加川さんの巨大絵画の大きさを体感するべく、長町一丁目から春日町の『せんだいメディアテーク』へ。「私にとって一番の戦場です」と加川さんが案内してくれたのは、1階のオープンスクエアだ。この場所で初めて個展を開いた2007年以降、巨大画の新作発表はいつもここ。2011年からは東日本大震災をモチーフに制作することで、「より誠意を持って、見に来てくださる方や絵と向き合うようになった」と話す。「作品ごとにしっかりテーマを考え、思いを込めて一生懸命に描く。その絵だけで本気が伝わるくらいじゃないと、震災は描けないと考えています」。
加川さんの絵がこれほど大きくなったのは、いわば「メディアテークがあったから」。加川さんの巨大画の定番サイズとなっている横16.4m×高さ5.4mは、この壁いっぱいに飾るための最大値だ。一つの巨大画を完成させるために、24枚のパネルをつなぎ合わせている。「展示する時に初めて合体させるので、普段アトリエで描いている時は全体像が見えないんですよ。メディアテークで最初に完成形を見る瞬間は、緊張感が高まります」。この巨大画を生み出している場所は、加川さんの地元である宮城県蔵王町。どんな様子で制作しているのか、アトリエを見せていただくことになった。
仙台から蔵王町まで車を走らせて1時間弱、自然豊かな山里へ。田園風景に溶け込むように、加川さんのアトリエは佇んでいた。「ここに並べられるパネルの数は、最大で5枚くらい。巨大画の全体を想像しながら、部分ごとに描いていきます」。制作する本人ですら、展示会場に飾るまで完成形とは対面できない。「でも見えないまま描くことによって、自分を超えた力が出るんですよ。一般的に絵を描く時は、全体を見ながら調整して、どんどん良くしていきますよね。それだとコントロールしちゃうし、どうしても守りに入ってしまう。私の巨大画は攻め続ける作業しかできないので、その無茶や1日1日の全力が結集して、大きな渦のような力が生まれるんです」。この制作方法を「力拡大装置」とたとえて笑う加川さんだが、同様の効果を子どもたちとのワークショップでも感じるという。
加川さんは毎年、地元の蔵王町で巨大画ワークショップを行っている。「子どもたちが描いた絵を合体させると、大きな歓声が上がります。自分の描いたものが大きな絵の一部になり、小さいものも合わされば大きな力になる。子どもたちにとっても、その感動は大きいようですね」。ワークショップの熱気は近隣のまちにも波及し、蔵王町を含む広域仙南圏での取り組みへと発展。巨大画をより大きくする構想も練られているそうだ。「インパクトのある巨大画は、いろんな人を巻き込みやすいのが魅力。しかも舞台背景のように大きいので、絵の前でのパフォーマンスや演奏など、総合芸術的なコラボレーションも可能です。巨大画だからこそできることもあるので、今後も自分の役割として貢献できたら嬉しく思います」。
掲載:2022年7月12日
取材:2022年12月
- 加川 広重 かがわ・ひろしげ
- 1976年、宮城県蔵王町生まれ。高校3年から美術予備校『仙台美術研究所』へ通うようになり、その後2年間の浪人生活を経て、東京の武蔵野美術大学油絵学科へ進学。大学4年の時に、幼い頃好きだった水彩画の魅力を再認識し、卒業制作から現在まで透明水彩で作品を描く。2011年からは震災をテーマにした巨大絵画を発表し、国内外で高い評価を獲得。また巨大画を通じた地域交流や子どもたちとのワークショップ、オペラやコンサートでのコラボレーションなども行い、表現の可能性を広げている。自らの癒やしとして動物や自然を描いた小作品も発表。仙台美術予備校校長。美術専門カルチャーSenbi倶楽部講師。