連載・コラム

事業レビュー|人流楽器によるひらかれた演奏体験と地域回遊促進

「文化芸術を地域に生かす創造支援事業(地域助成)」では、観光、まちづくり、福祉、教育等の他分野との連携により社会課題と向き合う公益性の高い文化芸術活動や、市民に優れた文化芸術の鑑賞機会を提供する事業を支援しています。
助成区分のうち「B.文化芸術と社会の連携推進事業」については、「スタートアップ枠」を設け、本格実施に向けたリサーチや試験的な事業を実施するものを支援しています。
本コラムでは、「文化芸術と社会の連携推進事業 スタートアップ枠」として採択された事業の活動の様子を、助成事業担当職員がレポートします。

事業名:人流楽器によるひらかれた演奏体験と地域回遊促進
団体名:人流楽器製作集団
活動期間:2025年6月21日から2026年3月15日まで
参考URL:https://ssbj.jp/support/grant/report/14910/

 本事業は、仙台の都市部における回遊性の低下を解決する手法として「楽器演奏するように街を散策し知らなかった街の一面と出会う体験を届ける」ことを目指している。代表の林さんは、位置情報データを基に都市部における人々の行動動態の研究を行う傍ら、サウンドアーティストとの協働で2024年より本事業を開始し、2025年は地域助成「B. 文化芸術と社会の連携推進事業」スタートアップ枠に採択された。
 今年度はスマートフォンの試作アプリを作成し、「仙台ストリートジャズフェスティバル2025」(以下ジャズフェス)の開催期間に合わせて実装実験をおこなった。ジャズフェスの公式パンフレットや各会場のサインには、試作アプリのダウンロードのためのQRコードが表示され、人流楽器製作集団のメンバーも各所で積極的にチラシを配布していた。開催期間中、135人がダウンロードを行ったという。

 
 実際にダウンロードしてアプリを開いてみると、現在位置を中心としたマップが表示され、一定のリズムでドラムのような音が鳴り出す。そのまま徒歩で移動すると、経路に合わせてアプリ上に軌跡が描かれ、エリアに合わせてピアノやトランペットのような電子音が鳴り出し、音が重なっていく。自分の描いた軌跡をシェアしたり、他者の軌道を見たりもできる。ジャズフェス期間内での実証実験だったため、各会場位置・タイムテーブルを示すイベントMAPの役割も兼ねられていた。

 
 初めはジャズフェスの主会場でアプリを使用してみたが、演奏をその場で立ち止まり楽しむライブの体験と、移動しながら生成される音楽を聴くアプリの体験がうまくかみあっていないように感じられた。そこでアプリのみを体験するために会場から離れ仙台駅周辺を歩いてみたところ、本事業のコンセプトの1つである「楽器演奏の探索的な側面」をいくつか感じることができた。
 街を歩くことで生成される音を聴くという一連の体験は、移動によって奏でられる音楽の「演奏を楽しむ」というよりも、どちらかといえば音の変化を「探る」体験が主であり、どんな場所でどんな音が鳴るのかを確かめながら探索を進めていくという側面が強かった。そのため一般的な“音楽”や“演奏”のイメージからは少し遠く、自由に演奏を楽しんだという感覚には至らなかった。ただ、音をきっかけに街の様々な箇所を探り、音を頼りに訪れたことのない道を巡るという“散策”を 1つの“演奏”の形 として捉えて表現している点はユニークに思えるし、「アプリでの演奏」が自分の足であちこち歩きまわるという存外地道な行動を基にしていることもなんだか面白く感じた。

 本事業は文字通り「スタートアップ」として試みが始まった段階である。人流データという情報の分野と、楽器演奏といった文化芸術の分野がどのように結び付いていくか期待が高まる一方で、「音楽によって移動を動機付け」「地域の回遊性を高める」ところまで演奏そのものを楽しくできるか、エンターテインメントとしてどのように成立させていくかという点については次年度以降の活動に注目したい。現状のアプリは試作段階ということもあり、人流データや街歩きを用いなくても体験できるような音楽であり、街歩きのきっかけとなるユニークで楽しい“楽器”までにはなりきっていない印象だ。人流データを用いた演奏が思いもよらない音楽を生み出し、仙台という街の固有性や地域性などが表現され、この体験でしかできない交流が広がっていく―――そういった事業となることを期待してやまない。

(公財)仙台市市民文化事業団 総務課 岩村空太郎 

掲載:2026年7月7日