| 事業名:みえない人とみえるひとが協力して点字を捉え直す仕事づくり 団体名:認定特定非営利活動法人ビートスイッチ 就労継続支援B型事業所希望の星 活動期間:2025年6月23日から2026年3月13日まで |
視覚障害の当事者中心で協働した、点字の商品開発
会話や記憶といった
利用者の強みを活かした働き方をつくるために
このたび視察した「みえない人とみえる人が協力して点字を捉え直す仕事づくり」は、就労継続支援B型事業所「希望の星」(以下、希望の星)が、外部よりデザイナーを招き入れ、点字新聞の素材性と情報性とに着目しながら協働して商品開発を行う事業です。その目的は、「視覚障害のある当事者が、点字新聞という日常的な素材に関わりながら、その中にある情報性、質感、文化的価値を再発見し、それらを社会へとひらいていくこと」。よって、一過性の商品開発で終わらせないために、どのような発展的なプロセスを商品に定着させるか、そのための思考と話し合いが尽くされてきた点が、このプロジェクトの優れた点だと感じました。
とりわけ注目したのは、商品開発において、「モノ」から「コト」へと途中大きく方向性が転換していることです。本事業で当初取り組んだのは、点字新聞の古新聞を活用したアップサイクル製品の開発で、点字新聞の活用という事業所側からの要望をもとに、ランプシェードや箱などの商品開発が進められました。しかしそのなかで、本事業の企画者であり外部デザイナーの佐々木桂さんは、モノのみならず「体験」といったコトを提供する商品開発へと展開することができないかと構想するようになったそうです。
もともとデザイナーでありながら福祉現場にも長くかかわってきた佐々木さんは、本事業においても希望の星に何度も足を運び、視覚障害の当事者である利用者の方とも支援するスタッフの方とも対話を重ねてきました。そのなかで、佐々木さんが利用者の方々に世間話のなかで人名などを訊ねたときの記憶力のよさ、コミュニケーションの豊かさは、強く印象に残ったことだったそうです。また、スタッフの方は、「(利用者の方々は)その場でのメモが難しいこともあって記憶力もすごくいいんですよね」と話していたと言います。佐々木さんは、そうした経験から、支援者の力を借りながらなにかをつくるのではなく、利用者の方々の会話や記憶をもとに、一人ひとりの強みそのものを活かした等身大の働き方を、商品開発を通してつくることができるのではないかと考えました。

見えない人一人ひとりの
具体的な暮らしを伝える商品へ
そのようにしてこのたび生み出されたのが、「点字を解読しながら遊ぶビンゴカード」と「点字おみくじ」です。ビンゴカードは、小学生の福祉学習での活用が想定されているといいます。また点字おみくじには、利用者の方々が日常のなかで感じて強く記憶に留めている事柄を、短い言葉にして点字を打刻しています。例えば、「みそしるの にえる おと」や「おひさまの かおり」などで、点字の読めない人は五十音の説明書にならって点字を解読することができる仕組みです。この点字おみくじというアイデアは、希望の星の利用者さんが、「おみくじを引いても、読むことができない」と話していたことがきっかけの一つだったそうで、佐々木さんは「自分が選んだものを楽しむ喜びのある商品をと考えた」と話していました。
いずれの商品も、目の見えない人と見える人とが同時に体験することができ、点字の情報性を直に体験できるものである点が、特徴として挙げられます。また、点字おみくじに書かれているのは、利用者の方一人ひとりが挙げた言葉ですので、「視覚障害」というイメージの向こう側にある、一人ひとりの暮らしを具体的に知る機会にもなると感じました。

体験や本音を共有することが
福祉現場と専門家との協働を実現する
こうした開発プロセスを経てきた本事業の特筆すべき点は、希望の星スタッフの方々と、佐々木さんをはじめとする外部デザイナーとが、互いの専門性を持ち寄りながら、「利用者一人ひとりの活躍」を第一に、本事業のあり方を模索してきたことではないかと思います。すでに試作を進めてきたモノの開発から、コトを重視する商品開発へと方向転換がなされたわけですが、それは誰かが強く主導したのではなく、目的自体を指標とする対話のあり方によって展開してきたことが重要な点です。私自身が商品開発の現場に関わりながらしばしば感じているのは、福祉現場の方々は、外部から参加するデザイナーなどの専門家に対して、現場の意見を伝えることを遠慮してしまいがちであるということです。そのことにより、「協働」にたどりつけずに終わってしまった事例をいくつも目にしてきました。本事業では、当初のランプシェードの開発を振り返りながら、希望の星スタッフの方が、「利用者さんに『ここをちょっと3センチずらしましょう』と言っても、利用者さんは仕上がりが見えない。それでは、利用者さんが中心の活動にはならないのでは、と感じるなかで、佐々木さんからも『やめにしましょう』と提案があった」と話していたことはとても印象的でした。リーダーシップをもって誰かが主導していくというより、メンバーみんながともに体験と本音を共有しながら積み上げていくこと。そして、同じペースで状況を把握し、点字そのものへの理解を拡げるコトづくりを目指す。そうした理想的な協働のあり方を、この事業は見せてくれているように感じました。

