レビュー・レコメンド

古書店で入手した『昭和11年磐城高女地理科宿題』

――当時の女学生たちが教えてくれた地域の価値

有賀 史人 (「阿武隈書房」代表)

Q. おすすめするものについて教えてください

 昭和11年に福島県いわき市の磐城高等女学校(現磐城桜が丘高等学校)の4年生に向けて出された夏休みの宿題の綴りです。宿題とは、家の年中行事を父母や祖父母に聞いてまとめること。生徒108人が提出した原稿用紙が、4冊に綴られています。

 この宿題を出した磐城高女の先生たちを中心に昭和10年、「磐城民俗研究会」が結成されます。「祭りや年中行事、昔話などの民俗は、古い日本人の信仰を解明する手掛かりとなる。一方で、民俗は古い習俗で、現在廃れつつある。だからこそ記録しなければならない」。こうした意識から、民俗学という新しい学問に意気込む若き教師たちは、生徒に年中行事の記録を宿題として出したのです。

Q.  出会ったときのこと、出会ってからの変化などを教えてください

 茨城県の大学で民俗学を学んでいた私は、いわき市の盆踊りをメインの研究テーマとしました。固定化されてしまった盆踊りの構成や芸態を、太鼓の叩き手、それを囲む踊り手、さらには観客を含めた、盆踊りの踊られた場から考え直すというのが私の研究課題でした。いわきで知りあった方の家に居候しながら、古老たちの話を聞いて回り、若者と盆踊りの太鼓を叩き、ともに踊りました。また、資料を探すために頻繁にいわきの古書店に通っていました。そんな私に古書店主が勧めたのが、この綴りです。学生からすると結構な金額ではありましたが、取り置きしてもらい、何とかお金を工面して入手したのです。

 この宿題から見えてくるのは、昭和11年という時代を生きる女学生の眼差しです。正月やお盆などの伝統行事にとどまらず、クリスマスや自分の誕生日にいたるまで、彼女たち自身の年中行事の体験と実感を記しています。今から90年前の年中行事の記録という意味での重要性もさることながら、年中行事や祭りが、今、ここで生きているという記述のリアルさが新鮮に感じられました。

 古老の語りから垣間見える過去の熱狂、また、現在の若者たちとともに踊ることでの陶酔感、そして、昭和11年の女学生の感じた盆踊り。これらを通して、先祖の霊を供養するために踊られたという、どこか遠い説明のされがちな盆踊りが、私たちが踊る盆踊りの今に通底していると感じられたのです。

 大学生の頃に古本屋でアルバイトをし、いつの間にか自分も古本屋になっていました。古本とは過去のものですが、まったく現在と関わりがない物ではありません。懐かしむ、感動する、楽しむ私たちがいてはじめて価値が生じます。古本屋が価値を決めるのではなく、私たちそれぞれの今が価値を作り、それにより古本屋が価格を決めてゆく。昭和11年の女学生の宿題は、いわきの古書店主が当時の私にとって価値があると考えて売ってくれたもの。そんな古本との出会いを提供し、あわよくば価値を分かち合える古本屋でありたい。そんな風に思っています。

昭和11年当時の手書きの原稿用紙が綴られた冊子。当時は単に宿題の1つだったかもしれないが、今となっては当時を知る貴重な資料。

掲載:2026年7月27日

【レビュー・レコメンドとは】
仙台に暮らし、活動するさまざまな方に、「人生の一番/最近の一番」を教えていただく企画です。



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1977年宮城県名取市生まれ。阿武隈書房代表。宮城県古書籍商組合理事長。古書店経営の他、宮城県内の自治体誌編纂に関わる。