
※写真の一部を加工しています。
街を歩くとき、あなたは何を見ているだろうか?
人々、信号、ビル、街路樹……。
では見えたものの中から、「石でできたもの」は思い出せるだろうか?
――えっ、石??――
石のさまざまな楽しみ方
このごろ、世は石ブームである。
各地で開催されるミネラルショーや、素敵な天然石が拾える海岸が話題となり、フォトジェニックな石の写真を投稿するSNSアカウントが写真集を出したり、有名雑誌が石・鉱物を特集するなど――、静かな盛り上がりを見せている。
たとえば、石材に含まれる化石探しは人気が高い。石灰岩などの堆積岩には、アンモナイト、サンゴ、ウニなどの化石が含まれることがあり、建築石材の中に確認できるこれらを「ビル化石」と呼んだりする。宝探しのような面白さがあって根強いファンも多く、ビル化石を扱った本もそれなりに存在するほか、ビル化石観察ツアーも各地で開催されている。
また、愛好家の数は未知数だが、化石が入らないタイプの石材観察趣味もある。
たとえばマグマが冷えて固まってできた火成岩の仲間だ。ビル外壁や墓石、敷石などに多く使用されている石材だ。これらは化石が入った石材と同じくらい、あるいはそれ以上に市街地で使用されているので、意識はしていなくても必ず目にしていると思う。
SASSAは、仙台・宮城を拠点に、市街地や公園など身近な風景を観察して楽しむ活動を行なっており、その一環として街中の壁面や敷石、彫刻など、都市に使われている石材に注目し、それらの観察を楽しんでいる。
前述の石ブームは、宝石・貴石や鉱物などが中心であり、都市の石材観察は話題にあがる機会が少ないが、それでも全国に愛好家はそれなりに存在している。
近寄って観察してみると、構成要素である石英や長石、雲母などのきらめきが美しい。茶色と認識していた石材の中に、赤や青が散っていることもある。また、遠くからは同じ種類に見えていた石材が、近寄ってそれぞれ観察すると色合いが微妙に違い、調べてみたら産地が別々の国だった、ということもある。
また、たとえば黒や暗色の火成岩で構成された空間は峻厳な雰囲気があるなど(例:仙台市博物館)、石が生み出す空間を楽しむという方法もある(「もある」というか、そもそも建築をデザインするために石材が選ばれているので、これは正統派の楽しみなのだが)。
火成岩は化石のようにポイントとなるものが少ないので一見地味だが、知るほどに、見るほどに味が出るスルメのような楽しさがある。
例として石灰岩(堆積岩)と火成岩を挙げたが、石材=岩石は多様であり、市街地でもさまざまな種類の石材を楽しむことができる。
地学知識がなくても石めぐりは楽しめる
上にあげたようなビル化石観察、火成岩観察においては、地学や古生物学の知識を備えたエキスパートな人々が世の中に存在する。専門家並みの知識を持つ一般の方もいる。
だが、私たちSASSAの石材観察は、そのような専門知識に基づくものではない。市街地で石材を探して、色や模様、使われ方を観察し、好きな石材を見つけては地図(や脳内地図)にマッピングして楽しむ、というのが主たる活動だ。
それは私たちの出発点が地学ではなく、美術分野に近い「路上観察」(※)からスタートしているからだ。街を歩いて、見ること・出会うことを楽しむのが基本姿勢で、時には地学の書籍を読んで知識を得ることもあるが、知ることよりは、見ること・出会うこと、自分の脳内地図を更新していくことに主眼がある。
そういう楽しみ方をしているので、「石材観察が趣味です!」と口に出すことに迷いを感じる時もある。石材について一般的に期待されるような知識は持ち合わせていないからだ。だが、専門でも一般でもない中途半端な立場だからこそ見える石の魅力もきっとあるはずだ、と自分たちに言い聞かせて活動しているし、地学的知識がなくても石材観察=石めぐりを楽しめることは身をもって証明できていると思う。
※「路上観察」…身の周りのあらゆる事物を観察の対象として,無目的かつ無意識的な路上の物件の面白さをあるがままに観察しあるいは採集する行動,フィールドワーク。 1986年に赤瀬川原平,藤森照信,南伸坊らを中心メンバーに路上観察学会を結成。その調査研究は今和次郎,吉田謙吉の考現学の視点を原点に森羅万象を対象とする。
コトバンク「路上観察」の項目より引用
https://kotobank.jp/word/%E8%B7%AF%E4%B8%8A%E8%A6%B3%E5%AF%9F-162107#goog_rewarded

仙台・宮城の石の楽しみ
さて、街の中の石の産地を少し調べてみると、日本産だけでなく、イタリアや中国、南アフリカ、ノルウェーなど、世界中から石材が輸入されていることがわかる。都市空間はさながら「世界の石の見本市」なのだ。産地ごとの色や特徴を、石の世界の広大さを都市にいながら体験できる。
日本国内に目を移すと、国内でも各地で産出する石材に違いがあり、ここ仙台・宮城にも「この土地ならではの石」が存在している。石材観察でそのような石に出会うこともよくある。そして、その地域で地産地消されてきた石材はその土地の文化や暮らしに関わりがあると感じている。
今回の特集『仙台で出会う石「石めぐりとソウルストーン」』では全4本の記事を通じて、仙台・宮城で体験できる石・石材の世界の一端をご紹介する。
○ 仙台の「建物」と「石」
仙台地域の近代建築の石材調査を手掛けている東北大学キャンパスデザイン室の内山隆弘さんに、仙台の建物と石の関わりについてご寄稿いただく。
○ 地元の「ソウルストーン」
地元で産出され、親しまれてきた石材を、私たちはソウルフードになぞらえて「ソウルストーン」と(勝手に)呼んでいる。ここでは秋保石など、宮城を代表する石材を取り上げる予定である。
○ SASSAと「石めぐり」
私たちSASSAの視点から、仙台の街を石材目線で歩いたレポートをお届けする。
街のどこに石が使われているのか気にしながら歩いてみると、歩き慣れた街も初めて訪れる町のように新鮮に感じられる。ビル化石を探しはじめると、これまで気にもとめなかった壁や床を無視できなくなる。私たちの中に興味関心が芽生えるたびに、街は新たな探索/観察フィールドとして生まれ変わるのだ。
この特集、また、身近にある石・石材をきっかけに、このまちを再発見してもらえれば幸いである。

◆都市石材観察の入門書として、地質学・岩石学・石材の専門家である西本昌司さんの著書『東京「街角」地質学』(東京書籍 2020)を挙げておきたい。事前の地学知識なしで読める本書は、都市石材を地学的視点で読み解いて街を見る目を一変させる。私たちも、この本をきっかけに、見慣れた仙台の景色が全く新しいフィールドのように感じられるようになった。
◆仙台地域で観察できるビル化石や石材については、地学団体研究会仙台支部 編集の書籍『気分は宝さがし!せんだい地学ハイキングVer.2』(創文印刷出版株式会社 2020)に特集ページがあるので関心のある方はご覧いただきたい。
【補足リンク】
宮城を代表するもう一つのソウルストーン「雄勝石」については、東北工業大学の大沼正寛先生による記事をご覧ください:
玄い石盤の小さな旅―宮城県産スレートのある風景をたどって
https://mag.ssbj.jp/col/16290/

