連載・コラム

いま訪れたい仙台の文化を育む新しい「場」

『季刊 まちりょく』特集記事アーカイブ

『季刊 まちりょく』vol.35掲載記事(2019年6月20日発行)※掲載情報は発行当時のものです。

 ミュージアム、ギャラリー、スタジオ、イベントスペース・・・。それぞれの街には、その土地の文化を伝え、育み、支えていく場所があります。人が集う「場」があり、そこでの出会いや交流があってこそ、新しい活動が生まれていくのだと言えるでしょう。

 今回は、今春新たにオープンした場所を訪れ、運営に携わる方にその思いをお聞きしてきました。新しい動きを感じに、みなさんもぜひ足を運んでみてください。


2019年1月オープン
スタジオ開墾

 「イベント倉庫ハトの家」として使用されてきた遊休倉庫が、アーティストやクリエイター向けシェアスタジオ「スタジオ開墾」としてオープンしました。

 「Gallery TURNAROUND」オーナーであり、「せんだい21アンデパンダン展」実行委員メンバーとして、また私塾「仙台藝術舎/creek」の代表として、仙台のアートシーンを支えてきた関本欣哉さん。制作環境も整えたいと場所を探していたところ、2017年末、とうほくあきんどでざいん塾 * からハトの家をシェアスタジオにしたいという相談が寄せられました。関本さんは、立地も広さも抜群のこの場所が使えるのは願ってもない機会だと検討メンバーに参画。2018年4月から有志によるワークショップ形式でスタジオの機能の検討や設計を行い、8月には施工を開始、今年1月のオープンにこぎつけました。現在は、倉庫の所有者である協同組合仙台卸商センターが管理を行い、関本さんがスタジオ運営ディレクターとして施設全体のディレクションを行っています。

*仙台市経済局、協同組合仙台卸商センターによる協働事業(2019年4月で終了)。現在は「So-So-LAB.」として新たな活動を展開している。

改修中の一番の思い出は、毎日仲間とご飯をつくって食べたこと。ここで活動をともにしたメンバー同士で新しい企画を立ち上げたりと、今も活動が続いている。(撮影:関本欣哉)
スタジオ運営ディレクター
関本欣哉さん
「僕自身も、ここでの経験や出会いからさまざまな活動のヒントやアイデアをもらっています」

 卸町とシェアスタジオ。地下鉄東西線開通でアクセスが良くなったこと、制作につきものの「音の問題」が比較的少ないといったメリットはもちろん、仙台卸商センターの存在も大きいと関本さんは言います。「ここには、さまざまな素材のプロフェッショナルがいます。制作に必要な材料が出てきたら、まず仙台卸商センターさんに相談してお店を紹介してもらっています。心強いですよ」。卸町に「つくる場所」が生まれたのはある意味必然だったのかもしれません。

 「遊休倉庫に最小限の施工を加えた」スタジオは、天井も高く開放感のある空間に仕上がっています。共有制作スペース、展示イベントスペース、会員向けの専用ブース、カフェ&ショップの4つの区分に分かれ、7つある専用ブースは現在満室、3月には仙台の人気劇団「短距離男道ミサイル」の演劇公演が開催されるなど、滑り出しも上々です。

 シェアスタジオで一番大切にしているのが「交流」。制作途中の作品に意見をもらったりアイデアを交換するだけではなく、シェアスタジオが縁で一緒に作品をつくったり、仕事を紹介しあう、といった動きもすでに生まれているとのこと。また、市内中心部からのアクセスの良さを活かして、ゆくゆくは、作品をいつでも観られるようにして市外・県外から来た人に仙台のアートシーンを紹介するような役割も果たせるような場所に育てていきたいとも考えています。「家で制作していたらお客さんを招きづらいですが、シェアスタジオだったら気軽に人を招き入れることができますよね。挨拶するだけではなくて、作品も一緒に紹介できれば説得力が全く違ってきますし、次につながる可能性がぐんと高まります。出会いや交流の機会が内にも外にも開かれていることが、一番の魅力ではないでしょうか」と関本さん。

専用ブース。9:00〜23:30と長時間使用できて、光熱費、Wi-Fi料金込みで月2万円の賃料は格安。
写真(右)は吉田亜美さんのブース。毎日のように通って制作を続けている。

 さらに、「共有スペース」があることもこのシェアスタジオの大きな魅力となっています。共有制作スペースや展示イベントスペースは、それぞれ3時間・1日単位から誰でも利用することができ、しかも、10時から19時半までは専門スタッフが常駐しているのが嬉しいポイント。機材の使い方はもちろんのこと、「こんなものがつくりたいけれどどうしたらいいか」「もっとよい展示方法はないだろうか」といった相談も大歓迎とのこと。また、併設されたブックカフェスペースだけの利用もOK。近隣にある10-BOXや能−BOXの公演の行き帰りにふらりと立ち寄ることもできます。「つくる側」だけではなく「みる側」の人も気軽に利用できる仕組みが準備されています。

2階は収納スペース。現在は個展(11月2日〜2020年1月12日、せんだいメディアテーク)に向けて準備を進める仙台在住の美術作家・青野文昭さんの作品や収集した資材が保管されている。

 「スタジオ開墾」は、英語の「culture(文化)」が、「耕す」を意味するラテン語「colere」に由来していることに着想を得ています。土地を耕すように文化の土壌を耕し、その土壌から新しい表現や人が育っていく。そして、そんな動きがやがて地域にも広がっていき、卸町に新しい風を吹かせたい。そんな思いがこの名前には込められています。この場所がどんな作物を実らせていくのか、今から楽しみです。

共有制作スポット。美術に特化した機材が備わっているのはシェアスタジオならでは。
カフェ&ショップ。美術や文学に関連する選りすぐりの古書が整えられていて、誰でも利用できる。

スタジオ開墾

〒984-0015 仙台市若林区卸町2-15-6 TEL 022-352-5135
10:00〜19:30 月曜定休
仙台市地下鉄東西線「卸町駅」から徒歩9分
https://www.instagram.com/kaikonsendai/

注記)スタジオ開墾は2022年3月31日をもって運営休止されました。

これからの予定

sendai×taipei artannual(仮) 2019年9月3日(火)〜15日(日)
TALK「一丸となってバラバラに生きる 新たな生の在り方とは。(仮)」 2019年9月14日(土)
「せんだい21アンデパンダン展2019」 2019年9月24日(火)〜10月6日(日)

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2019年1月オープン
東北福祉大学芹沢銈介美術工芸館

 人間国宝・芹沢銈介(1895〜1984)の型絵染作品と世界各国の工芸品を収蔵・紹介するミュージアムとして1989年に東北福祉大学国見キャンパスに開館した芹沢銈介美術工芸館。美術・工芸ファンに長らく愛されてきたこのミュージアムの移転のニュースには驚いた方も多かったのではないでしょうか。移転先は同大学の仙台駅東口キャンパスの2階。

撮影:芹沢銈介美術工芸館

 「移転が決まったときは、正直不安もありました」とお話してくださったのは学芸主査の本田秋子さん。これまでのお客さんがついてきてくださるか、芹沢銈介の作品世界を楽しんでもらえる空間をつくることができるのか、考えなければならないことが沢山あったといいます。しかし、約6ヶ月間にわたる準備期間を経て開催した移転記念展「人間国宝・芹沢銈介〜文様万華〜」での来場者の様子をみて、不安は期待へと変わっていったといいます。

館銘板は、国見キャンパスで使用していたもの。開館以来の歴史を守りつつ、新天地でさらに挑戦を続けるようという学芸員のみなさんの思いが伝わってくる。

 記念展のアンケートでは来場者のうちなんと約半数が「初めて訪れた」と回答、美術工芸館を目的に訪れる人が多かった国見キャンパス時代には出会えなかった来場者層の出現は大きな手応えとなりました。また、什器が備えられた展示空間からひと続きの大きな空間に移転してきたことで、仮設壁、立体展示など新しい展示手法に挑戦できるようになり、これまでとは違った芹沢作品の魅力の伝え方も発見することができました。

学芸主査 本田秋子さん
「宝箱を開けるときのわくわくするような気持ちになっていただける美術館を目指しています」
受付と事務所を区切る窓ガラスには型絵染に使われる型紙が。以前館内展示のために準備して使わなかったものを活用したとのこと。事務所からもお客様の雰囲気が感じられてよいのだとか。生活をデザインする工芸の精神が、ここにも息づいている。

 収蔵品は今も国見キャンパスの収蔵庫に保管、展示スペースは、収蔵品を鑑賞しながら学習・研究できる学生用のコモンスペースとして利用されています。企画毎に作品を運び出して展示することになるのは大変では?との問いかけにも、「私たちは2つの場所を行き来しながら、今、みなさんに見ていただきたいものをよりすぐってこの場所で芹沢銈介の魅力を発信することができます。また一つ拠点が増えたとも言えますよね」と、いたって前向き。日本各地、そして世界から人が集まる仙台駅近くという立地を活かして、芹沢銈介作品の魅力を広く伝えていくこと。今後の方針が見定まってきました。

「ここが予備校だったとは思えない」と来館者が驚くほどに変貌を遂げた展示室。美術館らしい布張りの壁、一部高くした天井、幅木や床の色など、細部に至るまで経験豊かな学芸員ならではの工夫が。
のれんの機能を意匠に取り込む手腕はさすがの一言。「この山みちをいきし人あり」は釈迢空(折口信夫)の短歌の下の句。
TFUカフェテリア・オリーブ。
Gakushokuランチなど、地元の食材を使ったメニューが人気。自家焙煎した豆で淹れたコーヒーはテイクアウトもできる。

 仙台駅東口は、再開発を経て大きく生まれかわりましたが、文化施設はまだまだ不足しています。そのなかで、東北福祉大学は、教育施設に加え、TFUギャラリー ミニモリ、生涯学習支援室、仙台元気塾、カフェテリア、そして美術工芸館といった一般公開施設をこのキャンパスに集約させることで、さまざまな体験と学びを提供する、地域に開かれた文化拠点としての役割を果たそうとしています。

 「制約があるからこそ、思いがけなく生まれてくるアイデアや可能性がある。こういった発想は、芹沢銈介が生涯取り組んだ<型絵染>というジャンルにも通ずるものがあるかもしれませんね」と微笑む本田さんの頭の中は、すでにたくさんのアイデアが詰まっているようでした。

東北福祉大学芹沢銈介美術工芸館

〒983-8511 仙台市宮城野区榴岡2-5-26
10:00〜17:00(入館は16:30まで) 月曜休館(祝日の場合は翌日)
一般400円 大学・専門学生300円
高校生以下/障がい者の方とその介助者1名は無料
JR「仙台駅」より徒歩3分
https://www.tfu.ac.jp/kogeikan/

注記)最新情報は東北福祉大学国見キャンパス(TEL:022-717-3318)までお問合せください

これからの予定

企画展「夏を彩る 藍色のれん -芹沢銈介作品より-」 〜 2019年8月18日(日)
企画展「芹沢銈介の広告デザイン」  2019年9月19日(木)〜10月20日(日)

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2019年4月オープン
古本あらえみし

 出版にとどまらず、本にかかわるイベントの開催や仙台短編文学賞実行委員会の運営など精力的な活動で注目を集める仙台の出版社「荒蝦夷」が古書店をオープンしました。仙台駅東口から歩くこと約5分。大通りから一本奥に入り、さらに小道を入った閑静なエリアの、2階建ての民家がお店です。

 玄関のドアを開け、用意されたスリッパに履き替えて暖簾をくぐると、壁一面に本がぎっしり。「災害を読む」「東北を読む」「ミステリ・幻想文学」「写真集」など、独自の分類で本が並べられています。現在取り扱うのは、荒蝦夷代表の土方正志さんが、学生時代から東京での編集者・ライター時代を経て現在に至るまで、仕事や趣味で収集した蔵書約2万点です。

アットホームな雰囲気につい「ごめんくださ〜い」と声をかけてお店に入る人も。暖簾の先にどんな本が待っているのか、期待がふくらむ。

 古書店開業にあたっての思いをたずねると、「特にないんですよ」と茶目っ気たっぷりな笑顔で答えてくださった土方正志さんと千葉由香さん。長年本づくりに携わってきたお二人にとって、「本を売る」という意味では出版社も古書店も同じ、「これまでやってきたことの延長線上」とのこと。だからこそ、2階に出版事務所を構え、1階で古書店を営むという発想がごく自然に生まれたのかもしれません。

目指したのは土方さんが愛した「昭和の古本屋」。壁いっぱいに本が並べられた空間に身を置くと学生時代を思い出して嬉しくなる。店内には仕事を通じて土方さんのもとに「自然と集まってきた」逸品がさりげなく展示されているのを見つけるのも楽しい。

 長らく「本屋がない」と言われていた仙台駅東口。出版を軸に複数の事業を展開する自分たちのスタイルなら可能性があるのではないかと、この場所での出店を決めました。気がつけば「仙台駅に一番近い古本屋」。地元の人だけではなく、遠方の「古本マニア」も気軽に訪れることができます。

特集スペース。初回は蔵書のなかから貴重本を選りすぐって紹介。
新刊コーナー。全国の「元気の良い」出版社を紹介する「地方小出版フェア」と、荒蝦夷の出版物紹介コーナーで構成。フェアの初回は沖縄の出版社「ボーダーインク」を紹介。編集者の新城和博さんは、震災後に家族で仙台を訪れてくれた仲。

 取材に訪れた日はオープンしてまだ1週間でしたが、貞山堀や荒浜など地元の資料を探しに来た青年、東日本大震災に関する本を探しに来た老夫婦など、さまざまな人が来店し、それぞれお目当ての本を買い求めていったといいます。なかでも土方さんの印象に残っているのがSF研究会の大学生2人組。若い頃に土方さんが愛読したミステリ文庫を見つけ、少々高めの値段にも「新幹線代をかけて神田神保町の古本街まで行くことに比べたら、地元で見つけられるなんてむしろラッキーです」と喜々として手に取ってくれました。本への思いが若い世代に受け継がれていく現場に立ち会えるのは、何ものにも代え難い喜びです。

2号店。1号店から歩いてすぐ、まさに「目と鼻の先」。ミステリと翻訳ものを中心に取り揃えている。
左から「店長」の土方正志さん、須藤文音さん、千葉由香さん。他のスタッフも交えて接客にあたる。

 隣接する2号店と合わせて約70㎡という決して広くはないお店にも関わらず、欲しかったものが見つかる「打率のよさ」に驚くと、「出版社の倉庫を公開しているようなものですから。荒蝦夷だったらこういう本は持っているだろうと期待して来てくれているのだと思います」と土方さん。古書店として本格的に運営する体制が整いましたが、新たに取り扱う古書も、内容にはこだわっていくとのこと。土方さん蔵書の「お宝」もまだまだ倉庫に控えているということですから、「土方印」「荒蝦夷印」の本に出会える楽しみがますます増えそうです。

 「つくることから売ることまで、新刊から古書まで、本にまつわる全部」を手がける荒蝦夷。肩肘張らず、「本のおもしろさ」を発信する場所に今後も要注目です。

古本あらえみし

〒983-0852 仙台市宮城野区榴岡4-7-12 TEL 022-298-8455
12:00〜20:00(土・日・祝12:00〜19:00)水曜定休
JR「仙台駅」東口より徒歩5分
http://araemishi.la.coocan.jp/

これからの予定

〈荒蝦夷の仲間たち〉地方出版社フェア「寿郎社」  2019年6月〜7月
第2弾は、批評精神溢れる本を多数世に出してきた札幌の出版社を紹介。
*通常の本棚は新刊・旧刊問わずどんどん入れ替わります。

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『季刊 まちりょく』は、(公財)仙台市市民文化事業団が2010~2021年に発行していた情報誌です。市民の方が自主的に企画・実施する文化イベント情報や、仙台の文化芸術に関する特集記事などを掲載してきました。『季刊 まちりょく』のバックナンバーは、財団ウェブサイトの下記URLからご覧いただけます。
https://ssbj.jp/publication/machiryoku/