・・・。
あと演奏会当日、会場では楽団員が持ち寄った農産物を販売します。私はじゃがいものほかに、宮沢賢治ゆかりのお米「陸羽(りくう)132号(※2)」を販売する予定です。買っていただけたら嬉しいです(笑)。
※2 陸羽132号=1921(大正10)年、秋田県の試験場で日本で初めて人工交配の育種法によって作られた米。冷害に強い特長をもち、当時の東北で広く栽培された。宮沢賢治もこの品種の普及に取り組み、詩にもうたっている。
農民オケをはぐくむ楽団員たち
練習に参加していた楽団員の方々にお話をうかがいました。皆さん、農業と音楽への愛情がハンパじゃありません! 東北農民管弦楽団そのものが、楽団員一人ひとりの思いにはぐくまれた豊かな実りと言えるかもしれませんね。
ホルン
石母田(いしもた) 明さん
岩手県金ヶ崎町で自給自足の農業をやっています。ホルンは学生時代から吹いています。この楽団のことは最初知らなかったのですが、新聞記事を見て興味を持ち、1回目の演奏会から参加しています。参加してみての感想? いやあ、面白いですよ。
ヴァイオリン
菅原 知子さん
弘前市在住です。市民農園で農業に携わっています。楽器は以前やっていたのですが、しばらくやめていました。たまたま東北農民管弦楽団の第1回演奏会のチラシを道の駅で見かけて、聴きに行ったところ、とてもあったかい演奏で感動しまして。それで自分も参加したいと思い、楽器を再び始めました。
パーカッション
山本 豊さん
年金生活ですが、青森市でそばと野菜を自然農で栽培していて、気持ちだけは百姓です。中学校・高校と吹奏楽をやっていました。入団のきっかけは、農業関係の集まりで代表の白取さんと知り合い、その思いに惹かれたこと。最初は「手伝い」ということで参加したのですが、いつの間にか楽器をやるようになってしまいました(笑)。仙台には上手なオケがたくさんありますから、我々をどんなふうにみてくれるか・・・・・・、不安でもあり楽しみでもあります。
ヴァイオリン
三上 悠美さん
青森出身で、今は岩手大学農学部の3年生です。大学では農業土木、圃場の整備などを勉強しています。大学のオケに所属していて、先輩から声をかけられて農民管弦楽団にも参加するようになりました。練習場所(花巻)までは盛岡から先輩の車に乗せてもらって1時間半ぐらいかかるのですが、このオケは大学のオケとはまた違う雰囲気でとても楽しいです。
ヴァイオリン
開(ひらき) 勇人さん
岩手大学大学院農学研究科修士課程2年生です。専攻はバイオフロンティア、寒冷地の作物収量アップについて研究しています。ヴァイオリンは大学に入ってから始めました。その大学のオケに代表の白取さんが勧誘に来たことと、白取さんと北海道農民管弦楽団で一緒に活動していたポスドクの方(現在、東北農民管弦楽団でフルートを担当)から誘われたこともあって、1回目の演奏会から参加しました。将来は研究者を目指していますが、実地のつながりも必要になってくるので、このオケの集まりで皆さんに話を聞いたりして勉強させていただいています。
クラリネット
齋藤 雅典さん
東北大学農学研究科の教員です。講義や会議があるときは仙台の農学部キャンパスにも行きますが、ふだんは鳴子にある研究所(川渡フィールドセンター)で、土と肥料についての研究や学生の実習指導を行っています。クラリネットは学生時代に大学のオケやその後もアマオケで吹いていましたが、ここ10年ぐらいは1人で楽しんでいました。それが去年、知り合いから誘われて東北農民管弦楽団に入りました。このオケのいいところは、誰でも仲間に受け入れてくれるところでしょうか。農業と音楽をやっていると宮沢賢治が好きという人も多いし、共通の話題があっていいですよね。ただ楽団員が東北各地にいるので、本番直前にしか全員が集まって合わせることができないのが難点。2月の仙台公演では、皆さんががっかりしないような演奏をしようと思います(笑)。
指揮
折居(おりい) 周二さん
北上市で野菜農家とJA職員を兼業しています。以前はクラリネットを演奏していましたが、今はお休みしていて、おもに指揮を担当しています。東北農民管弦楽団はとてもあったかいオケですね。演奏レベルも高いし、指揮していて楽しくて仕方がない。2月の本番でも「新世界より」を振ります。抱負ですか? そうですねえ、東北人らしい、土の匂いのする演奏をしたいと思います。
「東北農民管弦楽団との共演を前に」
舘野 泉(ピアニスト)
東北農民管弦楽団第3回定期演奏会(仙台公演)で共演するピアニスト、舘野泉さんからご寄稿いただきました。
東北農民管弦楽団のことを知ったのは今年の春だったと思う。活動を始めたのが数年前。農業に携わる東北六県の音楽愛好家が組織したオーケストラで、農繁期には各人が忙しいから練習はめいめいで行い、農閑期の10月から翌年2月までが一緒になって練習や演奏会を行なっていると聞いた。なんだかとても新鮮で素晴らしいグループだと思った。音楽が各人にとって愛おしく大事なものであることがよくわかった。ベートーヴェンの「田園交響曲」やドヴォルジャークの「新世界より」、シベリウスの「フィンランディア」などを重要なレパートリーとしている。宮沢賢治の考えや行ったことどもを大事にしているとも聞いた。私にとっても賢治は大切な人である。太平洋戦争の時に東京の家は焼夷弾の直撃を受けて全焼し、ピアノも丸焼けになってしまったが、何よりも悔しかったのは当時愛読していた『風の又三郎』の本が焼けてしまったことだ。当時は戦火厳しく、本も手に入らなくなっていたからだ。
私と長男ヤンネのために作曲家の平野一郎さんが二重協奏曲「星巡ノ夜」を書いてくれたのは2014年のこと。楽譜には「宮澤賢治ノ心象ノ木霊」と記され、私とヤンネに捧げる旨が記されてもいる。第1楽章「天路ノ汽笛」、第2楽章「銀河ノ舟歌」、第3楽章「際涯ノ星祭」から成り、ヴァイオリンで奏されるカデンツァには「ジョヴァンニの肖像」、ピアノで奏されるカデンツァには「カムパネルラとの対話」と記されて「銀河鉄道の夜」が響いている。第3楽章の「際涯ノ星祭」にはねぶたの太鼓が華やかに連打されつづける。オーケストラは左右二群に配置され、非常に精妙複雑な動きもあるから、ソリストも指揮者も過酷なまでの動きを要求される。東北農民管弦楽団にとってもいままでまったく未経験の分野だろう。作曲者の平野一郎さんが以前、私の為に書いてくれた傑作「微笑ノ樹〜円空ニ倣ヘル十一面〜」の動と静に満ち溢れた広大な世界が想起される。いまから400年近くも前、63歳の生涯に亘り美濃・飛騨・尾張を中心に南は伊勢・大和、北は津軽・松前・果ては蝦夷国まで遍歴し、鉈彫と称される荒削りな木造彫刻十二万体を遺した円空。その精神が銀河鉄道にまでつながり、天空遥かに去っていく。東北農民オーケストラとともにその旅をしていこう。母の故郷である仙台でこの機会がもてることも弟・英司とともに喜んでいる。
舘野 泉 (たての いずみ)
1936年東京生まれ。60年東京藝術大学首席卒業。64年よりヘルシンキ在住。日本とフィンランドを拠点に国際的活動を展開し、演奏会は3500回を超える。02年脳出血により右半身不随となるも04年「左手のピアニスト」として復帰。NHK大河ドラマ「平清盛」のテーマ曲ソリスト。左手ピアノ音楽の集大成「舘野泉フェスティヴァル~左手の音楽祭2012-2013」を開催。シベリウス・メダル、旭日小綬章等受賞暦多数。南相馬市民文化会館(福島県)名誉館長、日本シベリウス協会最高顧問、日本セヴラック協会顧問、サン=フェリクス=ロウラゲ(ラングドック)名誉市民。
舘野泉公式HP http://www.izumi-tateno.com
宮沢賢治「農民芸術概論綱要」(抜粋)
1926(大正15)年、宮沢賢治はそれまで勤務していた花巻農学校を退職し、私塾「羅須地人協会」を設立。農耕生活のかたわら、付近の農民を集めて農業や科学、芸術などについて教えました。その際の講義用として書かれたのが「農民芸術概論綱要」です。
序論
・・・・・・われらはいっしょにこれから何を論ずるか・・・・・・
おれたちはみな農民である ずゐぶん忙がしく仕事もつらい
もっと明るく生き生きと生活をする道を見付けたい
われらの古い師父たちの中にはさういふ人も応々あった
近代科学の実証と求道者たちの実験とわれらの直観の一致に於て論じたい
世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない
自我の意識は個人から集団社会宇宙と次第に進化する
この方向は古い聖者の踏みまた教へた道ではないか
新たな時代は世界が一の意識になり生物となる方向にある
正しく強く生きるとは銀河系を自らの中に意識してこれに応じて行くことである
われらは世界のまことの幸福を索ねよう 求道すでに道である
農民芸術の興隆
・・・・・・何故われらの芸術がいま起らねばならないか・・・・・・
曾つてわれらの師父たちは乏しいながら可成楽しく生きてゐた
そこには芸術も宗教もあった
いまわれらにはただ労働が 生存があるばかりである
宗教は疲れて近代科学に置換され然も科学は冷く暗い
芸術はいまわれらを離れ然もわびしく堕落した
いま宗教家芸術家とは真善若くは美を独占し販るものである
われらに購ふべき力もなく 又さるものを必要とせぬ
いまやわれらは新たに正しき道を行き われらの美をば創らねばならぬ
芸術をもてあの灰色の労働を燃せ
ここにはわれら不断の潔く楽しい創造がある
都人よ 来ってわれらに交れ 世界よ 他意なきわれらを容れよ
(中略)
農民芸術の製作
・・・・・・いかに着手しいかに進んで行ったらいいか・・・・・・
世界に対する大なる希願をまづ起せ
強く正しく生活せよ 苦難を避けず直進せよ
感受の後に模倣理想化冷く鋭き解析と熱あり力ある綜合と
諸作無意識中に潜入するほど美的の深と創造力は加はる
機により興会し胚胎すれば製作心象中にあり
練意了って表現し 定案成れば完成せらる
無意識部から溢れるものでなければ多く無力か詐偽である
髪を長くしコーヒーを呑み空虚に待てる顔つきを見よ
なべての悩みをたきぎと燃やし なべての心を心とせよ
風とゆききし 雲からエネルギーをとれ
農民芸術の産者
・・・・・・われらのなかで芸術家とはどういふことを意味するか・・・・・・
職業芸術家は一度亡びねばならぬ
誰人もみな芸術家たる感受をなせ
個性の優れる方面に於て各々止むなき表現をなせ
然もめいめいそのときどきの芸術家である
創作自ら湧き起り止むなきときは行為は自づと集中される
そのとき恐らく人々はその生活を保証するだらう
創作止めば彼はふたたび土に起つ
ここには多くの解放された天才がある
個性の異る幾億の天才も併び立つべく斯て地面も天となる
(中略)
農民芸術の綜合
・・・・・・おお朋だちよ いっしょに正しい力を併せ われらのすべての田園とわれらのすべての生活を一つの巨きな第四次元の芸術に創りあげようでないか・・・・・・
まづもろともにかがやく宇宙の微塵となりて無方の空にちらばらう
しかもわれらは各々感じ 各別各異に生きてゐる
ここは銀河の空間の太陽日本 陸中国の野原である
青い松並 萱の花 古いみちのくの断片を保て
『つめくさ灯ともす宵のひろば たがひのラルゴをうたひかはし
雲をもどよもし夜風にわすれて とりいれまぢかに歳よ熟れぬ』
詞は詩であり 動作は舞踊 音は天楽 四方はかがやく風景画
われらに理解ある観衆があり われらにひとりの恋人がある
巨きな人生劇場は時間の軸を移動して不滅の四次の芸術をなす
おお朋だちよ 君は行くべく やがてはすべて行くであらう
結論
・・・・・・われらに要るものは銀河を包む透明な意志 巨きな力と熱である・・・・・・
われらの前途は輝きながら嶮峻である
嶮峻のその度ごとに四次芸術は巨大と深さとを加へる
詩人は苦痛をも享楽する
永久の未完成これ完成である
理解を了へばわれらは斯る論をも棄つる
畢竟ここには宮沢賢治一九二六年のその考があるのみである
底本:【新】校本宮沢賢治全集 第13巻(上) 覚書・手帳 本文篇(1997年、筑摩書房)
東北農民管弦楽団 第3回定期演奏会 仙台公演
2016年2月14日(日)13:30開演
会場/広瀬文化センター(仙台市青葉区愛子字観音堂5)
入場料/一般1,000円、高校生以下500円(全席自由)
プレイガイド/仙台三越、藤崎、ヤマハミュージックリテイリング仙台店(予定)(チケット発売予定 12月15日)
ホームページ http://touhoku-noumin-orchestra.jimdo.com/
ブログ http://blog.livedoor.jp/tohokunoumin/
Facebook https://www.facebook.com/touhokunoumin/