連載・コラム

大学のミュージアムロビーに行ってみました

『季刊 まちりょく』特集記事アーカイブ

『季刊 まちりょく』vol.31掲載記事(2018年6月20日発行)
※掲載情報は発行当時のものです。現在の各施設の状況については、各施設のウェブサイト等でご確認ください。

昨年好評だった特集の第二弾。今回のレポーターは、フットワーク軽く、まちなかのニュースを見つけているライターの渡邊真子(わたなべまさこ)さん。前々から気になっていたという「大学ミュージアムらしからぬ」2施設を訪れました。このレポートを読み終えたら、きっとあなたも立ち寄ってみたくなるでしょう。

文・写真:渡邊真子

仙台市出身。尚絅女学院短期大学英文科卒業
London College of Printing and Distributive Trades, Creative Mediaコース修了
現在、合同会社イーストタイムズ勤務
TOHOKU360通信員としてもローカルニュース記事を執筆

東北福祉大学・鉄道交流ステーション

 仙台駅から仙山線の下り電車に揺られること11分。JR「東北福祉大前駅」を出ると、すぐ目の前に東北福祉大学ステーションキャンパス館が現れます。建物に向かって真っ直ぐ進んで行くと、電車の大きな車輪がお出迎え。その車輪の真裏に、今回の目的地「鉄道交流ステーション」があります。

注記)2022年11月現在、展示室および模型館は閉室となりました。鉄道交流ステーションについての情報はウェブサイト等をご確認ください。

東北福祉大学ステーションキャンパス館
かつて仙山線でも活躍した455系電車の車輪

 早速建物の中へ入ってみると、まず目に飛び込んで来たのは緑色のレトロな電車の座席!懐かしさが漂うシートに腰を下ろし、束の間の電車の旅気分に浸ってみます。通路のガラス張りの展示コーナーの中には、仙台市電で実際に使われていた敷石と、その背後には仙台市電が走っていた当時のモノクロ写真が飾られていました。

455系電車の緑のシート
仙台市電の敷石と写真

 鉄道交流ステーションの入口扉の向こうでは、企画展『仙台周辺にある鉄道の遺産・遺構を訪ねる』の展示が始まっていました。入口正面に掲げられたパネル写真は、市周辺に静態保存されている車両写真。入口右手には「仙山線土木遺産群」の写真が展示されています。これらの展示パネルのすべては、「みちのく鉄道応援団」など鉄道好きの方々のボランティア取材や資料提供もいただきながら、学芸員の鈴木さんが学生スタッフと制作したものとのこと。企画展の内容は3ヶ月毎に変わるそうですが、「とにかく色んな方にお手伝いいただいてやっています」と、強力な鉄道ファンのサポートあっての展示なのだと、自称「なんちゃって学芸員」の鈴木さんは力説します。

学芸員の鈴木佳子さん
市電の展示物

 今回の企画展の中でも、特に目を引いたのは、「東北本線(旧山線)」「塩釜線」「仙石線(旧線)」「仙台市電」「仙台鉄道」「秋保鉄道」と、昔の鉄道の痕跡を訪ね歩く展示写真の数々。「本当はもっと大きい写真でお見せしたかったのですが、スペースの都合上小さくなってしまいました」と鈴木さんが言うように、パネル写真が壁一面にズラリと並びます。こんな所にこんなものがあったのか!?と、その土地に昔から住む人でさえも忘れているかもしれない鉄道の遺産や面影が、県内のあちこちにまだ残っていて、順を追ってパネル写真を見ながらその解説を聞いているだけでも、実に面白い!これはまさしく2Dで味わう鉄道版”ブラタモリ”です。

パネルの解説をする鈴木さん

 中でも、鈴木さんイチオシの鉄道痕跡写真は、塩釜線にあった野田の玉川にかかる煉瓦造りのイギリス積みの橋台。「東北地方で最も古い時期の鉄道構造物なのではないかと推測しているんです」。そんな鈴木さんの説明を聞いている内に、昔の鉄道が走っていた頃の景色が思い浮かんできて、鉄道への興味がどんどん増してくるから不思議です。鉄道交流ステーションを存分に楽しむポイントとして、学芸員の鈴木さんやボランティアの方々(ネームホルダーを首からぶら下げてます)に展示物の解説をしてもらうことをぜひおすすめします。また、館内では鉄道交流ブックレットも販売しているので、より詳しく知りたい方は、そちらも必見です。

鈴木さんイチオシの橋台
展示室に常設されているZゲージ模型。レール幅6.5mm
展示室を出た廊下奥に模型館があります

 鉄道交流ステーションの扉を出て、続いて向かったのは、「鉄道模型館(TFUスカイトレイン)」。所狭しとレイアウトされた鉄道模型は、マニアでなくても、ワクワクするような光景でした。新幹線はもちろん、ヨーロッパの貨物列車や登山電車など、日本と世界の鉄道が同時に楽しめて、あちこちから次々とやってくる列車につい目を奪われてしまい、ずっと眺めていられそう。開館日には、多くのボランティアの方が在室していて、たくさんの列車の模型をレールの上で走らせているのですが、その様子はインスタグラムでも配信されているので要チェック。Instagram:tfuskytrainhttps://www.instagram.com/tfuskytrain/

*6・7月はメンテナンスのため「鉄道模型館」は休館です。8月以降の開館日についてはお問い合わせください。

こんなところに「北仙台駅」が

 「東北福祉大前駅」の出入口があるのは実は建物の3階部分。その3階の鉄道交流ステーションの真向かいには、明るく開放的な「GAKUSHOKU ステーションカフェ」があります。これからの季節には外のテラス席もおすすめ。パスタやうどん・そばなどのお食事メニューのほかに、スイーツも楽しむことができます。そして、外階段から1階に降りた道路沿いにあるのが、一見学食には見えない「GAKUSHOKU 郷(ふるさと)」。どうみても居酒屋です。定食や丼ものメニューがリーズナブルな価格で楽しむことができます。

GAKUSHOKUステーションカフェ
GAKUSHOKU郷
ステーションカフェのパスタランチ

注記)2022年11月現在、カフェ・学食は閉店しました。

 2007年に「東北福祉大前駅」が開業したのを機に開設された鉄道資料館「鉄道交流ステーション」ですが、その誕生の背景には、重要な日本鉄道の歴史がありました。

 「戦前、首都圏や長大トンネルは直流で電化されていたのですが、戦後、地方に電化路線を延ばしていくときにコストが安い『交流電化』が検討され、仙山線で試験されて国産の技術が開発されました。いまの新幹線の技術の原点です。でも仙山線が『交流電化発祥の地』であることはあまり知られていないんです」と少し残念そうな鈴木さん。

 鉄道の歴史を広く伝えるとともに、大学関係者だけではなく、駅を利用する地域の人々が気軽に出入りできる「地域共創」の交流の場として誕生した鉄道交流ステーション。仙山線利用の時間調整時など、駅の利用客は館内で展示を観たり、お茶をしながら待機したりと、ステーションキャンパス館はもはや駅ビル的存在としても親しまれているようです。

 鉄道への興味が一気に高まること間違いなしの鉄道交流ステーションを訪れる際の交通手段は、もちろん仙山線で!

おみやげのえはがき(仙山線沿線のかわいいイラスト!)

東北福祉大学・鉄道交流ステーション(TFU鉄道交流ステーション)
第33回企画展『仙台周辺にある鉄道の遺産・遺構を訪ねる』

2018年7月7日(土)まで開催中 10:00〜16:00
休館日:毎週日・月曜日、祝日 *入場無料
*次回予定 第34回企画展「鉄道のためにはたらく乗りもの」2018年8月1日(水)〜11月2日(金)
※企画展を開催しない期間は、展示替のため休館となります

鉄道模型館(TFUスカイトレイン)

開館時間:11:00〜16:00
6・7月はメンテナンスのため休館 8月以降の開館日についてはお問合せください

〒981-8523 宮城県仙台市青葉区国見1丁目19-1
東北福祉大学ステーションキャンパス ステーションキャンパス館3階 TEL:022-728-6612

注記)2022年4月の大学組織改変により、鉄道交流ステーションは「地域創生推進センター 生涯学習支援室『鉄道交流ステーション』資料係」に変更、2022年11月現在、展示室および模型館は閉室となりました。このほか最新情報はウェブサイト等をご確認ください。

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東北工業大学 一番町ロビー

 サンモール一番町を南に抜け、南町通りを渡ってすぐのコンビニ隣にある「東北工業大学 一番町ロビー」。その存在自体は知っていたのですが、これまでなかなか入るきっかけがなく、今回初めての潜入!

 「大学は八木山にキャンパスがあるのですが、街中での情報発信と地域交流の場として2003年にオープンして、今年の10月で15周年を迎えます」そう説明していただいたのは、一番町ロビーに常駐する事務職員の佐藤博子さん。

展示の様子(真ん中が佐藤さん)

 佐藤さんの案内で早速展示物を拝見。このロビー1階のギャラリーでは、展示内容が1週間ごとに変わります。訪れたこの日の展示は、東北工業大学建築学科の新入生オリエンテーションで行なわれたワークショップ課題の最終成果物。138名の新一年生全員がグループに分かれて、仙台の街中を歩きながら、建築やまちづくりについて学生の視点で捉えたものがA1判模造紙に手描きでまとめられ、壁一面に展示されていました。まさに手作り感溢れる発表作品ですが、説明やイラストなどをよく眺めてみると、仙台の街の歴史を紐解くものや近代的な建築物を集めたもの、路地裏や「杜」に焦点をあてたものなど、建築業界を目指すタマゴたちだけあって、なかなか面白い発表内容でした。

展示の様子
立体に見えるメガネもチェック

 通常の展示や催しは1階ギャラリーで開催されますが、2階にあるホールでは、定期的にオープンカレッジも行われているとのこと。なかでも人気のある企画が、宮城県美術館・仙台市博物館とタッグを組んで行われる「まちなか美術講座」と「まちなか博物館講座」。美術館や博物館の学芸員が講師を務め、一番町ロビーを会場に行われる参加費無料の講座です。「まちなか博物館講座」では、博物館の企画展に関連した内容の講座が主に行われるのですが、「伊達政宗」に関連した昨年の講座は、毎回定員オーバーになるほどの大人気ぶり。定員の倍以上の人が押し寄せ「2階のホールに入り切らず、1階とモニターでつないで行なったこともあります」と佐藤さん。仙台市民の政宗愛はやはりスゴイ!

まちなか博物館講座「政宗と関ケ原」

 この一番町ロビーでは、東北工業大学関連の催しが中心となりますが、一般の方誰でもがギャラリーとしても利用可能です。(条件を満たせば、なんと無料で借りることもできるとのこと)。こんな街中で自分の作品が展示できるなんて素晴らしい!ちなみに、毎年恒例の「夏休み親子ブーメラン教室」は、知る人ぞ知る人気イベントだそう。

ブーメラン教室
ロビーコンサート

 「大学の施設ということでなかなか入りづらいイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、ここは常にオープンなので、もっと気軽に立ち寄っていただけたら嬉しいです」と佐藤さん。展示や講座をめがけて来るもよし、また、買い物のついでにフラッと立ち寄るもよし。ソファもあるので、ちょっとひと休みもできますよ。穴場です。

Welcome

東北工業大学 一番町ロビー

開館時間:10:00〜19:00(展示最終日は18:00まで) 休館日:木曜日
〒980-0811 仙台市青葉区一番町1-3-1 TMビル(旧ニッセイ仙台ビル)
TEL:022-723-0538
1Fギャラリーイベント http://www.tohtech.ac.jp/topics/lobby
オープンカレッジ http://www.tohtech.ac.jp/topics/opencollege


注記)最新情報はウェブサイトをご確認ください。


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『季刊 まちりょく』は、(公財)仙台市市民文化事業団が2010~2021年に発行していた情報誌です。市民の方が自主的に企画・実施する文化イベント情報や、仙台の文化芸術に関する特集記事などを掲載してきました。『季刊 まちりょく』のバックナンバーは、財団ウェブサイトの下記URLからご覧いただけます。
https://ssbj.jp/publication/machiryoku/