特集

暮らしに生きる仙台の箪笥

江戸末期から明治初期に誕生し、その後、輸出品へ、嫁入り道具へと変遷してきた箪笥があります。今も暮らしの中に生き続ける仙台の箪笥と、共に過ごす喜びを見つめます。

日常生活のために生まれた工芸品。なかでも「仙台箪笥(せんだいたんす)」は100年以上使い続けられることが少なくありません。その背景には、風土と歴史はもとより、長い使用に耐えるよう丈夫に作り続けてきた職人と、風合いの変化を楽しみながら使い続ける人たちの存在があります。そして、仙台にはもう一つ、あまり知られていない「政岡棚(まさおかだな)」という箪笥があります。「仙台の箪笥」を通して、作る人、使う人、支える人の生き方に目を向けます。

  • 先人たちから引き継ぐ木工・漆工・金工の三位一体の技『仙台箪笥』

    仙台箪笥は、平成27年(2015年)6月18日に経済産業大臣から「伝統的工芸品」の指定を受け、翌年4月25日に認定の日本遺産「政宗が育んだ“伊達”な文化」の中で、江戸時代の職人技を受け継いでいる伝統工芸と位置づけられています。 木工・漆工・金工それぞれの職人たちの創意工夫と連携で、江戸末期以来、今日まで地場の工芸品として連綿と続いてきました。仙台箪笥と暮らすことは、古いものであれ新しいものであれ、郷土の文化と共に暮らすことでもあります。ここでは仙台箪笥の歴史を振り返り、その魅力を再確認したいと思います。
  • 直して使い続ける仙台箪笥 そこから見えてくるもの—塗師・有限会社長谷部漆工 代表取締役・長谷部嘉勝

    新たな家具を買い求める人がいる一方、明治期や大正期の仙台箪笥(せんだいたんす)を直して使い続ける人がいる。江戸末期に創業した長谷部漆工の12代目となる塗師(ぬし)長谷部嘉勝さんの下には、代々が手がけてきた箪笥の直しも持ち込まれることがあるという。明治、大正、昭和、平成、令和へと時代を超えてきた箪笥からは、持ち主の歴史や技法の変遷も知ることができる。仙台箪笥を使い続ける喜びは、どのようなところにあるのだろう。作る、直す工房から、その背景をうかがった。
  • 日々ともにある実用と装飾の仙台箪笥—荻原醸造・荻原 勝

    暮らしの道具として使われている仙台箪笥(たんす)を見る機会は、あまりない。しかも、押し入れに据え付けられた仕込み箪笥となると、なおのこと。どうすれば愛用されている箪笥と出合うことができるのか。人から人へ、手がかりを頼りにお願いし、仕込み箪笥を使っているお宅に伺うことができた。訪ねたのは、鹽竈(しおがま)神社の門前町にある味噌醤油醸造元である荻原勝さんのお宅。当日は、室内意匠と生活道具の歴史がご専門で、仙台箪笥にも詳しい東北工業大学名誉教授の庄子晃子先生にご同行いただいた。箪笥を前に語り合うと、そこには何代にもわたる家族の歴史の思い出が……。箪笥を通して、家族の幸せを願う思いまでうかがい知る貴重な機会に恵まれた。 (監修:大谷美紀)
  • 仙台箪笥の金具職人とともに歩む 家族のまなざし

    職人の傍らには、たいてい表立つことなく寄り添い、ともに歩んできた人の存在がある。仙台箪笥(たんす)の金具職人、八重樫榮吉さんが仕事に専念できるよう、日常のことから訪問客のもてなしまで心配りしてきたのが妻の仁子(としこ)さん。会社勤めの家庭に育ち、結婚後は家事と子育て、時に榮吉さんの仕事の補助も行ってきた。金具職人とともに過ごしてきたお話しを伺いたいという依頼に「当たり前のことをしてきただけ」と、困惑しつつ引き受けてくださった。仁子さんの歯切れのよい語り口と折々に見える毅然とした姿勢からは、榮吉さんの仕事への信頼と、互いに補い合いつつ裏方に徹してきた矜持(きょうじ)のようなものも伝わってくる。金具職人と60年近い日々を紡いできた家族の思いとは――。