連載・コラム

事業レビュー|森林環境や建築⽣産に携わる⼈々の声をもとにした家具の制作を通して、⽊材の経路を辿り、つながりを結びなおすプロジェクト

レビュワー:奥脇嵩大(青森県立美術館 学芸員)

2024年度に新たにスタートした助成事業「文化芸術を地域に生かす創造支援事業」。観光、まちづくり、福祉、教育等の他分野との連携により社会課題と向き合う公益性の高い文化芸術活動や、市民に優れた文化芸術の鑑賞機会を提供する事業を支援しています。
本コラムでは、「文化芸術と社会の連携推進事業」として採択された12の事業の活動の様子や、その成果・課題等を、各分野の専門家によるレビュー形式で紹介します。

事業名:森林環境や建築⽣産に携わる⼈々の声をもとにした家具の制作を通して、⽊材の経路を辿り、つながりを結びなおすプロジェクト
団体名:建築ダウナーズ
活動期間:2024年6月24日から2025年3月16日まで
参考URL:https://ssbj.jp/support/grant/report/13401/

木々に寄りそうことから

 展覧会を開催するには無論のこと、作品を設営しなければならない。作品設営のための事前打合せでアーティストや施工業者さんから必ずされる質問がある。「美術館の近くにホームセンターってありますか?」
美術館やギャラリーでの設営仕事は、ホームセンターと実に縁深い。絵画だって立体だってなんだっていいが、とにかく壁に作品を吊るためにはビスやフックを用いて壁に吊り元をつくりたいわけで、でも手持ちのビスでは細く短く、心もとないことがある。困った。そうこうしているうちに前の展示で空けたままにして見過ごしていた壁穴を見つけてしまった。気になりだすと目立つ。パッと埋めなくてはならない。そのような時に様々なビスや木材、壁補修用のパテなどが簡単に手に入るホームセンターは便利である。家の修繕や生活の改善に用立てるべくどんな街や村にも大抵あり、同じような規格材質の資材が簡単に手に入るホームセンターは、生活のみならず展覧会活動にとっても不可欠なインフラストラクチャーである。サンキューDCM、フォーエバーダイシン(inspired from 川尻こだま)。でも行くたびに木材やパネルの値段が地味に上がり続けているのは勘弁してほしい…ホームセンターではいま何が起きているのだろうか。
ホームセンターの興隆は1970年代以降の幹線道路網の整備発達と軌を一にする。陸路による全国規模での物流ネットワーク強化が、アート分野においては屋内外をまたいだ空間における作品概念の拡張、また80年代以降の地方における公立美術館設立ラッシュの流れを準備する一動因となったことは疑い得ない。おそらく第三国で安価に買い付け運ばれ、加工されたマツやスギ、ラワンベニヤ、MDF(中密度繊維版)合板等の規格の揃った木材は、それらを素材に制作された作品の価値を無限に増殖させ、ユニバーサルに担保する媒体となる。資本主義を高速で駆動させる動力となる。いわんや生活をや。労働力や自然資源を搾取し、地球上どこにでも流通させる(ホームセンター化する)ことを旨に働く資本主義。そのような資本主義に包摂される形で、私たちの生活は、アートは世界と地続きの関係にある。しかし私たちは自らを支える技術が、他者が、地域がどのように形作られているかを知らなすぎる。もっともっとそれを知りたいし、想像したい。資本主義からの抜け道がほしい。

 建築ダウナーズの活動を支える問題意識もおそらくそこから遠くないところにある気がする。建築学をバックグランドとし、菊池聡太朗/千葉大/吉川尚哉らによるユニットとして木材を使った家具や展示什器の設計・制作を主に行う建築ダウナーズは、「2020年のウッドショックにより木材の入手が難しくなり、自分たちが使う木材がどこからやってくるのか、日頃目にする山の風景とどのようなつながりがあるのか」という疑問と向きあうべく、宮城県内で林業や建築に携わる人々と交流し、その中で得られた経験や資材をもとに「木材の経路を辿り、つながりを結びなおすプロジェクト」として様々な活動に取り組んでいる。2025年に筆者はそれらの中から、彼ら主催による、丸森町で自伐型林業に取り組み、仲間と山の環境保全を楽しみながら行う「Woods and People MARUMORI」の刈田路代氏、伝統工法を愛してやまない南三陸町の大工である杉原敬氏をゲストに迎え「book café火星の庭」を会場に行われたトークイベント「やまなみに腰かける」と、その翌日のスタジオ訪問を体験した。彼らが山と、木材に関わる人々との交流の中から制作することができた椅子の試座会を兼ねたイベントは彼ら曰く「森林破壊と山の風景、材料。それら三者の間の見えない、それがゆえに違和感のあるつながりを捉えなおすリサーチ・プロジェクトの発表の場」として熱を帯びたものであり、椅子に座ることを通じて彼らの身体をとおした実感や身体知の実践に文字通りふれることができる場であった。発表された中からいくつか作例を紹介しよう。
 「虫食い杉のハコウマ」「耳の椅子」「割った間伐材の椅子」などは木材規格に添わせるのではなく、その場所に生える木の特徴を基点として、椅子として可能な形態を模索する作例である。彼らが椅子を人間身体(自然)と社会をつなぐある種のユニットとして捉え、人間都合によるのではなく、自然や社会との有機的なつながりを身体の実感-手触りや座り心地から確かめ、共有できる形にしようとしていることを確かめることができた。それは地域の自然~社会生態系を軸とした、生の持続のための倫理と形式の獲得を求めようとした、と言い換えることもまた可能だろう。聴衆の代表でもある彼らが話を聴いていた刈田さん杉原さんはそれをいち早く実践するお二人である。杉原さんにより教えられた「エネルギー負荷を一か所にかけて壊れてしまうことを防ぐためのエネルギーの分散構造」としての「総持ち」構造を思い返しながら一本の丸太から効率的に材を取る方法を模索し、「細い材でも荷重に耐えるように部材数と接合部を増やして」つくった「総持ちスツール」には痺れた。ひとりの人を支える椅子が実はいくつもの別の力に支えられて、その形を保っている。そのようにして互いを支え合いながら自立する椅子の様子はそのままコンヴィヴィアル(自立共生)な社会の姿を想起させる。

 原子力技術に代表されるような高々度に発達し、国や大企業に独占されブラックボックス化された技術にすがり振り回されるのではなく、地域の自然と社会によって培われた木や木材との等身大の関わり方そのものを建築実践のなかに位置づけなおすことを求めるその姿勢は、「ダウナーズ」という彼らの名称のとおり、地域の自然~社会生態系に深く下降(down)し、根を下ろしながら地域が取り戻すべき古くて新しい、すなわち生きるためのオルタナティブな構造の獲得につながっている。地域の現実に根を下ろし、イメージもとい構造から先に変われ(inspired by谷川雁)!彼らの建築≒生活実践は今日も印刷団地に間借りした印刷工場であったスタジオでのんびりと、でも確実に変革の時を刻み続けている。同じく仙台で持続可能な染料とメディウムの開発に取り組むYUIKOUBU、吉田勝信氏との協働により木材保護のための塗料や製材の際に出た粉塵を集めて合成材とする接着剤の開発も検討中であると聞き、その展開を楽しみにしつつ、本稿はいったん筆をおきたい。

掲載:2025年6月27日

奥脇 嵩大 おくわき たかひろ
青森県立美術館 学芸員
1986年さいたま市生まれ。京都芸術センター・アートコーディネーターや大原美術館学芸員を経て、2014年より現職。青森での主な企画に2014-16, 2019年「青森EARTH」シリーズ、美術館での米作りと作品制作を連環させる「アグロス・アートプロジェクト2017-18: 明日の収穫」、地域と美術館のコンヴィヴィアル(自立共生)な形を探求する2021-24年「美術館堆肥化計画+宣言」等。生を再設計する場として美術館を扱うことに関心をもつ。あなあきすと。