私は宮城県大崎市の出身で、幼少期の暮らしの中にはいつも豊かな自然があった。
自分の表現の原動力をふと振り返ると、正体のない孤独感や諦念、また、それ自体に対する怒りだったかもしれない。
そんな私がみていた、殺風景で色のない景色。
それと似た殺伐さを描いた作品から感銘を受けた。
ブリューゲルの絵画《雪中の狩人》である。
雪景色の中、狩りから戻った狩人とその土地の人々の暮らしを描いた作品である。
素朴で冷たい雪景色が、私がひとり思い詰めていた思春期の季節と妙にリンクした。
そしてそれを愛情のレンズで感じたまま映し出し、絵にすることができる美しい心に感激した。
私が作家として心がけていることは、「生活感や情けなさに背を向けたくない」ということ。
絵の仕事がはじまったとき、私は好きなことを生業にしていくこと、それと同時に自分らしい生活をしていくこと、このふたつのバランスが保てず、両立を挫折している。
それから私は、自分の華やかではない生活、自分の情けなさ、弱さを隠すのではなくすべて抱え、それ自体が自分だと自覚した。
《雪中の狩人》は、そんな私の背中を押してくれた。
価値というものは、決して金銭で決められ残っていくものではない。
純朴な暮らしから見えてくる芸術のヒントはそこにある気がした。
幼少期に見た大きな野山が与えてくれた孤独感の正体はまだまだ掴めないが、逆境の中でも遊び心を忘れず、ユーモアとたくましさをもって日常をとらえられる素直で優しい心の風景を、私もうつしていきたい。