レビュー・レコメンド

楽曲『Analogfish / 抱きしめて』

――優しいプロテストソング

漆田義孝(NPO法人メディアージ 常務理事)

Q. この作品について教えてください

 Analogfish(アナログフィッシュ)は、長野県出身の二人のボーカリストがそれぞれ曲をつくり、メンバー全員が歌う、3人組のロックバンドです。特にギターボーカル下岡晃(しもおか・あきら)さんの歌詞は、社会的メッセージ性が多く含まれています。

 この『抱きしめて』は、彼が幼少期から感じていた地震への畏怖を歌詞に込めた曲で、東日本大震災の前につくられたそうですが、震災後に一部歌詞を変えてリリースされました。
「危険があるから引っ越そう」「ねぇ どこにあるの そんな場所が この世界に」
というフレーズが、非常に印象的な楽曲です。

Q.この作品との出会ったときのこと、出会ってからの変化などを教えてください

 大学時代の友人が「漆田が好きそう」とAnalogfishを勧めてくれました。初期の彼らは「のどかに殺される」田舎や「何でもあるけど何にもない」都市の哀愁などをアイロニカルに歌っていて、当時の社会の閉塞感を映し出すような独特の世界観にハマりました。

 大学卒業後に多くの同級生が就職で東北を離れる中、首都圏に就職することに違和感を感じ仙台に残った私は、2011年当時はサラリーマンで、職場で被災しました。その後まもなくAnalogfishがリリースしたアルバムタイトルは『失う用意はある? それともほうっておく勇気はあるのかい』。そして翌年YouTubeで公開された楽曲が『抱きしめて』です。

 震災の経験は人それぞれですし、皆異なります。私は幸い、家族や身近なものを失うことはありませんでしたが、様々なものを見続ける中で、自分のことをいつの間にか「被災者でありながら傍観者」という立ち位置にいるのだと、意識するようになりました。どこか当事者ではないような、後ろめたいような、自分が今何をしていて何をすべきかわからない、ふわふわした感覚は、しばらく続いたと思います。

 『抱きしめて』は、決して東北にいる被災者の目線で書かれた楽曲ではありません。ただ私は、この歌を聴いた時に、私が生まれ育った東北に居続けることを肯定されたように感じました。そしてまた、私たち一人ひとりが作ってきた社会の形ってなんなのだろうと、見つめ直すきっかけも与えてくれました(でも、その答えは未だにわかっていないのですけど)。

 時代は流れていきます。震災や、気候変動による災害が頻発し、あの頃感じていた閉塞感とは違う形で、今もまた私たちは何かに追われ続けているような気がします。日々の生活にも追われるし、苛立ちも蓄積していきます。

 そんな時、下岡晃さんの歌詞は、一旦その苛立ちを俯瞰するような、諭すような、優しい眼差しを与えてくれます。優しいプロテストソング※だと、私は思っています。

※プロテストソング:政治的抗議のメッセージを含む歌(楽曲)の総称。

昨年3月に福島県広野町で撮影した、海です。

掲載:2026年1月9日

【レビュー・レコメンドとは】
仙台に暮らし、活動するさまざまな方に、「人生の一番/最近の一番」を教えていただく企画です。

漆田 義孝 うるしだ・よしたか
1983年青森県生まれ。映像制作・ファシリテーター。東北大学卒業後に仙台の人材系企業に就職、震災後は起業支援やまちづくり人材育成事業に関わりながら、震災復興や政治・選挙に関する取材、情報発信活動などに取り組む。