“演劇”を通して自分にできること
仙台・宮城から新たな舞台へ
役者・菊池 佳南

撮影:愛宕橋(仙台市)

「演劇は自分らしくいられる方法で、コミュニケーションツール」と話すのは、仙台を拠点に活躍する役者・菊池佳南さん。岩沼市出身の菊池さんは舞台俳優として東京でキャリアを積み、2019年に帰郷した。NHKの連続テレビ小説『おかえりモネ』や同東北発地域ドラマ『ペペロンチーノ』、映画『ラストレター』に出演するなど、活動の幅をさらに広げている。演劇との出会いやこれまでの活動、宮城から軽やかに挑戦を続けるその原動力について、話を聞いた。

《枠にはまらない役者》

菊池さんが演劇を始めたのはいつですか。

 宮城二女高(現在の宮城県仙台二華高校)で演劇部に入ってからです。幼い頃から児童合唱団でオペレッタに出演したり、中学の文化祭で劇を発表したりと何度か舞台に立つ機会があったんですが、恥ずかしさもあったけどとても楽しくて、演劇に興味を持ちました。高校のときはほぼ部室で過ごしていましたね。

役者になりたいと思ったのは。

 もともと役者を目指していたわけではないんです。「舞台に関わる仕事っていいな」くらいの気持ちで桜美林大学総合文化学群演劇専修(当時)に進学し、舞台芸術とアートマネジメントの基礎を学びました。大学でまじめな作品に取り組む一方で、学外では、人気の学生劇団に客演して、シュールなギャグを連発するような作品にも出ていました。オタ芸とアイドルソングで暴れて騒ぐっていうグループにも所属して、先生たちからは「お前は何がしたいんだ」と心配されました(笑)。
 そうして大学内外で舞台経験を重ね、いろんな演出家の指導を受けるうちに本格的に役者の仕事をしたいと思うようになりました。このときに得た「演劇のかたちはひとつじゃない。いろいろな楽しみ方があっていいんだ」という気づきは、のちの大きな指針になったように思います。大学卒業後、2010年にオーディションを受けて「青年団」に入団しました。

「青年団」とはどんな劇団なのでしょうか。

 青年団は劇作家で演出家の平田オリザさんが主宰する劇団です。端的に言うと、芝居がかったセリフではなく、自然な会話のやりとりを大事にした作品が特徴です。団員は200人ほど。国内外で活動しています。

どうして青年団に。

 大学のプログラムで初めてオリザさんの演出を受けて、「オリザさんの作品は自然な自分のままで演じることができる」と感じたからです。高校時代『演技と演出』(平田オリザ著/講談社現代新書)を読んで影響を受けていたのも大きいですね。口にしたときになじむ言葉の選び方や、セリフの“間”や身体の使い方ひとつで人間の見え方がどう変わるかなど、理論的なアプローチで舞台を作っていく手法にも惹きつけられました。青年団は基本的に、客演もできるし、他の劇団とかけもちして所属している人もいます。その動きやすさも入団の決め手のひとつでした。私は劇作家で演出家の大池容子さんが主宰する「うさぎストライプ」にも籍を置き、好き勝手やらせてもらっています(笑)。

《仙台に居るからこそできる役がある》

2019年に活動拠点を仙台に移されましたが、何かきっかけがあったのでしょうか。

 大きな転機はやはり、東日本大震災です。あの日以降、東京にいながらもいつか宮城で何かをしたい気持ちがありました。そんなときに出会ったのが、石巻市出身の俳優・芝原弘(しばはら・ひろし)さん。彼の“地元宮城に芝居を届けたい”という思いに賛同し、東京や宮城で東北にまつわる物語の朗読などをはじめました。特に反響が大きかったのは、『よみ芝居「あの日からのみちのく怪談」』。被災地の不思議な話を集めた『渚にて あの日からの〈みちのく怪談〉』(東北怪談同盟編/荒蝦夷)を原作とする朗読劇です。この慰霊と鎮魂の物語は、仙台、石巻、女川、それに東京、長野と各地で上演し、いずれも好意的に受け入れてもらいました。
 その間も青年団の公演のため韓国やフランスに滞在したり、うさぎストライプの『ゴールデンバット』や個人プロデュース作品『ずんだクエスト』という一人芝居をひっさげて全国を転々としたり、一ヵ所にとどまっていなかったんです。さらに青年団が兵庫県豊岡市に拠点を移すことになって、いよいよ東京にこだわる理由がなくなった。「どこにいても演劇はやれる」と仙台への移住を決めました。自宅は仙台ですが、他県に長期滞在することも多いです。

宮城に帰ってきてからはどんな活動を?

 たくさんありますが、まずはドラマや映画への出演がぐんと増えました。『おかえりモネ』や『ペペロンチーノ』、それから岩井俊二監督の『ラストレター』にも出演しましたが、舞台が宮城であること自体に意味を持つ作品が多かった。地元の俳優として求められるのは、違和感のない方言やイントネーションでリアリティと深みを持たせることと、土地の空気を伝える役割を担うこと。仙台で暮らしていたからこそできた役だと思っています。
 印象的な出来事があって。『ペペロンチーノ』の楽屋で草彅剛さんと二人になった時間があったんです。そしたら、草彅さんがギターを取り出して、「♪菊池ちゃ~ん、菊池ちゃん」って、オリジナルソングを歌ってくれたんです。本当にすてきな人で、私がパーソナリティーを務めたNHK仙台放送局のNHKラジオ第1『ゴジだっちゃ!』に電話出演していただいた際も、その歌を披露しながら(笑)、東北、宮城に向けて温かいエールを送ってくださいました。
 “演劇ワークショップ”にも力を入れています。震災後から学校や福祉施設などで演劇の手法を用いたワークショップの活動を行っていますが、子どもたちの独特な視点に学ぶことも多いです。今後も続けていきたいですね。

宮城の役者として認識されることをどう思いますか。

 とてもうれしいです。やっぱり宮城は好きだし、仙台は特別な町。「宮城には菊池佳南がいる」と思ってもらえるようになりたいですね。東北弁も大きな武器になると感じています。
 最近は偶然か必然か、宮城ゆかりの人物や文学作品を演じる機会が多いです。2022年7月に上演した東北えびす主催『仙臺まちなかシアター2022』で私が朗読したのは、岡本かの子の『みちのく』。2022年9月の青年団公演『日本文学盛衰史』(原作:高橋源一郎)では、仙台藩士の娘にして新宿中村屋の創始者・相馬黒光を演じる予定です。
 他には、一人芝居や少人数での舞台を中心に、演劇と他ジャンルのコラボレーション企画に最近は積極的に取り組んでいます。少人数だと場所を問わずにできるので、他の土地でも上演しやすいんですよね。宮城で作った作品をたくさんの人に観てもらいたいという企みがあります。

演劇と他ジャンルのコラボレーションとは。

 たとえば、2022年7月には演劇とダンスを掛け合わせた『舞踏と朗読』に挑戦しました。石巻市指定文化財・旧観慶丸商店の交流スペースで、私が宮沢賢治の詩を朗読し、それに合わせてDragon Ashの元メンバーで舞踏家のATSUSHIさんがパフォーマンスをするという内容です。ダンスだけでなく、文学、美術、音楽など他ジャンルのアーティストと私自身の演劇の経験を重ね合わせると個性的な作品が生まれることが多くて、常に新しい発見があります。お互いの分野を尊重しながら、どうしたらよりよい作品が作れるか。それぞれ意見を出して擦り合わせていくので、その場で脚本や演出が見直されることもよくあります。雑談のなかで「こんな考えもあるのか」とハッとする瞬間も。いつも刺激を受けます。
 あとは、仙台市内の人気飲食店を会場にして、料理を食べながら朗読を楽しむ企画『仙臺まちなかシアター』にも参加しています。“演劇×文学×食”の組み合わせって、ときめきますよね(笑)。

《“人の役に立つ者”でありたい》

多方面から挑戦を続ける菊池さん、ひとりの役者として大切にしていることはありますか。

 「この役は絶対こうであるべきだ」という先入観を持たずに演じることを意識しています。実在・架空を問わず、役というのは他人。どんなに時間をかけても知りつくすことはできません。“役になりきる”のではなく、“役を預かる”つもりでいます。ひとりの人生や気持ちの一端を受け止めて、私の身体と声を使って、言葉や思いを届けたい。そしてそれを観て自分の思考を確認したり、整理したりする機会を持ってもらえたらうれしいです。
  “俳優”“女優”と肩書きはさまざまですが、個人的には“役者”が一番しっくりくるかもしれません。役者として、“人の役に立つ者”でありたい。特に震災以降、そんなことを考えています。

菊池さんの活躍に刺激を受ける若い世代も多いと思います。最後に、将来演劇の仕事をしたいと考えている人たちに向けてアドバイスをお願いします。

 偉そうなことは言えませんが、いろんなものを観て聴いて、特に興味があることには気軽に挑戦してみるといいと思います。どんな経験も、全部演劇に活かせるはず。新しくておもしろいものを一緒に作っていけたらうれしいです。

掲載日 2022年8月25日 取材月 2022年8月

菊池 佳南(きくち・かなみ)

1986年、岩沼市生まれ。劇団「青年団」「うさぎストライプ」所属。桜美林大学総合文化学群演劇専修卒業。文学座の坂口芳貞氏、高瀬久男氏らに師事。『ソウル市民1919』『アンドロイド演劇「さようなら」』など平田オリザ作品をはじめ国内外の舞台に多数出演。2016年に客演した作品『彼らの敵』(ミナモザ)は第23回読売演劇大賞作品を受賞。
豊岡演劇祭2022ディレクターズプログラム 青年団『日本文学盛衰史』に出演予定。
2022年9月17日(土)やぶ市民交流広場ホール
2022年9月24日(土)~9月25日(日)豊岡市民会館
2022年12月18日(日)盛岡劇場
詳細は演劇祭HPにて。

取材・原稿 荒蝦夷/写真 寺尾佳修