| 事業名:社会実装へ向けて:福祉領域用のインク開発/Foraging “SENDAI” Colors:仙台の“色”を探す/持続可能な顔料とメディウムの開発 団体名:YUIKOUBOU 活動期間:2025年6月21日から2026年3月15日まで |
石と血
アメリカとイスラエルによるイランへの軍事攻撃に対する報復措置として封鎖となったホルムズ海峡。世界の原油や液化天然ガスのおよそ20~30%がゆきかう「エネルギーの生命線」ホルムズ海峡はいまや世界に開いたひときわ巨大な傷口の様相を呈している。傷の裂け目から流れ出るおびただしい血の赤、赤、赤。何が何でもこの血を止めたい。いえるタイミングで差しはさんでおくことにしよう。戦争反対!さあ、ご一緒に。 !!!戦争反対!!! 血気盛んな大統領が一国第一主義を振りかざすかの国、アメリカ合衆国は実は世界一の産油国でもある。まさか自国だけは無事とでも思っているのだろうか。石油の販売価格が国際市場とリンクしたものである以上、相互に影響をもたらさないはずがない。いわんや周辺国にPrrrr… Prrrr!!!!! 電話だ。よく仕事をご一緒させてもらっている設営業者さんからである。次の会場造作の一部として壁を塗りなおすことを相談していたから、その見積のことだろう…はい、いつもお世話になってます!なんでしょう…「奥脇くん、超絶悲報。言いにくいんだけど問屋さんから連絡があってさ。いま石油の調達が大変でしょう。ペンキとか塗料とかさ、石油が原材料になってる製品は軒並み値上がり。多分4割くらい上がると思っておいてもらえれば」…戦争反対!戦争反対!!戦争反対!!!(涙)

石油製品は資本主義社会にとっての生命線である。プラスチック容器、ナイロン糸、アクリル系塗料に含まれる樹脂や有機溶剤。私たちの物心両面におけるニーズを満たし、生活の隅々までゆきわたるそれらは、資本主義社会を下支えする構造
そのものである。好むと好まざるとを得ず、いまや石油製品のない毎日を想像することなどできない。なんだかイライラしてきた。しかしである。ホルムズ海峡という傷口は、現状からのある種の回復の径―これからの社会が築くべき技術との関係を想像するための基点とみなし得るのではないだろうか。石油製品≒資本主義に満ち満ちた世界に開いた亀裂のなかから、いうなれば「ポスト資本主義社会の想像力」(斎藤幸平、2020)が、技術をともないながら現れなおしてきている…という感があるのがYUIKOUBOUによる「採集した植物や食材を素材に工芸的な技術を応用し、顔料とメディウム(溶剤)の開発研究、工業印刷機への実装」に向けた取り組みである。「極論だが細かく細かく、すりつぶすことができればどんなものでも顔料になり得る」と説く吉田勝信(採集者・デザイナー・プリンター/吉勝制作所)が代表となって展開する、この微細に「粒」だった取り組みにおいては、石油製品でもってこの世界のありようを全「面」的に規定しようとするマスな資本主義構造の内部に取りつき浸食し、食い破るかのごとく力がある。少なくとも筆者はそう見ている。

仙台市市民文化事業団による「文化芸術を地域に生かす創造支援事業」としては2年目、前身の「持続可能な未来に向けた文化芸術の環境形成助成事業」から数えれば5年目となるYUIKOUBOUの今年度の主な活動内容は「社会実装へ向けて:福祉領域用のインク開発/Foraging ”SENDAI” Colors(仙台の“色”を探す)/持続可能な顔料とメディウムの開発」(以下「FC仙台」と表記)という。大江擁(デザイナー/TEXTOILE)が主導する、仙台市にある障がい者福祉施設・多夢多夢舎のアーティストらによる多賀城市立図書館でのワークショップの準備~開催の過程に合流したFC仙台は、吉田により顔料制作の手法があらかじめ多夢多夢舎に共有されることからはじまる。次いで多夢多夢舎による別ワークショップで用いられた米袋を焼いて得た炭をはじめとする、身近な採集材料をもとに色がつくられ、つくられた色は吉田の監修を経て図書館でのワークショップに使用されたという。吉田自身がハブになり、インクの制作技術そのものが社会に流通しようとしているのだ。福祉作業所との協働からはじまるこの取り組みは、同時に進められる工業印刷機を用いたFC仙台によるオフセット印刷実験とあわさることで、石油ならぬ血の通った産業構造を資本主義社会の内部に胚胎させることと受け止めた。素晴らしい取り組みだと思う、本当に。顔料制作の手法をどこまで共有するか、吉田自身の関わり方の設定など社会実装を実現するにあたって越えなければならないハードルは数あることが予想されるが、そのときにいまの社会に最適化させ過ぎてはならず、ヒューマンスケールに立ち戻る余地をつねに内包しておいた方がよいように思われる。充実の展開をつくることの中でいかに手を広げすぎないかが肝になってくるはずだ。一方で仙台の域を超え、FC山形、FC青森とこの事業が広がっていくことを願わずにはいられない。石油に振り回されるのは沢山だ。土地と人とに支えられながらいま大きく成長しようとしている、血の通った本事業に敬意を表しつつ、本稿を終える。


