レビュー・レコメンド

『A TWENTY YEAR RETROSPECTIVE /MICHAEL KENNA』

――どこにでもある心動く風景に気づく

中川和寿(画家・ペインター)

Q. この作品について教えてください

 アメリカ在住のイギリス人フォトグラファー、マイケル・ケンナによる、20年にわたる作品群をまとめた回顧的写真集。親日家としても知られるマイケル・ケンナが世界各地で写してきた、幻想的な建造物や雄大な自然、静謐なランドスケープの数々が美しいモノクロプリントで多数収められています。

Q. この作品と出合ったときのこと、出合ってからの変化などを教えてください

 大学を卒業後、イベントTシャツ制作のアルバイトや、大学の広報カメラマンなどの仕事をしながら制作活動を続けていました。ギャラリーを借りて個展を開催したり音楽イベントでライブペイントをしたりしながら、自分のタッチやモチーフ、作風を模索していたときにこの写真集に出合いました。やっていることは今もあまり変わっていませんね。

 元々ロマン派やバルビゾン派の叙情的な風景画が好きで、自分の作品としても心象風景画を描くことが多かったこともあり、ケンナの写真の静謐さ、どこか水墨画を感じる画面構成や余白の美しさ、ストーリーを想像させる風景写真に心惹かれました。

 いろいろな作家の画集は昔からよく見ていましたが、写真集を手にしたのは、これが初めてだったと思います。身近にある田園風景や公園、なんでもない街角をこんなにも斬新な構図で美しく切り取れるのか、と衝撃を受けました。

 美しい風景、心が動く景色というのは、例えば世界遺産や有名な景勝地に行かずとも、自宅へ向かう道に差し込む木漏れ日や、アトリエ近くで見上げる電柱のシルエットなど、なんでもない日常の中にたくさん在るということ。それに気づくことができる視点を持つ、ということの重要さを、この写真集に出合ってから意識するようになりました。特別ではないけれど何か心に残る風景、そこに在る小さな気配や光、言葉になる前の想いを、自分の眼差しを通して描いていきたいと考えるようにもなりました。

 この写真集は、シンプルなモチーフや余白の美しさに惹かれる人、静かな空気や風景の奥にある物語性を感じたい人におすすめしたいです。身近な風景の中の美しさや詩情が好きな人に特に響く作品だと思います。

「ある日常」2026年木製パネルに油彩
マイケル・ケンナに影響を受けて、アトリエ近くの電柱をモチーフに描きました。

掲載:2026年8月28日

【レビュー・レコメンドとは】
仙台に暮らし、活動するさまざまな方に、「人生の一番/最近の一番」を教えていただく企画です。



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中川 和寿 なかがわ・かずとし
1982年仙台生まれ。絵描き・ペインター。ARABAKI ROCK FEST.などの音楽フェスでのライブペイント、10-FEETなど多数のミュージシャンのアートワークを担当。
2022年8月、自身のアトリエ&ギャラリー「OTOTOE[音と絵]」を仙台一番町にオープン。