『ブルーピリオド』は、絵をまともに描いたことがない主人公の八虎(やとら)が、高校2年生から美術の世界に入り、短期間での東京藝術大学への挑戦とその後を描いた物語。
「何かを始めるのに年齢は関係ない」
素敵な言葉だと思うが、趣味ではなくプロを目指すのであれば、非常に厳しい挑戦になる。早くから始めている人たちは、自分よりも遥か先の道を歩んでいる。追いつき追い越すには、その人たち以上の努力と成果を積み重ねていくしかない。
目指す目標が高いほど、到達までの期間が短いほど、日々の研鑽は過酷になっていく。どれだけ自分の命を削り、好きなことに捧げることができるか。その行為は情熱というより、狂気や執念に近いのかもしれない。
八虎とは境遇は異なるが、私も始めるのが遅かった人間だ。私が陶芸を始めたのは30歳近くになってからで、師匠からあと10年早ければなと言われたこともあった。モノ作りの才能があったわけでもないし、英才教育を受けたわけでもない。小学校や中学校での美術の成績は並みだったし、高校の選択科目ではむしろ選ばなかったくらいだ。
大人になってから陶芸の道を選んだことに理屈などない。自分の心に問い続けた結果、好きなこと、やりたいことが陶芸だった。好きなものを「好き」だと言う覚悟を持つまで、ずいぶん時間がかかってしまった。情けないことに、ただそれだけのこと。
私は八虎ほどの努力や成果を出せているわけではない。それでも、彼がもがきながら前に進むたび、自分も少し前に進める気持ちになる。自分が壁にぶつかって挫けそうな時、悩んでいる時、彼の姿から勇気をもらえる。
“結果を出したいなら、悩んでいる暇なんかない”
“悩んでいる暇があるなら手を動かせ”
“自分を救う方法はそれしかない”
そんな生々しく痛々しい激励の叫びが、この作品から伝わってくる。
「好きなことをやるって、いつも楽しいって意味じゃない」
何かに挑戦した経験がある人であれば、良い意味でも悪い意味でも、この作品から心に刺さる言葉が見つかるはず。挑戦することに迷っている人であれば、きっとこの作品が背中を押してくれるはず。
今もどこかで自分の「好き」と闘い続けている人たちに、エールを。