Q. この作品について教えてください
美術家の照屋勇賢(てるやゆうけん)さんが2011年に前橋市で制作した作品です。当時ニューヨークに住んでいた照屋さんは、前橋市の美術館構想(現アーツ前橋)のアーティスト・イン・レジデンスに招聘され、2011年2月28日から3月31日まで前橋市に滞在していました。滞在期間中に東日本大震災を体験し、被災者へのメッセージとこの記憶を忘れないようにするためにと急遽制作したという作品です。震災を報道する群馬県の地元紙「上毛新聞」から、植物たちが小さく息を吹き返すように切り出されています。
Q.この作品と出会ったときのこと、出会ってからの変化などを教えてください
2011年8月、私は東日本大震災を機に立ち上がった、宮城県塩竃市と群馬県前橋市のアーティストたちによる地域間交流アートプロジェクトに参加する機会をいただきました。前橋市側の出展作品にこの作品があり、目にすることができました。
発災時、私は仙台港の近くに住んでいて自宅は全壊。生活再建に追われながら、復旧・復興のために何かできることはないかと様々なアクションを起こす人たちを羨望の眼差しで見つめていました。未曾有の大災害でこれまでの暮らしも価値観も一変するなか、何もできていない自分を後ろめたく感じていました。
この作品を観たときのことを思い返すと、「安堵」という言葉が浮かびます。「何かしなければ」と焦燥感に駆られていた私を、目の前の「今できること」に引き戻してくれたからだと思います。先は見えないけれど、足元を見れば、新聞から切り出されて芽吹く植物たちのように、ひとつひとつ回復してきた日常が確かにあると気づいて、少し力がわきました。絶望的な風景が広がる誌面が、誰かを力づけるものに変わる。アートの力を体感しました。
アーティストはよく、「炭鉱のカナリア」に例えられます。坑内の有毒ガスをいち早く察知する小鳥のように、社会の不安や違和感へ敏感に反応し、社会に伝えてくれる存在という意味だそうです。そして今、私が身を置く市民活動の現場にいるのもまた、「何かおかしい」「こうすれば、もっと暮らしやすい社会になるのに」と、社会に対して警鐘を鳴らし、状況を変えようと行動する人たちです。作品や活動を通じて、少し未来の希望や危機、問題解決に向けた思考の変換方法を教えてもらっている気がします。
