レビュー・レコメンド

建築『宮城スタジアム』

――あいまいさがもたらすもの

齋藤 和哉(建築家)

 「あそこのコーンを動かしてきて」。
 カメラマンから指示を受けた私は、通路を走り、階段を駆け下り、再び走って陸上トラックの片隅に置いてあった三角コーンにようやくたどり着いた。遠くにいるカメラマンに携帯電話でコーンが見切れていないかを確認したのち、同じ道のりをまた5分かけて走って戻る。建築のスケールというものを初めて体験した瞬間である。

 東北工業大学で建築を学んでいた私は、宮城スタジアムが完成した2000年に学部4年生となり、それを設計した建築家・阿部仁史さんの研究室に入った。そこで最初に行った研究活動が前述の竣工写真補助である。

 「2002FIFAワールドカップ(日韓W杯)」のために日本各地に建てられた約5万人収容のスタジアムはその規模の大きさから、人のための建築というより、橋などの土木構築物に近い建ち方にならざるを得ない。しかし宮城スタジアムは丘の中にすっぽりと収まるようにデザインされていて、遠くから見ると風景に違和感なく溶け込んでいる。しかもその丘の上は遊歩道になっていて、日常的に歩くことができる、全国的にもかなりめずらしいスタジアムである。

 中に入ると巨大なコンクリートの構造体が整然と並び、まるで昔からそこにあった遺構のように感じる。一方、大規模なイベントによって人で満たされると、その構造体を手がかりにたちまち活気あふれる、町のようなヒューマンスケールの場へ様変わりするのである。

 この建築では、開と閉、集と散、人工と自然、ハレとケといった、本来相反する事柄を許容する、あいまいな場が生み出されている。そのあいまいさによってこそ、建築は人や環境とつながっていくものだと私も考えており、自分が設計するプロジェクトでもそれをどうやって実現すべきか、日々追求している。

 サッカーが好きな人にとっては日韓 W杯ラウンド16でトルコに敗れ苦い思いをした場所であり、イベントや試合以外では近づけないと思っている人も多いはず。ふらりと散策をしに足を運んでみることをオススメするが、とても広くめちゃくちゃ歩くのでスニーカーはマストである。

キューアンドエースタジアムみやぎ(宮城スタジアム)

掲載:2023年10月6日

【レビュー・レコメンドとは】
仙台に暮らし、活動するさまざまな方に、「人生の一番/最近の一番」を教えていただく企画です。

齋藤 和哉 さいとう・かずや
1979年仙台生まれ。東北工業大学大学院修了後、設計事務所勤務を経て、2010年齋藤和哉建築設計事務所を仙台で設立。主な作品は、金蛇水神社外苑SandoTerraceなど。主な受賞は、2021年度グッドデザイン賞など。