その21 佐藤ジュンコ(イラストレーター)

その21 佐藤ジュンコ(イラストレーター)

〜錦町界隈 (仙台市青葉区)
仙台ゆかりの文化人が、街を歩きながらその場所にまつわるさまざまなエピソードを紹介する「まちを語る」シリーズ。今回は、仙台駅前にあった書店のスタッフを2014年に“卒業”し、現在イラストレーターとして活躍する佐藤ジュンコさんがゲストです。あたたかな秋の日の午後、なじみの界隈でジュンコさんの日常をおすそわけいただきました。
『季刊まちりょく』vol.21掲載記事(2015年12月15日発行)※掲載情報は発行当時のものです。
写真/佐々⽊隆⼆
錦町公園のヒマラヤ杉。木にはたくさんのまつぼっくりが。「勝手な妄想なんですけど、あれがタマゴで、孵化すると杉の木が生えるっていう物語を自分で作っていて。ああ今年もたくさんタマゴを産んだな~、なんて眺めるのが好きです」
▲錦町公園のヒマラヤ杉。木にはたくさんのまつぼっくりが。「勝手な妄想なんですけど、あれがタマゴで、孵化すると杉の木が生えるっていう物語を自分で作っていて。ああ今年もたくさんタマゴを産んだな~、なんて眺めるのが好きです」
 書店勤務時代には伊坂幸太郎さんなど仙台在住の作家の本を集めたコーナーを作ったり、日々のつれづれをイラストと文章で綴ったフリーペーパー「月刊佐藤純子」をお客さんに配るなどして、看板店員として知られていた佐藤ジュンコさん。2015年の春からはフリーのイラストレーターとなってさまざまな媒体で活躍している。
 10月半ばの午後。待ち合わせは、イチョウの葉が色づきはじめた錦町の愛宕上杉通。NHK仙台放送局の向かいにある食堂「藤や」がお気に入りというジュンコさん、今回の取材もぜひ「藤や」さんで!と話が決まった。お店をのぞくとまだお昼どきムードだったので、落ち着くまでしばし錦町公園を散歩することに。
手にしているのが自身の日頃の食や仙台の名物を題材にしたコミックエッセイ『佐藤ジュンコのひとり飯な日々』。「地元の人が読んで『うんうん』って言ってくれるのもいいし、遠くの人がこれを見て『仙台に行ってみたい!』と思ってくれるのもいいですね」
▲手にしているのが自身の日頃の食や仙台の名物を題材にしたコミックエッセイ『佐藤ジュンコのひとり飯な日々』。「地元の人が読んで『うんうん』って言ってくれるのもいいし、遠くの人がこれを見て『仙台に行ってみたい!』と思ってくれるのもいいですね」
 「いいお天気で良かったー!空がぱきっと青い~」とジュンコさん。福島県の霊山(りょうぜん)に生まれ育ち、大学進学と同時に仙台に来て、八木山、宮町、錦町、上杉と移り住み、その後再び錦町に戻ってきたというから、この界隈はなじみのご近所。
錦町公園でギターの演奏をしている男性を発見したジュンコさん。近づいて話を聞くと、若林区から毎日、天気が悪くない限り自転車で40分かけて通ってきているという。
▲錦町公園でギターの演奏をしている男性を発見したジュンコさん。近づいて話を聞くと、若林区から毎日、天気が悪くない限り自転車で40分かけて通ってきているという。
 ふだんもよく散歩をするという錦町公園では、草に覆われたこんもりした部分を指さし、「あそこにシートを敷いて、寝転がって仕事をしたこともありました」。そのときジュンコさんはある発見をしたそうだ。「私、地平線って見たことがなかったんですけど、寝転がって眺めてみると、あのちょっとだけ丘になっている端のところが地平線のように見えたんです。あ、地平線だ、仙台に地平線があった!って」。いろんな木や葉っぱや木の実、虫の声、鳥の声。休日にはイベントで活気があふれ、平日は人々が思い思いに時間を過ごす。ジュンコさんはそんな公園のたたずまいが好きだ、と言う。
 公園を一周するといい頃合いになり、「藤や」へ向かう。「藤や」は創業100年を超える老舗だが、ラーメンやカレー、お団子といったメニューで多くの人に親しまれている。
「藤や」の前で。「藤や」の冷し中華(一年中メニューにある!)には麺を増量できる「増し」システムがあり、200円増しともなると鉢のような大きな器で登場する。
▲「藤や」の前で。「藤や」の冷し中華(一年中メニューにある!)には麺を増量できる「増し」システムがあり、200円増しともなると鉢のような大きな器で登場する。
 ジュンコさんは以前から気になりながらも、歴史を感じさせる外観に臆してなかなか入れずにいたが、ある夜、おばあちゃんが厨房で一生懸命洗い物をしている姿に惹きつけられ、その何日か後に初めて訪れる。それをきっかけに通いはじめ、ウェブ上での連載「女のひとり飯」にも「藤や」を登場させた。
「藤や」の皆さんが仕事の手を休めて集まってくれた。家族写真のような、ほほえましい1枚。
▲「藤や」の皆さんが仕事の手を休めて集まってくれた。家族写真のような、ほほえましい1枚。
 連載が本となり、新聞に作者の写真とともに取り上げられた際、数日後に「藤や」を訪ねると、店の皆さんがにこにこして「ジュンコちゃん、いらっしゃい!新聞見たよ!」と迎えてくれた。それまでは「常連客のひとり」だったのが、以来、お店に行けば「ジュンコちゃん」と呼ばれ、店の人たちとすっかり仲良しに。仙台に来てから近所の人と親しくすることはなかったが、「『藤や』さんに行けば『ジュンコちゃん』って呼んでもらえる。そんなふうに人との距離が近くなって、イラストレーターをやっていて良かったと思いました。本が売れたとか評価を受けたというのとはまた違う嬉しいことです」と笑う。
 宮城の名所を紹介する「マッチ箱マガジン」やこけしのデザインを手がける一方、中央の雑誌や九州の新聞など遠方の仕事も増えてきた。「地方に目を向けようという時代の流れもあるかもしれないけど、東京の有名なイラストレーターではなく、仙台におもしろそうな人がいるから仕事を頼んでみようと言ってくれる方もいます」。それを「偶然の幸福」と語るジュンコさんだが、「ジュンコちゃん!」と呼びかけてくれる人々がいて、その人たちと関わりあう日常からも佐藤ジュンコならではの作品が生まれているのだろう。
 この日、ジュンコさんは「藤や」2階のお座敷で冷し中華を食べた。「お腹いっぱい、胸もいっぱい~」と、いい表情でイチョウ並木を戻って行った。
佐藤ジュンコ さとうじゅんこ
1978年福島県霊山町(現・伊達市)生まれ。大学進学と同時に仙台市へ。卒業後、市内の書店に勤務する傍ら、イラストと文章を組み合わせた自作のフリーペーパー「月刊佐藤純子」を発行。2012年、『仙台文庫別冊 月刊佐藤純子』(メディアデザイン)を出版(品切れ)。2014年4月に書店員を卒業し、専業のイラストレーターに。2015年5月、「コーヒーと一冊」シリーズ『佐藤ジュンコのひとり飯な日々』(ミシマ社)刊行。現在、ミシマ社のウェブ雑誌「みんなのミシマガジン」にて「女のひとり飯」、月刊誌『PHPスペシャル』にて「つれづれMy Favorite Things」、『サンデー毎日』で書評を連載するほか、新聞・雑誌の挿絵などを担当。県内の名所を紹介した「マッチ箱マガジン」、伝統系創作こけし「こよみこけしシリーズ(花こよみ)」(それぞれグッドデザイン賞を受賞)のデザインも手がけ、宮城の新しいおみやげとして注目されている。