レビュー・レコメンド

映画『ベルリン・天使の詩』

――AIのことを考えていて、ふと思い出した映画

高平 大輔(映像ディレクター・クリエイティブディレクター)

 私は東北の魅力や文化を取材して、映像やデザインで発信する“泥臭い”タイプのディレクターです。
 その一方で、テクノロジーを探求するビジュアルスタジオにも所属しています。そこでは、勉強熱心なクリエイターたちから最新のAIを使ったクリエイティブについての話を聞くことができ、自分にとって心強い環境です。

 AIを取り巻く環境や未来に思いを馳せると、AIそのものよりも「人間ってそもそも何なんだろう?」という問いに思いを巡らせてしまいます。そんなときにふと思い出すのは、映画『ベルリン・天使の詩』(ヴィム・ヴェンダース監督/1987年)です。
 この作品は東西統一前のドイツを舞台に、人間界を見守る守護天使ダミエルが人間の女性に恋をし、永遠の命を捨てて人間として生きていこうとする物語です。

 天使ダミエルは、人間たちには姿が見えません。しかしある日、広場の売店でひと休みしている俳優ピーター・フォークの姿を見かけ、彼に近づきます。するとピーター・フォークはダミエルに「そこに居るな。ずっと感じていたよ。こっちはいいぞ」と話しかけてきます。ピーターは続けて、「君の顔が見たい。こっちがどんなにいいか教えてやりたい。冷たいものに触る。いい気持ちだよ。タバコを吸う。コーヒーを飲む。一緒にやれたら言うことなしだ。絵を描くのもいい。手が悴んだら、こすり合わせる。これがまたいい気持ちだ」と話しました。そして、姿の見えないダミエルに握手を求めました。

 生きている実感や、人生の素晴らしさは、些細な瞬間や非日常的な瞬間に感じられるものです。それは人それぞれ異なるものですが、私もピーター・フォークの様に、些細な瞬間に「それ」を感じることが好きです。 

 かつて、Appleのスティーブ・ジョブズは「テクノロジーとは自転車と同じだ」と話していました。テクノロジーの自転車がもたらすスピードは素晴らしいと思います。でもそんな自転車から少し降りて、新鮮な空気を吸い、コーヒーを飲み、タバコに火をつけ、「自分はどこへ向かうのか」と立ち止まる。この映画は、そんなことを考えさせてくれる気がしています。

 最後に。もし可能ならば、私はAIと握手したり、一緒に乾杯できたらいいなと思っています。

ベルリン・天使の詩【4Kレストア版】 Blu-ray ¥5,280円(税込) 好評発売中
発売・販売:TCエンタテインメント、提供:東北新社
© Wim Wenders Stiftung – Argos Films 2017

掲載:2023年6月1日

【レビュー・レコメンドとは】
仙台に暮らし、活動するさまざまな方に、「人生の一番/最近の一番」を教えていただく企画です。

高平 大輔 たかひら・だいすけ
福島県南相馬市出身、仙台市在住。東北を拠点として活動するフリーランスのディレクターと、ビジュアルデザインスタジオ・WOW所属のディレクター、2つのスタンスで多種多様なクリエイターと共に東北の新しい可能性を模索中。「ワケルくん」「手とてとテ」「サントリーBOSS」「NIKE」などローカルプロジェクトからクライアントワークまで幅広く手掛けている。
故郷の映画館「朝日座」の活動を応援中。