| 事業名:ことばを超えてつながる、こども演劇プロジェクト 団体名:KOMOBASE sendai 活動期間:2025年7月1日から2026年3月15日まで 参考URL:https://ssbj.jp/support/grant/report/14804/ |
KOMOBASE sendaiは2022年にオープンした舞台芸術に特化した施設であり、スタジオやストレージなど舞台芸術の創作に適した環境を有している。本事業「ことばを超えてつながる、こども演劇プロジェクト」は、KOMOBASE sendaiの環境を活かしつつ、地域の文化体験のすそ野を広げ地元との連携を強めていくことを目的に、こどもに向けたアウトリーチ作品かつ言語を問わずに楽しめる“ノンバーバル”な演劇の創作を行う企画であり、2025度地域助成の「B. 文化芸術と社会の連携推進事業」スタートアップ枠に採択された。
本事業の試演会が2月6日、仙台市若林区の保育園「カール卸町ナーサリー」2階にあるホールで行われた。普段は保育園の催しに使用される広めの会場で、奥側には小さいステージが常設されているが、本公演ではステージ手前もアクティングエリアとなっていた。ホールの中央にはシート敷きの観劇エリアが用意され、「カール英会話こども園」に通う3歳から5歳のこどもたち40人ほどが、先生たちと一緒に作品を鑑賞した。

上演されたのは『カッカとシーの大冒険!〜キラキラな宝物〜』という作品で、タイトルにある「カッカ」と「シー」というキャラクターが宝物の地図をもとに冒険の旅に出かける物語であった。道中にはとげとげの山やドロドロの沼、そこに潜んでいるモンスターたちなど、行く手を妨げる様々な仕掛けがあり、2人がそれを乗り越えていく様子が演じられる。舞台下手側には楽器を演奏するためのスペースがあり、俳優が太鼓や鍵盤ハーモニカなどで生演奏を行った。
カッカとシー、モンスターたちなどの登場人物はみな、やわらかな蛍光色の布やふんわりとした素材でできた衣装をまとい、造形もかわいらしい。モンスターが襲いかかる「怖い」場面でも、大きい声や激しい身振りなどで観客を怯えさせることはなく、全編通してゆったりとした動き、おだやかな色や雰囲気、やさしげなキャラクター像など「こどもに向けた冒険物語」という範囲で作品全体がデザインされていた。

ノンバーバル作品ということで、主役の2人は最小限の言葉のみで話す。45分の上演の中で「カッカ」「シー」「おはよう」「ごはん」程度しか発しなかったが、2人の冒険はこどもたちにも十分に伝わり、多くのこどもが最後まで楽しんで観ていたように感じた。また、登場人物はアクティングエリアを動き回り、時折こどもたちが触ることのできる近さにもやってくる。大人が見ていても驚くような展開もあり、こどもたちは興奮して「ははは!変なの!」と反応し、モンスターに「うわあ、きたない~」と声を上げ、カッカのいびきに大笑いし、客席にやってきたキャラクターに声を掛けたり触ったりして楽しんでいた。今回の試演会では冒険の前半までが演じられ、眠くなった2人がその場でぐーぐーと寝てしまう場面で終わったのだが、こどもたちは2人を起こしてはならぬと拍手をぐっと我慢し、上演が終わってもコソコソ話を続けていた。園長先生から「大きなあいさつで2人を起こしましょう」という声かけがあり、こどもたちの大きなあいさつの後に、会場がとても賑やかになったことが印象的だった。
秋以降に本作の創作が始まり、稽古回数も十分に取れなかったとのことだが、限られた創作期間の中でも質の高い試演を実施できており、今後の活動に期待がもてる。また作品そのものの創作だけでなく、アウトリーチプログラムとしての運用方法も検討されており、暗転の出来ない空間で地明かりのみで昼や夜を表す演出、軽自動車で持ち運びが可能な規模の道具・舞台セットなどの工夫は、プログラムを継続して発展させ、様々な場所で公演を行っていく意思も感じた。

本プログラムの更なる発展に向けては、事前に受け入れ先(鑑賞するこどもではなく大人側)の理解を深め、鑑賞者にとってよりよい環境を作るために「事前説明や相談方法」を確立していくことも大切だと感じた。試演会を見ていて改めて気が付いたが、こどもたちだけでなく先生にとっても「演劇」は普段見慣れない、あまり縁のない体験であり、どう接していいか分からない部分があるように見受けられた。会場への入場時、こどもだけでなく先生側にも緊張があり、「触っちゃダメ」「じっとしていて」「静かに」という声掛けが頻繁になされ、こどもたちの表情や体がこわばっていく様に見えた。上演を通して徐々に緊張がほどけていき、舞台と観客席が緩やかな雰囲気になっていったが、事前にこの「緊張」が取り除かれることが、理想的な体験につながるのではないだろうか。「触れてもいいし、だらだらとしていてもいい、笑っても叫んでもオッケー」というような緩やかな上演空間、そういった場を実現するための事前の「相談」がよりスムーズになれば、本プログラムはこどもにとっても大人にとっても豊かな体験となるのではないかと思う。さらに、本作がこのような体験をできる公演であることが周知されていくことで、様々な観客に向けた上演の場を増やすことにもつながっていくのでは、とも感じた。
(公財)仙台市市民文化事業団 総務課 岩村空太郎

