まちを語る

その27 木村 浩二(仙台段差崖会・元仙台市文化財課職員)

その27 木村 浩二(仙台段差崖会・元仙台市文化財課職員)

大崎八幡宮~八幡町~へくり沢~土橋通~支倉町 ―(仙台市青葉区)
仙台ゆかりの文化人が、街を歩きながらその地にまつわるエピソードを紹介する「まちを語る」シリーズ。今回は、「まち歩き」の達人で、NHK「ブラタモリ」仙台編にも出演した木村浩二(きむらこうじ)さん。「るーぷる仙台」に乗って「ブラキムラ」と行く、贅沢な「まち歩き」です。
『季刊 まちりょく』vol.27掲載記事(2017年6月15日発行)※掲載情報は発行当時のものです。
 朝9:30。仙台駅のバスプールにサングラス&紺のスプリングコートでさっそうと現れた木村さん。今春38年間務めた仙台市教育委員会を退職されたばかりですが、「ブラタモリ」の出演を機に地図を片手に街をめぐる「まち歩き」の達人として、在職中よりも多忙な日々を過ごされています。
 地元の人は乗る機会の少ない「るーぷる仙台」に乗り込み、大崎八幡宮を目指して出発。バスの中では解説は控えると言っていた木村さんでしたが、行く先々で、「米ヶ袋は江戸時代の町割がそのまま残っているんだよね」。「ここが片倉小十郎の屋敷跡」。「大橋の川底には江戸時代の橋脚を建てた柱穴があって、当時の木材が残っているんだよ」と、話が尽きません。
 そうこうする間に、目的地の大崎八幡宮に到着。「ブラタモリ」でも紹介された、伊達政宗ゆかりの「四ツ谷用水」の重要ポイントです。「ここは私が大好きな段丘の崖でね」と嬉しそう。風が強い中、木村さんがこれまで調査してきたポイントが落とし込まれた地図を握りしめ「四ツ谷用水」の痕跡を探して行きつ戻りつ。素人目には、ただの狭い道にしか見えないのですが、木村さんの解説を聞くと、たちまち江戸時代の町並みが立ちあがってくるから不思議です。
 「自然の沢(へくり沢)と人工の用水(四ツ谷用水)がここでクロスします。暗渠(あんきょ)* の立体交差。こんなところ他にないですよ」。木村さんのことばの端々には、伊達政宗はじめ、当時の工人達への尊敬の念が感じられるのでした。
*暗渠 地下に埋設したり、ふたをかけたりした水路。
「四ツ谷用水」の痕跡をたどる「まち歩き」は大崎八幡宮がスタート地点。その時の参加者の顔ぶれや、時間によって、終点はまちまちに。
▲「四ツ谷用水」の痕跡をたどる「まち歩き」は大崎八幡宮がスタート地点。その時の参加者の顔ぶれや、時間によって、終点はまちまちに。
 塩竈に育った木村さんは、当時から地図が好きな少年だったそうです。長じて仙台市教育委員会文化財課に勤めることになり、その頃登録されていた市内の遺跡428か所を、市民の方からの質問に備え、休日返上で地図を片手に全現場を回った経歴の持ち主。「ブラキムラ」の原点はここにありました。
 郡山遺跡の発掘や、富沢遺跡保存館(地底の森ミュージアム)の建設など、様々な仕事をされてきた木村さんですが、「一番好きなのは古代遺跡の発掘かなぁ」。手がかりを一つ、二つ見つけ、それを復元していく過程がとても楽しかったとのこと。発掘で見つけた土器は、昔の人が食事に使っていたもの・・・その臨場感を市民の皆さんに伝える楽しさに目覚めたのだそう。しかし、現地説明会は年に数回しか開くことができず「消化不良」気味だったと言います。15年前から始め、今も続く「まち歩き」は、「城下町という遺跡の現地説明会」とのおことばに思わず納得。今も江戸時代の町並みの痕跡を探し続けています。
気になる地形を見つけると、そこから動けなくなるという木村さん。ふと夜中に目が覚め、地図を取り出し、あれこれ妄想をめぐらせ、朝早くに現地かけつけることも。
▲気になる地形を見つけると、そこから動けなくなるという木村さん。ふと夜中に目が覚め、地図を取り出し、あれこれ妄想をめぐらせ、朝早くに現地かけつけることも。
タモリさんと初対面で話をした時、「ああこの人も同じ種類の人間だ」と直感。
▲タモリさんと初対面で話をした時、「ああこの人も同じ種類の人間だ」と直感。
 「仙台は隠れた魅力満載の町なのに、誰も気が付かないで暮らしている」と残念そうに語る木村さん。その魅力を、全国の方にも、そして地元の方にも知ってもらいたいとの思いが、「ブラタモリ」出演につながったと言います。
 他に歩いてみたい町はありますか?との質問に、「よその城下町も歩きますけれど、仙台の町はまだまだ探しきれてないところがたくさんあるから」とニッコリ。
 木村さんが掘り起こす、「仙台城下の痕跡」が、これからもどんどん地図上に増えていくことでしょう。
今回歩いたところ
▲今回歩いたところ

まち歩きの参加者に配られる地図。何気なく見えますが、木村さんの長年の蓄積がぎっしり詰まっていて、過去と現在をつなぐ、実はすごい地図。
▲まち歩きの参加者に配られる地図。何気なく見えますが、木村さんの長年の蓄積がぎっしり詰まっていて、過去と現在をつなぐ、実はすごい地図。

掲載:2017年6月15日

写真/佐々⽊隆⼆

木村 浩二 きむら・こうじ
1952年、宮城県塩竈市生まれ。東北学院大学文学部史学科(考古学専攻)卒業。専門は東北古代史。著書に『江戸時代の仙台を歩く―仙台地図さんぽ』、『宮城「地理・地名・地図」の謎』(監修)など。福島県教育委員会文化課、仙台市教育委員会社会教育課を経て、仙台市文化財課に勤務。仙台の郡山遺跡の発掘調査、富沢遺跡保存館(地底の森ミュージアム)建設に従事。地底の森ミュージアム学芸室長を務めた後、2017年3月まで仙台市教育委員会文化財課専門員。現在は宮城学院女子大学非常勤講師。