桜がようやく咲き始めた4月中旬の仙台市青葉区片平界隈。
小池さんは小学校6年の2学期から仙台市立片平丁小学校に通った。五橋中学・仙台一高在学中は米ヶ袋の伯母さんの家に下宿していた時期があり、大学時代も片平で多くの時間を過ごしたというから、この辺りは10代20代の頃の思い出が詰まった地と言ってもいいだろう。
東北大学片平キャンパスを歩く。現在では学部の機能は川内や青葉山に移り、片平は本部や研究所の拠点となっているが、小池さんがここで理学部の学生生活を送った当時はちょうど学生運動が華やかなりし頃。真っ先に思い出すのもその光景だという。
小池さんは小学校6年の2学期から仙台市立片平丁小学校に通った。五橋中学・仙台一高在学中は米ヶ袋の伯母さんの家に下宿していた時期があり、大学時代も片平で多くの時間を過ごしたというから、この辺りは10代20代の頃の思い出が詰まった地と言ってもいいだろう。
東北大学片平キャンパスを歩く。現在では学部の機能は川内や青葉山に移り、片平は本部や研究所の拠点となっているが、小池さんがここで理学部の学生生活を送った当時はちょうど学生運動が華やかなりし頃。真っ先に思い出すのもその光景だという。
「広場に学生たちがいつも集まっていて、だれかが必ずアジテーションをやっていた。立て看がずらっと並んでいてね。集会した後はデモ隊が一番町に出ていくわけ。お神輿(みこし)をかついで町に繰り出すような感じで、毎日がお祭りみたいだったね」
そのほか、学生食堂で23円の中華そばや56円のカレーライスを食べたこと。朝から夜中まで実験をして過ごし、ときに機械を壊してしまって教授に怒られたこと。学生課からの斡旋で、作並温泉で泊まり込みのアルバイトをしたこと・・・・・・。キャンパスを歩きながら当時のエピソードがつぎつぎに繰り出される。
そのほか、学生食堂で23円の中華そばや56円のカレーライスを食べたこと。朝から夜中まで実験をして過ごし、ときに機械を壊してしまって教授に怒られたこと。学生課からの斡旋で、作並温泉で泊まり込みのアルバイトをしたこと・・・・・・。キャンパスを歩きながら当時のエピソードがつぎつぎに繰り出される。
小池さんが短歌に出会ったのも、この片平で過ごした学生時代だ。
当時は周りにそんな趣向の人間は皆無だったし、短歌を作っているなどと言おうものなら「古臭い」と馬鹿にされるような風潮だった。だから、「だれにも言わなかった。ひそやかな行いだったね」。ひそやかに作りはじめた短歌が、そのうちに実験や研究よりもおもしろくなっていったのだという。
小池さんは大学院を終えたのち埼玉県内で教職に就く。31年にわたって高校で物理を教えながら歌人として第一線で活躍し、数々の賞を受けてきた。2007年からは高校の先輩でもある作家、故・井上ひさし氏の後を継ぎ、仙台文学館の館長を務めている。その文学館で開講している短歌講座は通算40回を超えた。
当時は周りにそんな趣向の人間は皆無だったし、短歌を作っているなどと言おうものなら「古臭い」と馬鹿にされるような風潮だった。だから、「だれにも言わなかった。ひそやかな行いだったね」。ひそやかに作りはじめた短歌が、そのうちに実験や研究よりもおもしろくなっていったのだという。
小池さんは大学院を終えたのち埼玉県内で教職に就く。31年にわたって高校で物理を教えながら歌人として第一線で活躍し、数々の賞を受けてきた。2007年からは高校の先輩でもある作家、故・井上ひさし氏の後を継ぎ、仙台文学館の館長を務めている。その文学館で開講している短歌講座は通算40回を超えた。
小池さんが既存の物事の形を壊す学生運動のなかに身を置きながら、短歌という定型の世界に深く入り込んでいったことには、人が何かに出会うことの不思議を感じずにはいられない。その出会いがあって、わたしたちは今、小池さんの作品や講座などを通じて日本語の妙に感じ入ることができる。それはここ片平からはじまっているのだ。
キャンパスの背後に真新しい高層ビルがそびえる風景をながめながら、そんないろいろな不思議を思った。
キャンパスの背後に真新しい高層ビルがそびえる風景をながめながら、そんないろいろな不思議を思った。
掲載:2012年6月15日
- 小池 光 こいけ・ひかる
- 1947年、宮城県柴田町生まれ。父は東北初の直木賞作家・大池唯雄。東北大学理学部・同大学院理学研究科修了。埼玉県内の高校で教鞭をとりながら歌人として活躍。歌集に『バルサの翼』(現代歌人協会賞)、『草の庭』(寺山修司短歌賞)、『静物』(芸術選奨・文部科学大臣新人賞)、『滴滴集』(斎藤茂吉短歌文学賞)、『時のめぐりに』(迢空賞)、『山鳩集』(小野市詩歌文学賞)など。その他エッセイ、歌論など著作多数。2007年から「読売歌壇」の選者を務める。同年、故・井上ひさしの後を受けて仙台文学館の館長に就任。「仙台文学館ニュース」紙上で「小池光の気になる日本語」を連載するほか、月に1回短歌講座を開講し多くの受講生を集めている。