連載・コラム

事業レビュー|山と材のつながりを想像し、関わりを広げるプラットフォームづくり

レビュワー:奥脇嵩大(青森県立美術館 学芸員)

「文化芸術を地域に生かす創造支援事業(地域助成)」では、観光、まちづくり、福祉、教育等の他分野との連携により社会課題と向き合う公益性の高い文化芸術活動や、市民に優れた文化芸術の鑑賞機会を提供する事業を支援しています。
本コラムでは、「文化芸術と社会の連携推進事業」として採択された事業の活動の様子や、その成果・課題等を、各分野の専門家によるレビュー形式で紹介します。

事業名:山と材のつながりを想像し、関わりを広げるプラットフォームづくり
団体名:建築ダウナーズ
活動期間:2025年6月21日から2026年3月15日まで 
参考URL:https://ssbj.jp/support/grant/report/15105/ 

(おのの)(ふる)へてわれは聞く、落ちくる薪の一つひとつを(*)

 昨年夏ごろ、ロケットストーブの存在を知った。石巻市内にある志賀理江子スタジオで開催された石井洋子さんのトークイベント「私とエネルギー」でのことである。気象庁に勤務するなか南極地域観測隊での経験を経て、現在は南三陸町を拠点に地球温暖化防止活動推進員や自然体験指導員などの仕事をしながらロケットストーブの普及にあたる石井さんは、東日本大震災当時は福島の気象台に勤めておられたという。当時「何かしなければ」と思っていたところに自身のアウトドアの師匠から一斗缶やレンガ等の材料で簡単に作ることができるロケットストーブを教えられ、「これは被災地でも役立つのでは」と直感。被災地にストーブを届けるボランティア活動をしていたそうだ。石井さんが、年間600万トンの石油という形で「生きるために必要なエネルギーを外部から持ち込むしかなかった」南極での観測隊生活を足がかりに、エネルギーの利用に責任をもつことの必要性を感じたこと。次いでロケットストーブの実際的な制作と利用を紹介することを通じて「ほんとうの豊かさ」を説く姿勢には感銘を覚えた。石井さんの具体的な経験を通じて浮かび上がる持続的かつ倫理的なエネルギーの生産と消費の形。社会と個人にまたがる種々のインフラにつながれ、培われるのか損なわれているのか、感じることができているのかいないのか、何一つ判然としないなかで人智を超えた原子の光さえ素手でつかもうとする私(たち)の感性にも響くものが、確かにあるように思われた。

 いまの私たち一人ひとりが立ちかえるべきは、ロケットストーブだ。これしかない!息まき帰ってロケットストーブの効用を語りまくる筆者に妻が「これ行ったらいいじゃん」とチラシを差し出す。どれどれ。県産木材を使用した家づくりを推進している県内企業組合が主催する薪割りイベントが毎月第三日曜日にある、と。なんというタイムリーなイベントだろうか。ロケットストーブだって燃料がなければただのオブジェである。ストーブづくりの前に燃料の確保の仕方について目星をつけておくのは悪くない。妻よ、ありがとう。早速参加だ。割りまくるぞう!
 …参加のち帰宅。結論からいうとロケットストーブの導入については一から考え直さざるを得なくなった。恥ずかしい話だが、薪をぜんぜん割ることができない。いや割れないことはないけれども一株割るのに小一時間かかる。これ、コツをつかんで体になじませるまでどのくらいかかるんだろう。一日に必要な薪は、一冬越すのに必要な薪の量は…なんだかめまいがしてきた。心底情けない。木と自らの存在の遠さに改めて愕然とする。私たちと木との隔たりは思っていた以上に深い。建築ダウナーズが言うように2022年のウッドショックはホームセンターに依存し「山の木にアクセスする選択肢を持っていない」私たちという存在への危機を浮き彫りにしたかもしれないが、事態はより深刻なように思われる。私たちは「山の木」どころか木そのものにふれることができていない。ウッドショックはメルクマール以上のものではなく、ホームセンターの木材は何かに用立てられるべき部材以上の何物でもなく、街路樹はそこにあろうと景観を構成するイメージの一つ以上のものでは、ない。木との「なまの出会い」を隠し、損ない続けることによって私たちの快適さ便利さを旨とするスムースな近代生活は担保されてきた。求めども与えられはせぬ。探せども見出せず。叩けども門戸はあまりにも固し。

写真:櫻井園子


 仙台市市民文化事業団による「文化芸術を地域に生かす創造支援事業」としては2年目、前身の「持続可能な未来へ向けた文化芸術の環境形成助成事業」から数えれば4年目となる建築ダウナーズの今年度の主な活動内容は「山と材とのつながりを想像し、関わりを広げるプラットフォーム作り」という。活動の中で得られた山の木で制作した椅子を展示し、トークイベントなどを通じて木と木材についての話を集め、木材市場での聞き取りを行った。今年度はそれらの活動から浮かび上がってきた木の流通経路をマッピングし、デザインしなおすことへの提言、インタビュー内容の書籍化を目指した準備の様子などがなされている様子からは彼らなりの木材と木材周辺の自然環境やコミュニティへの誠実な向き合い方を感じ、彼らを中心とした文化生態系のあり方が深化充実してゆくさまに感銘を覚える。しかしデザインや書籍化という充実の展開は同時に「一見さん」の参加の敷居を高くしているというか、特定の層にしか波及しない閉じた生態系を、自らを中心にして構築しつつあるようにも見えるのが気になるところである。デザインも書籍も自らの見方考え方を他者と共有するべくしてなされる視覚言語的な処理としての側面がある。処理の過程で木や木材についてその言語を共有することのできる関心のある者は付いてゆけるかもしれない。しかし木へのアクセス手段をもたない大多数の人々にとってはどうだろうか。「プラットフォーム」という語を冠するからには、木と木材に関する「間口の広さ」も同時に追求していってほしいと思う。今年度は荒町市民センターで高齢者を対象とした講座に講師として参加し、これまでのリサーチについて話したり、制作した椅子を紹介したりしたそうだ。このような「ぷらっと」皆が訪れることができるような場所を会場とした活動の機会を拡充させる方向も確保しておいてほしいと思う。建築ダウナーズとしての活動が「木材フェチの集まり(だから自分とは関係ない)」として誤解されないためにも、人間身体に直結する媒体としての、木そのものへのアクセスポイントを増やすことに留意した活動が並行してなされていってほしいと思う今日この頃である。


 最後に気になったというか今後に期待したいことが彼らの活動を助成する仙台市市民文化事業団に対して、ある。木材から環境や周囲のコミュニティを深く思考し実践する建築ダウナーズという、その活動すべてが既にして成果ともいい得る刮目すべき存在を助成することを通して、何を文化として見ているのか、そろそろそれ自体をステートメントとして掲げていってもいいのではないだろうか。そこには文化というカテゴリそのものを内破しつくりかえてゆくような、草ならぬ木の根的な確かな力が渦巻いているように思われてならない。



*シャルル・ボードレール(村上菊一郎訳)「秋の詩」『悪の華』より

掲載:2026年6月16日

奥脇 嵩大 おくわき たかひろ
青森県立美術館 学芸員
1986年さいたま市生まれ。京都芸術センター・アートコーディネーターや大原美術館学芸員を経て、2014年より現職。青森での主な企画に2014-16, 2019年「青森EARTH」シリーズ、美術館での米作りと作品制作を連環させる「アグロス・アートプロジェクト2017-18: 明日の収穫」、地域と芸術のコンヴィヴィアル(自立共生)な関係を探求する2021-24年「美術館堆肥化計画+宣言」、2025-26年「コスモスの咲くとき -地域に学び、平和を刻む教育版画の"いま"」等。生を再設計する場として美術館を扱うことに関心をもつ。あなあきすと。