連載・コラム

ランドスケープから仙台をみる

「杜の都」とうたわれる仙台。『杜の都・仙台 わがまち緑の名所100選』ガイドブックなどもつくられ、広瀬川と青葉山を中心に自然に恵まれた「水と緑の都」とも言われる都市です。それらの資源を十分に生かし、仙台らしい美しい景観をいつまでも保つために、どのように向き合っていきたいか。造園家として、このまちの「ランドスケープ」について考えます。

上原 啓五(株式会社作庭舎 代表取締役/技術士/1級造園施工管理士)

写真提供:(公財)仙台観光国際協会

庭づくりとまちづくり

 いつまでも見ていたい美しい風景に出会ったとき、「ここに住んでみたい」と思うことはないでしょうか。どこに家を建てようか、どんな家を建てようか、どんな素材がいいか、どんな植物を植えようかなどをイメージすると思います。美しい自然の中に調和した建物は、その景観をより美しくします。建物だけでなく、道路、森、農地、すべてのインフラをつくるときにも、ランドスケープデザインが必要です。

 京都の「龍安寺」「桂離宮」「西芳寺」など多くの名庭園は、「借景(しゃっけい)」という手法で文字通り“景色を借り”、周囲の自然を庭の要素として取り込んで作庭しています。それが、唯一無二の、そこにしかない景観をつくり上げているのです。

 どんな豪邸でも、庭のない家は味気ないものです。家と庭が一つになっているその調和が、一段と美しい景観をつくるのです。まちづくりも同じで、建物と周りの自然との調和が美しい景観をつくります。仙台であれば、青葉山や広瀬川を上手に取り入れてまちづくりをすれば、より魅力的なまちになると思います。また、庭には緑や水が不可欠な要素です。京都が観光地として人気があるのは、歴史的な建築と美しい庭が調和し水や緑を大切に扱っているからです。そこにさらに、長い年月の維持管理が加わっているからでしょう。ああいった景観は、コストもかかりますし簡単にはつくれないものです。しかし、それがもたらす利益(価値)は大きいということを理解するべきです。

天守閣自然公園(仙台市太白区) 写真提供:作庭舎

 小堀遠州(こぼりえんしゅう:江戸初期の茶人・造園家)は、大徳寺の塔頭「孤篷庵(こほうあん)」の庭を設計したとき、400年後のことを考えていたようです。実際に、松やチャボヒバは今でも調和を保っています。この例から、将来を見据えた計画が必要だということがよくわかります。

 また、緑のボリュームについては、多ければいいというものでもありません。その質とバランスが大切で、龍安寺の石庭などはいい例です。

 仙台の緑はどうでしょうか。藩政時代の屋敷林は「杜の都」を形成していましたが、近年は“駐車場の都”と揶揄されるようになりました。定禅寺通や青葉通のケヤキ並木は、小さな植桝(うえます)に入れられてなんだか苦しそうです。その他の街路樹の様子もとても気がかりです。樹木は生き物なので成長します。都市の緑は自然のままでは無理があるもの。庭と同じように、毎年維持管理をしなければなりません。そのときの費用対効果は、よく考えて投資しなければ大きな損失になります。たとえば、安くて丈夫で成長が早い街路樹を植えた結果はどうなるでしょう。大きくなり過ぎた木を切ることになり、結果的にコストや時間の無駄が出ることになります。はじめによく計画して、持続可能な景観づくりをすることが重要です。

上杉山通(仙台市青葉区) 写真提供:宮城県観光プロモーション推進室

 庭づくりで大切なことは、数年後にどうなるかを考えることです。このスペースには大きくなりすぎる木は無理だろうとか、この木はシンボルとなる木だからいつまでも残しておきたいとか、植栽計画がとても大切になります。街路樹や公園の緑地も同じです。そもそも仙台は周りにこんなに緑が多いのに、街路樹が必要なのかと思われるところにも植えられていますから、もう少し考えたほうがいいというのが私の正直なところです。

 自然は最も優れたランドスケープアーキテクト(自然要素と暮らしが共生できるデザイン)と言われます。日本の風景、特に東北に見られる水田、畑、雑木林、森林などの緑地は、その景観とコストパフォーマンスが素晴らしいと思っています。間伐や刈払いなどの維持管理をきちんとすれば、燃料になり、二酸化炭素の排出削減や再生エネルギーにもつながります。「庭づくり」と「まちづくり」は、大きな視点から同じではないかと私は思っています。

公園をみればその都市がわかる

 明治維新後に日本は、西洋化するために全国に公園をつくりました。その一つが仙台市青葉区大町にある「西公園」です。時代とともに変遷してきましたが、今でも西公園は、広瀬川と青葉山という仙台らしい景観を一度に見られるという意味でも仙台を代表する公園です。

 公園は、その都市の考えや目指す方向、理念や哲学までが見えてくる場所です。コモンセンス(共通の感覚)がよく表れるのは公園だと言われます。公園を見ると仙台市の緑に対する実態がよく見えてきます。西公園がまさにそうです。現在の西公園で私が一番気になる場所が、空襲で焼け野原になった戦後につくられた「心字池(しんじいけ)」を中心にした日本庭園です。「水と緑の都」をうたう仙台が、公園の中心にある西公園の心字池の水を枯らしたままにしているのは寂しく思います。

心字池

 また、仙台には保存緑地に指定された素晴らしい森があります。森は手入れをしなければよくなりません。しかし、間伐や下刈りをする人手がない状態なのは課題だと思います。

 この課題は街中の緑にも当てはまります。仙台市には「百年の杜づくり」という標語があります。しかし今のままでいくと、街路樹や公園の樹木はどんどん成長し、メンテナンスに追われるでしょう。温暖化により仙台も亜熱帯地域のように高温多湿になり、それがかえって植物には好条件でよく成長するようになります。そのため、適度な間伐が必要になります。「木を切ってはいけません」という考え方は、都市には当てはまらないでしょう。

 私は専門が公園緑地の技術士です。そもそも公園は“楽しいところ”であるべきと思うのですが、公園を計画していて本当に楽しめる公園をつくった記憶は残念ながらありません。制約が多く、自由がない規格品を寄せ集め、法規に縛られ計画することが苦痛でした。計画の段階でさえ楽しくないのに、楽しい公園はできないでしょう。たまに公園設計の公募もありますが、これも制約が多く、エントリーするにも実績が重視されます。でも本来なら、新しいことをするには前例がないのがあたりまえで、前例や実績に縛られていては新しい場づくりは難しいと感じます。

 もっと新しいことに挑戦するクリエイターが集まり、楽しい公園が増え、楽しいまちになれば、“街力”もおのずとアップするでしょう。ぜひ仙台の公園も見直していきたいものです。

掲載:2023年9月11日

上原 啓五 うえはら・けいご
技術士 建築部門(都市及び地方計画)/1級造園施工管理技士
1964年東北学院榴ヶ岡高校卒業、1970年中央大学経済学部卒業、1974年~1984年㈱鹿の子園 常務取締役、1984年~㈱作庭舎設立、代表取締役。「カフェモーツァルト」(仙台市青葉区)や、「秋保天守閣公園」(仙台市太白区)、「円通院」(松島町)、「竹泉院」(遠刈田町)などを手がける。